自主企画としての映画上映会「フランス映画と女たち」?博士後期課程?竹内 航汰さんインタビュー?
外大生インタビュー
フランス文学?映画を研究しながら、ご自身で映画上映会の企画?運営もされている博士後期課程 2 年の竹内航汰(たけうち?こうた)さん。今年は 8 月末から 9 月頭にかけて「フランス映画と女たち」というタイトルで、日本未公開作品を中心とした映画上映会が行われます。「映画上映会は、自分の研究成果の発信の場なのかもしれません」と語る竹内さん。ご自身の研究テーマと、映画上映会についてお話を伺いました。
取材?執筆:大学院総合国際学研究科博士前期課程1年 星野 花奈(広報マネジメント?オフィス 学生広報スタッフ?学生ライター)
???まず、竹内さんの研究テーマについてお聞かせください。
20 世紀のフランスの小説家であり、映画監督でもあったマルグリット?デュラスという作家の作品を研究しています。マルグリット?デュラスはインドシナで生まれて、フランスに移り住んだ人物です。デュラスは恋愛小説を書いた作家として世界的に認識されているのですが、彼女は同時に、彼女が生きていた時代の三面記事、特に殺人事件の新聞記事を基にした小説や映画も残しています。私はそうした三面記事を基にした作品を研究しています。
???ご自身の研究テーマに関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
子どもの頃から物語形式を持ったあらゆるものに強い関心を持っていました。そのため、「いつからこのテーマに関心を持ったか」ということについては、実はあまり意識したことがありません。ただ考えてみると、例えば女性による犯罪を扇情的に報道する番組を見たりして、「社会はなぜこれほどまでに女性の犯罪者や、それを基にしたフィクションに興味を持つのだろうか」という疑問はずっと心の片隅にありました。
(自主企画としての映画上映会)
???次に映画上映会についてお聞きしたいと思います。映画上映会をご自身で企画?運営されているとのことですが、こうした上映会を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
昨年から「フランス映画と女たち」というタイトルで、日本未公開の作品を中心に、自分で字幕をつけて上映しています。近年は女性の映画監督を特集した上映会が、東京都内を中心にたくさん開催されています。もちろん女性の映画監督自身に注目することは重要なのですが、映画と女性の関係を考える上では、作品の中における女性の表象に注目することも重要だと考えています。そうした考えのもと、「日本では配給会社がなかなかつかないけれども、上映したら鑑賞者にとって有意義なものになるだろう」と思う作品の知識を自分は持っているので、それを発信していこうと思い、始まったのがこの企画です。
???昨年から「フランス映画と女たち」というタイトルで映画上映会をされているとのことですが、やはりご自身の研究テーマと映画上映会は密接に関係しているということですね。
そうですね。そういった意味で、映画上映会は自分の研究成果の発信の場なのかもしれません。
???今回は映画 5 作品と、フランスの女優アヌーク?エーメ追悼特別上映が行われるとのことですが、作品を選ぶ基準はあるのでしょうか。
大きく 3 つあります。1 つ目は日本未公開の作品であることで、この点は重要視しています。2つ目は、鑑賞者がエロティックな欲望を持つことができない女性像を扱った作品であることです。映画鑑賞の歴史において、スクリーンの中の女性はエロティックな欲望の眼差しの対象となってきました。そうではなくて、どちらかと言えば「どのように観たらいいか」と鑑賞者が戸惑うような女性像を扱った作品を選ぶようにしています。3 つ目は、いま現在、すなわち 2024年の東京で観る価値があると思われる作品を選ぶことを意識しています。つまり、現在の社会で起きた事件や出来事と照らし合わせて何かを感じ取れるような、鑑賞者の日常生活や思考を揺るがすような、そのような作品を選ぶようにしています。
???今回の作品リストを見ると、2013年公開の『ソルフェリーノの戦い』を除けば、1960年代?1980 年代の作品と、比較的古い作品を扱っています。上映会の開催にあたっては、そうした数十年前の映画をただ公開するのではなく、現在との繋がりも意識して作品を選んでいるのですね。
そうですね。最新の映画ではないけれど、「いまこそ観たい」と思えるような作品を選んでいます。
???映画上映会を開催する難しさや、やりがいはどこにありますか?
この上映会は、企画、配給、企業との交渉、字幕翻訳などを基本的に全て自分でやっています。字幕翻訳や交渉など、フランス語を使う場面では苦労が多いです。特に字幕翻訳は文学作品のオマージュや当時の流行歌の替え歌なども多いので、かなり苦労しています。しかし、日々の研究で培った知識をもとに、そうした細部にもこだわる翻訳を目指しています。
このように難しさを感じる場面もあるのですが、もちろんやりがいもあります。来場された方々が SNS やブログで自分なりの感想を書き込んでくれているのを見ると、上映会を開催して良かったなと思います。
(研究と映画上映会の「これから」)
???竹内さんの将来像や、映画上映会の今後についてお聞かせください。
まず、研究を続けていきたいと考えています。上映会については、昨年より今年の方が規模が大きくなっているように、この先もさらに大規模なものにして開催していけたらなと考えています。加えて、上映会を行う上では、特に若年層の来場者を増やしたいという思いが強いです。自分と同じ若い世代の人たちと一緒に、映画を含めたフィクションに触れて、何か社会のことを考えるきっかけにしていきたいと考えています。
???最後に、読者の方々に向けて、ご自身の研究の魅力や映画上映会に向けたメッセージをお願いします。
フィクションの研究をするということは、「虚構の中に沈み込むこと」だと考えられる傾向があります。しかし、もちろんフィクションも社会と繋がっていますし、フィクションは作品それ自体だけで存在しているわけではありません。私たちはフィクションを通じて社会を考えています。そういった意味で、「文系は不要だ」、「文学なんていらない」、「外国語は AI でもできる」と言われる時代になったとしても、やはり人文科学の研究は人と人との繋がりに深く関わっているものとして重要だと思います。
上映会に向けたメッセージですが、一人でも多くの方にご来場いただき、有意義な時間を過ごしていただけたら嬉しいです。と言うのも、上映会には映画批評?研究の第一線で活躍している方々をお呼びして、解説もしていただいています。こんなにも社会の、あるいはフランス映画の最前線に触れられる機会はなかなか無いと思うので、ぜひ大学生も含めた多くの方々に足を運んでいただければと思います。
最後に、これは本学の仲間たち?後輩たちへのメッセージとなりますが、学びは教室内で完結するものではなく、教室外でも学ぶことはあると考えています。私が学部生の頃に一番勉強した場所は、古本屋と映画館でした。私が大好きな寺山修司の「書を捨てよ、町へ出よう」という言葉じゃないですけれども、ぜひ本学のみなさんにも映画館に来ていただいて、ある種のフィールドワークを一緒にできたら嬉しいです。
映画上映会の情報
イベント名 : フランス映画と女たち PART2
期 間 : 8/23(金)?8/24(土)?8/25(日)?8/30(金)?8/31(土)?9/1(日)
会 場 : 東京日仏学院エスパス?イマージュ
サ イ ト : フランス映画と女たち PART2|アンスティチュ?フランセ イベント情報サイト
チ ケ ッ ト : (フランス映画と女たち PART2:Peatix)にて 8/9 より発売。当日券は上映日の初回上映 1 時間前より販売。