平和宣言を多言語で発信『Peace Night Hiroshima』~平和へ綴る想いとは 松橋佳乃さんインタビュー~
外大生インタビュー
2020年11月23日、広島市平和記念公園で初めて開催された『Peace Night Hiroshima』。多言語で平和宣言をするなど、さまざまな形で平和への願いが発信されました。このイベントは、2019年11月にローマ教皇が広島で平和へのメッセージを発信したことにインスピレーションを受け、学生主体で企画されました。
本イベントの実行委員を務める本学学生の松橋佳乃(まつはしかの)さん(国際社会学部西南ヨーロッパ地域/フランス語4年)。広島出身で、イベントではフランス語で平和宣言を行いました。このイベントに参加しようと思ったきっかけや、本学での学びがどのように生かされているか、さらに今後のイベント開催について伺いました。
取材担当:高橋さくらさん(国際社会学部イベリア地域/スペイン語4年)
カメラ担当:鳥倉捺央さん(国際社会学部西南ヨーロッパ地域/フランス語3年)
(いずれも大学広報マネジメント?オフィス 学生取材班)
---イベントに参加しようと思ったきっかけを教えてください。
私は小学4年生の時に広島に引っ越してきました。その時に印象に残っているのが、広島の人たちの平和への想いの強さでした。8月6日には黙祷を捧げ、課外活動や普段の会話、テレビなどを通じて原爆や平和について考える機会がたくさんありました。そんな環境に身を置くなかで、私自身も平和への想いは強くなっていきました。
高校生の時には、美術科の生徒が被爆者の方の話を聞いて描いた絵を展示するプロジェクトに参加し、海外の大使の方に英語で作品の紹介、通訳をしました。そこで美術科の生徒の思いが私の言葉を通じて「伝わった」という手応えが得られて、被爆の実相を「伝えていく」ことへの関心が高まりました。
上京したことで広島出身というアイデンティティが自分の中で強くなり、大学でも平和活動に携わりたいなと考えていたので、参加を決めました。
---高校時代から平和活動に取り組まれていたのですね。他のメンバーはどうでしたか。
参加者は中学生から大学生までさまざまでした。企画者の中村園実さんは被爆3世で、中高生の時からさまざまな平和活動を行っている方です。他にも高校生大使としてジュネーブで非核のスピーチをした経験を持つ子もいました。もちろん平和活動が初めての子もいて、このイベントをきっかけに、平和活動に携わる広島出身の若者が増えていくこと、平和活動に携わる若者の輪が広がるのは嬉しい事だと思いました。
---イベント準備はどのように進んでいきましたか。
広島市から場所や資材の援助はしてもらいつつ、実行委員主体で準備を進めました。私は若者による平和宣言の起草をする班に所属しました。毎年似たような内容にするのではなく、私たち若者の思いが伝わり、聞くひとの感情を揺さぶるような平和宣言になるように意識して考えました。メンバーと協力しながら何度も話し合い、議論を重ねて執筆しました。
多言語発信もしたいなと思い、本学の友人や教授の協力も得ながら、核保有国の主要言語である英語、フランス語、ロシア語、中国語に翻訳しました。私は当日フランス語でスピーチをしました(動画はこちらから)。これは本イベントの第2回目となった2021年度も継続して企画されました。広報班や動画班など、他にもさまざまな班にわかれて準備を進めました。
(動画はこちらから)
---平和宣言で印象に残っている一節はありますか。
“When the time comes, we will be voices for the voiceless.”(時が来たら、声なき人の声に私たちはなる。)
英語の平和宣言の最後の一節が印象的だと思っています。広島に原爆が落とされた1945年8月6日から今年で77年。被爆者の数はどんどん少なくなっていきます。私たちは、被爆体験を聞くことのて?きる最後の世代た?と言われています。経験を生の声として聞くことができなくなりつつある今、私たち若者が継承者となって伝えていきたい。そんな想いが込められています。(2020年度の平和宣言はこちらから)
---イベントを開催した感想を教えてください。
小さい子どもから被爆者の方まで、さまざまな方に参加していただいたことが嬉しかったです。2歳の姪っ子も来てくれて、すごく真剣に聞き入ってくれました。
イベントが終わった夜の平和公園で、被爆者の女性が「若い世代の子たちが、平和について考えて、イベントを通じて私たちの想いや若者の想いを伝えてくれたことがすごく嬉しい」と伝えてくれました。まっすぐに目を見つめて、手をぎゅっと握ってくれて。その時の手の感触や瞳は忘れられないし、直接伝えてくれた言葉が心に大きく響きました。被爆者の高齢化が進む中で、私たちの世代が受け継いでいかなければならないと強く感じました。
被爆者から若者へ。世代を通じてつなげていける手応えを、半径50mで感じることができました。
---イベント開催後の反響はいかがでしたか。
東京の友人から反響を得られたのがすごく嬉しかったです。広島から上京した時、平和への意識の差を実感しました。平和や核問題は身近に感じることが難しいので、イベントを通じてそれらのことについて考えてくれたのは嬉しかったです。イベントの様子をSNSで発信していると、会った時に平和について話すきっかけになることもあり、身近なところから平和について考えるきっかけを作れた実感があります。
---本学での学びはどのように生かされていますか。
平和宣言を多言語で発信するというアイディアは、本学での学びから得られたものです。言語は世界の入り口になりうるということを肌で感じたので、その外大生としてのアイデンティティを自身の平和活動でも活かせたらなと思っていました。核保有国の言語に平和宣言を翻訳したり、専攻語のフランス語でスピーチをすることにより、より多くの人に平和への想いを伝えることができたのではないかと思っています。
ゼミは伊勢﨑賢治教授のゼミで、平和構築や紛争予防について学んでいます。同じゼミ生でも興味や研究分野はさまざまで、そんな人たちの話を聞くのは楽しいし、新たな知見を広げることができます。
---留学する予定はあるのでしょうか?
今年の夏からパリ政治学院(フランス)に派遣留学をする予定です。政治とメディアや歴史認識と政治利用、といった分野について学ぶ予定です。ジャーナリズムに関心があるので、フランスのジャーナリストの方が開講する授業も履修しました。また、平和教育や核兵器に対する市民の意識について、ヒアリング調査をすることも考えています。今の関心分野についてフランスでさらに掘り下げて勉強することが楽しみです。
---今後はどのような形で平和活動に携わっていきたいですか。
2020年に始まった『Peace Night Hiroshima』ですが、4回目となる2023年度は私が実行委員長を務める予定です。さらに良いアイディアがないか考えて、いろいろな活動や人との繋がりからヒントを得ている最中です。
今回のイベントを通じて、平和活動に取り組む同年代の若者とのつながりが得られたことは大きな財産だと感じています。このイベントを続け、関わる人を増やして輪を広げることで、平和や核兵器について自分ごととして考える若者が増えていけばいいなと思います。
---ありがとうございました。
『Peace Night Hiroshima』Instagram
インタビュー後記
松橋さんは1年生の頃から友人で、SNSで平和活動について発信しているのをよく見ていました。広島は中学生の時修学旅行で行き、歴史については学んでいましたが、今回のインタビューをきっかけに平和について深く考えるようになりました。皆さんも、今年の夏は平和について考えてみませんか?
取材担当:高橋さくら(国際社会学部イベリア地域4年)