学生×学長 多文化共生社会で「つながる」「つなげる」~Co-Livingという形~
外大生インタビュー
2019年11月に国連大学本部(東京都)において行われたSDGs達成に焦点を当てたビジネスモデルやアイディアを競うコンテスト「ソーシャル?イノベーション?チャレンジ日本大会2019」のファイナルピッチコンテストにおいて、本学学生の三原尚人さん(国際社会学部 アフリカ地域/英語4年)と所七海さん(国際社会学部 東アジア地域/中国語4年)らが推進するモデル事業が、日本大会受賞者として選ばれました。事業名はShareRo (シェアロ)で「交わらなかった人生をCo-Livingという形でつなぐ」。空き部屋を持つ家主と部屋を借りたい学生をホームシェアでつなぐ事業を、お二人を含むチームで運営しています。事業について、林佳世子学長がおふたりにお話を伺いました。
林佳世子学長(以下、「学長」)
三原尚人さん(以下、「三原さん」)
所七海さん(以下、「所さん」
東京外大で学んだこと
学長 今日は、おふたりがユニークな経験を基にした事業にチャレンジしていらっしゃると聞いたので、お話を伺えればと思います。まずは、大学生活のお話を少しお聞きしてもいいですか。おふたりとも4年生ですね。専攻はどちらですか。
三原さん 私は、アフリカ地域専攻です。
所さん 私は、東アジア地域?中国語を専攻しています。
学長 おふたりとも国際社会学部ですよね。
所さん はい、国際社会学部という学部の名前に惹かれて受験しました。そのため、ここまで東アジア地域や中国語というものを深く掘り下げて勉強するとは思いませんでした。入学するまでは、外国でのニュースや出来事を見る際には当たり前に「日本」というフィルターを通して見ていたのですが、大学で勉強していくうちに、日本以外の特定の地域や国の視点でさまざまなものが見えてくるようになりました。そうなるといろんなことが全然違ったものに見えてきました。違った目線が得られたのはすごく良かったと思います。さらに留学して海外で生活することで、自分が学んできたものを今度は中から見ていくということを経験しました。本当に面白く新しい経験でした。
学長 そうですね。1人1人が生活をしている「地域」に根ざさないで、ただ漠然と「国際」といっても宙に浮いてしまうと思います。本学で、特に国際社会学部で学ぶ学生たちには、「国際」と「地域」の両方の足場を持ってほしいと思っています。
所さん はい、東京外大でその両方が持てたという実感があります。
学長 三原さんは、アフリカ地域を専攻してどうでしたか。
三原さん アフリカは広いので、ほぼ「国際」という言葉と同様に多くを内包している地域ですね(笑)。僕は、サブサハラアフリカの地域を専攻していましたので、貧困や紛争など、アフリカが抱えるさまざまな問題を、論文を代表した様々な媒体から学んできました。それらの問題がどういう原因でどのように起きているのか理論的に分析、説明するということを、1?2?3年生とずっとやってきたんですが、常に感じていたのは、「で、どうやって解決するの?」ということでした。
学長 問題意識がたくさん残ったのですね。
三原さん そのようなことを感じながら3年次に長期で南アフリカに留学しました。南アフリカは、若い世代の失業率がとても高く、職を探すことが難しい状況ですが、現地の若者は、生き生きしていました。誰も雇ってくれる人がいないため、自分自身をスタイリストやDJなど、自ら定義し、第三者がそうと認識せざるを得ない状況になるまで、結果を見せ続ける。難しい状況でも、自己実現をしている同年代の若者とたくさん交流することができました。留学前に、いろんな問題をずっと投げつけられ、解決策を見いだせずにフラストレーションを溜めていたのですが、南アフリカの若者たちを見て、問題の解決は自分自身で見出すものだという姿勢が必要だと学びました。
所さん 確かに、講義を通じて課題をどんどん与え、それをどう解決したらいいかということはあえて教えない教授が多かったように感じます。
学長 先生たちも皆、答えをもっているとは限りませんよね。1つの答えで解決できていたら、世界はもっともっと平和なはず。複雑なものを複雑なものとして考えるしかないのが世界の状況で、誰かの言い分だけを聞いていると誰かが不幸になってしまう。そのような中でそれぞれの人がそれぞれの持ち場で頑張って相手の立場にもなって考えていくことが大切なのかなと思います。
所さん その答えややり方を見つけに行くのも、留学の一つの醍醐味かもしれませんね。講義で課題意識をたくさん持ち、そして留学に行く、そういう流れや雰囲気がある東京外大の文化の中で学べたことは、本当に良かったなと思います。
三原さん 東京外大に入学する前は、東京外大の学生は何故そんなに海外に行くのかと疑問に思っていました。東京外大に入ってみると、みんな、視点が常に外に向いているので、当たり前のように外に飛び出すんですよね。自分も気づくと海外を飛び回っていました。(笑)
所さん 当たり前に多様性を認めている、というか、多様な状況にいるところがありますね。
ホームシェア事業について
学長 ホームシェア事業を立ち上げようとしていると伺いましたが、きっかけは留学でしょうか。
三原さん 「自分でできる」というアフリカで得たマインドセットも大きく影響していますが、留学に行ったこと自体がきっかけというわけではありません。僕のユニークな暮らし体験から始まっています。生活費?家賃が10万円以上かかっていた1人暮らし時代に、もっと安く住める方法はないのかと考えていました。そんな時にテレビを見ていたら、独居老人と学生をつなぐNPOがホームシェア参加者を募集しているのを知りました。そこでその場で即電話をし、その後、独居老人のおじいちゃんと暮らすことになりました。おじいちゃんのことは「じい」と呼んでいて、2年間一緒に住みました。じいとは血の繋がりはないんですが、一緒に旅行に行ったりと、じいは僕のことを孫だと思って接してくれました。血縁を超えて共に暮らし、旅行に行く、これは不思議なことですが、この関係は、もっと世の中にあっていいと思いました。そこで一人暮らしのお年寄りを代表とした部屋が余っているホストと現状の賃貸に不満がある若者が一緒に暮らせるように手配する中間マネジメントの事業化を考え、ShareRo (シェアロ)を始めました。現在、第二弾のwebサイトを開発中で、2月末のリリースを目指しています (https://sharero.tokyo)。
所さん 私も、三原さんと一緒に暮らしていたおじいちゃんと会ったことがあるのですが、その2人の関係性のようなものを見て、ああ、すごくいいなと思いました。私の場合は、それがきっかけで、留学から帰国後に、都内で血の繋がりのないおばあさんと半年間一緒に住むことにしました。おばあちゃんが「すごく美味しいから食べてみて」と行きつけの居酒屋さんで焼き鳥を買ってきてくれて一緒に食べることがありました。ほんのごく普通の日常なんですけど、1人で暮らしていたらなかったような経験だったのかなと思います。おばあちゃんと一緒に中国語を勉強したり、中国旅行の話題で盛り上がったり。帰宅の時間や予定をLINEやカレンダーを使って伝えあっていたので、相手に無理に合わせたりせず、程よい距離感で暮らせたと思います。
学長 食事なども毎日一緒にするのですか。
三原さん はい、じいが作ってくれて一緒に食べます。彼はもともと料理をしなかったようですが、奥さんを亡くして独居になってから料理を始めたそうです。Cook-Doは一回使い切りの量がおよそ2-3人前のものが多く、作っても食べきれないと文句を言っていました。(笑) 僕と一緒に暮らし始めて、いっぱい食べるので作る気になったらしいです。自分のために作って自分で皿を洗っている時の悲しさは、僕も一人暮らしをしていた時期がありましたのでよくわかります。
学長 相手の家族からは感謝されるでしょう?
三原さん とても感謝されますね。感謝されている理由はとてもよくわかります。今までお嬢さんが、仕事をしながら1ヶ月に1回は横浜から多摩地区まで来なければならなかったところが、今はいつも近くに僕がいます。緊急事態でも対応できますし、一緒に住んでいると小さな変化にもよく気がつきますしね。
学長 そうなんですね。その豊かな経験から事業化を考えたのですね。
三原さん いいえ、それだけでは事業にしようとは思わなかったと思います。ホームシェアをする際に繋いでくれたNPOの運営体制に課題があると感じていた点があり、自分たちならホームシェア事業をより良く、広範にできると思ったからです。
所さん 自分たちが実際に参加者として経験し、ホームシェアの価値を感じていたので、もっと世の中に広がらないともったいないと思いました。ところが、そのNPOは広げるための仕組みはとっていなかった。それを自分たちが事業という形で再現していくことが重要だと考えました。
学長 他のNPOによる事業と違って特に特徴的なことは。
三原さん そうですね。事前審査、カスタマイズ可能なハウスルール、支払いの自動化など、ホームシェアを安全に、簡単に行うことができるプラットフォーム作りでしょうか。現在は、府中のコミュニテイセンターにある高齢者の麻雀コミュニティにお邪魔して、お話させていただいています。みなさん、余った部屋はあるけど、使い方はわからないからそのままにしていた方が多かったです。オンライン、オフラインから人が繋がれる場所を地道に作っていく必要があると感じています。
学長 つながるための場の提供ですね。
三原さん それと、マッチングがうまくいかなかった時の対応でしょうか。4割ぐらいが離婚しているこの日本で、誰かと誰かをくっつけて壊れないなんていうのは難しいと思っています。うまくいかなかった時に、他のホストを迅速に紹介するなどしっかり対策していくつもりです。そのためにはどんどんホストの方に参加していただきたいですね。
所さん 三原さんは成功例ですが、私の場合はうまくいかないこともありました。私の他にもう1人の学生も一緒に暮らしていたのですが、彼女はウマが合わず、ホームシェアを継続することが難しくなっていました。取り組み自体は素晴らしいのですが、うまくいかなかった時の対応が行き届かず、ホームシェアという試み自体が無くなってしまうことは勿体無いと思っています。
学長 そうですね。ホームシェアとは少し違いますが、学生をトルコ留学に送り出すときに先方の大学の担当者にホームステイ先の手配をお願いしたりすることがあります。やはりうまくいかないことがあるので、その大学の場合、問題が報告されたその日のうちに家を替えるなど、事がややこしく複雑化しないうちに対応を取る方針だと聞いています。中東などは、人の出入りの多い家庭がもともと多いので、日本人が家に1人いても大してストレスではないと思うのですが、やはり何かしらあった場合はすぐに対応が取れるようにしているようです。
三原さん 受け入れに当たってハウスルールや共有するスペースやアメニティなど、始まる前に明確化し、柔軟に対応していくことが必要だと感じています。どこが障壁なのかは、現在、府中市でホストさんが名乗りを上げてくれたので、実践を通じて、検証していきたいですね。喧嘩をしないカップルがないように、ホームシェアにも問題は生じます。(笑) ですが、問題を超えた先にある価値があると思います。たくさんのペアからやってよかったという声が聞こえるようにしたいですね。
学長 両方にニーズがありそうですね。一人暮らしの方がこれだけ増えている状況で、いろんな意味で助けになりますよね。日々の寂しさが紛らわされるし、若い人と接する機会にもなります。離れて暮らす家族にとっては安全確認にもなりますね。
在学生へのアドバイス
学長 おふたりは留学期間も含め東京外大で5年間学んできたわけですが、最後に後輩にアドバイスがあればお願いします。
三原さん 地域や世界で起きている問題をいっぱい目にして、課題意識を持っている東京外大生はたくさんいると思います。その課題は、誰かが解決するものではなくて、自分でも解決できるし、助けてくれる人はたくさんいます。自分で考えて動いて学んでいくことが重要だと思います。僕の好きな言葉に「The best way to predict future is to invent it」というAlan Kayの名言がありますが、この言葉が響くのは大学と南アフリカ留学経験のおかげですね。
所さん 私は今、就職活動生を支援するNPOで、東京外大支部として活動しています。そこでの活動や自分の就職活動を通じて感じたのは、就職だけがゴールではないということです。せっかく東京外大という環境で学んでいろんなことを知っているはずなのに、知った上で普通に働くだけでは勿体無いなと思っています。その状況に甘んじないで、得た知識や課題意識をもって、成し遂げたいと思うものに取り組んでいってほしいと思います。そのことを心の中に留めて将来のことを考えていけたら、もっと東京外大での生活や学びが変わってくると思います。
学長 最近は、起業したりする人が以前に比べてとても多くなりました。そのような中でもまずは会社で人と一緒に働くという経験もとても大切だと思っています。東京外大のDNAのようなものを持った人たちが会社に行くことで、会社も変わっていくのではないでしょうか。東京外大生には、若い人たちが持っているエネルギーを集約していく力があると思います。その力をそれぞれの居場所で発揮してくれるのではないかと期待しています。本学は、ずっと皆さんを応援していますので、何かあったら帰ってきてください。いろんな形でコンタクトを取り続けられればいいですし、皆さんにとってのつながりの輪の1つに、本学がなれたらいいなと思っています。