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国際日本学部第1期留学生インタビュー~多文化「協働」のむずかしさと楽しさ~

外大生インタビュー

2019年度に新設された国際日本学部では、留学生と日本人学生が同じ教室で共に協働しながら学ぶ、東京外国語大学の中でも特に国際色豊かな学部です。本学部では、英語と日本語を共通言語として、「世界の中の日本」を捉え直すことを目標としています。今回は、国際日本学部の一期生として入学し、この3月に卒業予定の国際日本学部4年生の3人の留学生で座談会を行い、入学を決めた理由や4年間の学びについてお話を聞きました。

  • チャワンラト オー ワゥパニー(Chawanrat Oe Valpanit)さん(国際日本学部4年?タイ出身)(以下「オー」)
  • アイベク アイヌル(Aibyek Ainur)さん(国際日本学部4年?モンゴル出身)(以下「アイヌル」)
  • ヌル アイシャ ビンチ ジョハリ モハマドウ ザイン(Nur’Aisha Binte Johari Mohd Zain)さん (国際日本学部4年?シンガポール出身)(以下「アイシャ」)

取材担当?記事執筆:長谷部結衣(はせべゆい)(国際社会学部東アジア地域3年、広報マネジメント?オフィス学生取材班)

日本との出会い、そして日本留学へ

————はじめに、皆さんが日本語や日本の文化に興味を持ったきっかけと東京外大の国際日本学部への留学を決めた理由を教えてください。

オー:高校を卒業したら外国のことばや文化について学びたいと思っていました。そのような時に、東京外大の国際日本学部を知り、挑戦することにしました。実はアメリカやオーストラリアの大学も受験しましたし、私の場合は、最初から日本に限定していたわけではありませんでした。新しい言語や文化を学べるということを魅力的に感じ、結局は東京外大への進学を決めました。

アイヌル:私は高校の時、英語で教育を受けていたので、当初は英語圏への留学を考えていました。東京外大の国際日本学部のカリキュラムに惹かれて、そして文部科学省の国費外国人留学生制度の存在を知り、応募することにしました。私は、高校卒業時にどの研究分野に進みたいかが明確に見えていませんでした。国際日本学部は、入学するとまずは政治、文学、言語学、国際関係などの幅広い教養の授業をとりながら自分の興味を探り、3年生になると専門分野を選択します。このスタイルは私にピッタリだと思いました。実は、父とおばが日本に留学したということもあり、幼い頃から日本に旅行したり、家族から日本のお土産をもらったりしていたので、日本は身近な存在でした。

アイシャ:私も国費外国人留学制度が大きな決め手になりました。幼い頃から日本のアニメをテレビで観ていて、日本語の響きをとても魅力的に感じたのを覚えています。その後アニメを通じてさらに日本の文化に興味を持つようになりました。

日本での生活スタート、サポート

————オーさんとアイヌルさんは、必ずしも日本への強い興味があったわけではなかったのですね。とても勇気のあることだと思います。

アイシャ:やはり最初はとても大変でした。私の場合は来日する前に1年ほど日本語を勉強していましたが、それも週に1度授業を取る程度でしたので、日本で生活するためには十分ではありませんでした。このプログラムは日本語と英語のバイリンガルで行われるということを知っていたので、卒業する頃には日本語をある程度までは話せるようになっていなければいけないということは理解していました。だからどんなに困難であっても、前向きに挑戦しました。今でももちろん困難はたくさんありますが、振り返ると特に1年目はとてもハードでした。乗り越えることができたことを誇りに思います。

————それらの困難を皆さんはどのように乗り越えましたか。

アイシャ:留学生同士で互いに支え合いながら乗り越えました。

オー:自分がどれだけの努力をしようとするかにもよると思います。例えば、授業で習った日本語を友達と話す時にアウトプットしようとするとか、日本人の友達を作ろうとするとか。これらは自分のやる気次第だと思います。あとは、留学生コーディネーターの石田理恵さんのサポートが非常に助けになりました。日常生活の宿題から市役所への提出書類、ワクチン接種について、病院にかかる時などいつも助けてくれました。

アイヌル:石田さんは精神的にもとても支えになりました。つらい時期には話を聞いてくれたり、アドバイスをくれたりしました。

日本語の勉強に奮闘

————1?2年生の学びについて教えてください。

オー:入学して最初は日本語を集中的に学びます。私は来日する前、日本語の単語を一つも知らなかったので、入学後に1から日本語を学び始めました。入学して最初の学期は毎日日本語の授業を2コマ履修し、さらに授業外に自習もしたので、最初の学期が終わる頃には、日本で生活する上で必要な基礎的な日本語は身についたと思います。大学のカリキュラムの中に日本語の授業があることで、日本での生活に慣れることができたと思います。4年生になってからも、必修ではないですが、選択で日本語の授業を履修することができるので、目指すレベルによっては日本語をさらに向上させることもできます。

アイヌル:3年生になると、日本語でさまざまな授業を履修しなければいけないということがわかっていたので、最初の2年間はその準備のために日本語の勉強に奮闘しました。その時にとてもありがたく感じたのは、教授や先生方のサポートや私たちに対する理解です。例えば、日本語での授業であっても、レポート課題は英語でも許可してくださった授業もありました。授業の多くはバイリンガルスタイルでした。

アイシャ:最初の2年間は、多くの授業を取らなければならず苦労もしましたが、同期の仲間と苦労を共有しながら楽しみました。多くの授業でグループ活動やプレゼンテーションがあったので、常に仲間と協働しながら学びました。

オー:外語祭の料理店や語劇などでも国際日本学部全体で協働する機会があり、そこで多くの日本人の友達を作ることができたと思います。

2019年度外語祭。国際日本学部初の料理店の様子

多文化の「協働」におけるむずかしさと楽しさを経験

————1年次で印象に残っている授業を教えてください。

アイヌル:1年生の春学期に履修した「多文化コラボレーション」の授業では、地域の魅力を発信するビデオを作るプロジェクトを行いました。出身の異なるメンバーで構成されたグループで協働しながら、テーマ決めから調査?取材、そして撮影?編集まで行いました。この授業は入学して最初の学期から始まったため、留学生の多くは日本語がまだ十分なレベルではなく、さまざまな場面で日本人学生から助けてもらいました。そこから多文化コラボレーションが始まったように思います。留学生と日本人学生がお互いに日本語や英語で翻訳し助け合いながら、協働することを学びました。

アイシャ:この授業に限ることではありませんが、「多文化コラボレーション」には難しさと楽しさの両面があります。グループで協力して何かを成し遂げること自体、容易なことではないと思います。そこで私たちの場合はもう一つ困難がありました。実際に多様性の中で協働することを通して、言語の障壁、文化の障壁、話し合い方の違いなどを乗り越えて、コラボレーションする手法を学ぶことができたと思います。

オー:私はこの「多文化コラボレーション」の授業を通して、働き方や話し合い方の中にも文化による違いが多様にあることを学びました。例えば、グループとして何かを決定する時に多数決をとるべきか、それともリーダーを作ってある程度決めてもらうべきかという意見の違いがありました。こうした経験を通して、多文化のグループで協働するためにはどんなことが必要なのかを学ぶことができました。

アイシャ:私とアイヌルさんは同じグループでしたが、私たちのグループの留学生は私たちだけでした。そして私たちのグループの日本人学生は、留学経験がなく、多国籍の人々と協働することが初めてでした。また当時、私たちは日本語を勉強し始めたばかりで、あまり話すことができなかったので、最初は言語の壁もあり、留学生の私たちと日本人学生の間に溝があり、なかなか協力することが難しかったです。例えば話し合って決断したり、アイディアを出し合う段階で、メンバー全員がやる気があったのにも関わらず、とても苦労しました。

アイヌル:そうですね。振り返ると、何かを決める時に最も苦労したことを覚えています。アイディアはたくさん出たのですが、メンバーが少しシャイだったこともあり、何か一つに絞ることが難しかったように思います。しかし、英語に自信があった日本人のメンバーの一人が、積極的に翻訳などをしながら私たちの間の架け橋となってくれました。今考えてみると、ほとんどの苦労は言語の問題だったように思います。

「多文化コラボレーション」の最終発表でプレゼンするオーさん
学生がグループに分かれ議論する様子

日本を総合的に学んで、私なりの専門的研究へ

————次に、3年?4年次の学び、そしてゼミでの研究について教えてください。

オー:私は3年次に映画に関する授業を多く履修しました。あとは、政治、経済、日本文化や日本社会についてなどの社会科学の授業も取りました。そして、4年次にはイリス?ハウカンプ先生のゼミで日本映画を研究することにしました。卒業論文は、日本アニメのストリーミングサービスへのコロナの影響について書きました。コロナ禍でストリーミングサービスがさらに発展していますが、それは日本そして海外のアニメ業界にどのような影響があるのかということに興味があり、経済と日本社会、映画の分野を掛け合わせて研究しました。

アイヌル:私は、木村正美先生の国際関係や外交史に関するゼミに所属しています。2年次以降は、春名展生先生の日本政治に関する授業や木村正美先生の国際関係や外交に関する授業を中心に履修していましたが、外交に強い興味を持ち、木村先生のゼミに進みました。とりわけ、現代の外交について関心があります。遠隔地を行き来して行うこれまでの外交とは違い、今はインターネットを使ってつながることができるので、新しい外交スタイルが生まれていると思います。そのアイディアから発展して、卒業論文では「デジタル外交」というトピックで、インターネットやSNSが現代の国際関係にどのような影響を及ぼすのかについて研究しました。

アイシャ:2?3年次は、春名展生先生、友常勉先生、ジョン?ポーター先生の授業を履修し、哲学やインテレクチュアル?ヒストリーを中心に、政治や歴史について学びました。私はずっと「歴史から現代社会への理解を深める」ということをやりたいと思っていました。そのため、ジョン?ポーター先生のゼミに所属することにしました。私は卒業論文で、シンガポールにおける移民労働者について研究しています。社会学の視点が主ですが、特に階級差については、歴史学の視点も掛け合わせて研究しました。私の研究は、世界的な分断の下層階級に焦点を当てて、現代の視点から階級を理解しようとするものです。

世界各地から集まった学生と共に学び、協力し合う経験

————日本人学生と留学生が共に学ぶというのは、国際日本学部ならではだと思います。その経験からはどんな学びがありましたか。

オー:さまざまな国と地域から来た学生と同じ教室で学び、協働することを通して、文化の違いだけでなく、自分の文化についても深く学ぶことができました。その上で、それぞれの文化がある中で、「中間地点」を見つけて共に協力し合うということや、どうしたら上手くコミュニケーションが取れるのかを学びました。これらのソフトスキルや、異なる言語でのコミュニケーションの取り方は、社会に出てからも役に立つと思います。

アイシャ:日本人学生と協働する経験から学んだことの一つに、行間を読んでその人の真意を理解することの大切さです。このスキルは、墓場まで持っていきたいと思います(笑)。日本文化では一般的に、明確な答えが得られないということがあります。自分の出したアイディアが気に入らなかったり、自分に賛成しないときは特にそうです。私の文化では、誰かに同意できないときは、はっきりと「同意できない」と言うことができます。でも、日本の友人からそんなことを言われたことはあまりない。だからと言って、いつも私に賛成しているわけではないのです。最初の頃は、全く慣れていなかったので、「嫌ならはっきり言ってよ!」と思っていました(笑)。でも今は、このようなコミュニケーションの取り方が日本の文化なのだと理解するようになりました。日本の友人の言葉やボディランケージをより注意深く観察するようになり、言葉の裏にある真意を理解しようとするようになりました。

————確かに、私も議論しているときに誰かの意見に反対するときは、否定するのではなく「でも、???じゃない?」というような言い方をする気がします。その発見はとても面白いですね。

オー:国際日本学部の魅力に、「多様性」があると思います。アジア、ヨーロッパ、北アメリカ???など本当に世界各地から集まった学生と共に学び協力し合う経験があったからこそ、今の私があると思います。振り返ってみると、入学時は全く文化に敏感ではなかったと思います。例えば、ある文化からきた人を不快にしてしまうかもしれないということに気づかずに、何かを聞いてしまったり、ある話題を出してしまったりしていました。今は、アイシャさんが言ったように、もっと周りを観察するようになりました。これは、異なる文化や国から来た人と話すときにとても重要なことだと思います。

アイシャ:そうですね。例えば、入学時に日本人のクラスメートに食事の話をされたり、なぜ学食で食べることができないものが多いのかを聞かれて困ったことがありました。しかし、しばらくするうちにみんな一緒に食事する際や、食事の話をするときに気を遣ってくれるようになりました。

アイヌル:私たちは「日本語」という言語だけでなく、異なる文化について学んできたと思います。

このあとは?

————東京外大での学びを将来、どのように活かしていきたいと思いますか。

アイヌル:私は大学院に進み、国際関係をさらに学びたいと思います。東京外大で学ぶうちに、国際的な企業や機関で働きたいと考えるようになりました。

アイシャ:私も大学院に進みますが、その後は「教えること」に携わりたいと思っています。日本での経験は、人生の中で最も貴重な時間だったと思います。この先どんなことをすることになったとしても、この4年間で学んだことを大切にしたいと思います。ここで過ごした4年間は他で再現することができない時間だったと思います。これは誇りを持って言うことができます。私が周りの学生と共に、そして周りの学生から学んだことは、大学院での学習や将来教える立場になった時も活かしたいと思います。

オー:私は現時点では、フランスの大学院に進学しようと考えています。4年間日本で過ごしたことで、「もうどこに行っても大丈夫」というような自信がつきました。

国際日本学部に興味を持つ人にメッセージ

————最後に、国際日本学部に興味を持つ人にメッセージはありますか?

オー:東京外大は留学のイメージが強いと思いますが、国際日本学部では授業自体が留学のようなものです。日本について学ぶだけでなく、「世界の中の日本」や日本を世界との関係から学びます。その分野に興味がある人にとっては、最高の環境だと思います。

アイヌル:高校を卒業する時点で自分の興味や進みたい分野が定めきれていない人に、国際日本学部はおすすめです。国際日本学部での学びはさまざまな文化や学問分野に触れる機会をくれました。私も入学時はまだ興味が見つかっていませんでしたが、ここで学ぶうちに見つけることができました。

アイシャ:キャンパスで「国際社会」を体験したいなら、ぜひ来てほしいと思います。一つアドバイスがあるとしたら「オープンマインド」で来ることですね。自分が知っていることを一度捨てて、もう一度学び直す覚悟が必要だと思います。

インタビュー後記

今学期、多文化コミュニケーションに関する授業を受講し、意思決定の方法にトップダウン式と多数決があることや、日本を含むいくつかの文化では対立を避けることが重視されるということを学びました。3人の話を聞いていると、まさに私が授業で学んだことを、多文化の学生と協働する実体験から学んだということが伝わってきました。3人のこれからのご活躍を楽しみにしています。

最後に、インタビューに快く協力してくださり、本当にありがとうございました。

国際社会学部東アジア地域3年 長谷部結衣

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