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研究者が作った謎解きゲームで「ことば」を楽しむ旅に出よう:博士後期課程 小林真也さん(日本語教育、ゲーミフィケーション)インタビュー

外大生インタビュー

日本語教育が専門で、中でも学習活動にゲームの要素を取り入れて改善する「ゲーミフィケーション」と呼ばれる手法を研究している博士後期課程の小林真也(こばやし?しんや)さん。昨年度の外語祭で謎解きゲームを企画?実施し、今年7月中旬には渋谷でも謎解きゲームイベントを実施しました。「面白い、楽しいと思いながら学んだり追求したりできたらそれが一番いい」と小林さん。イベントを終えた小林さんにお話を伺いました。

人文学研究の楽しみを多くの人に伝える

───2024年7月12日(金)に渋谷で、本学学際研究共創センター(TReNDセンター)主催の体験型謎解きゲームイベント「現代に言語を学ぶ意味は、果たしてあるのか?」が開催されました。このイベントは小林さんが企画したと伺いましたが、企画したきっかけを教えてください。


今回の企画の中心となった謎解きゲームは、もともと昨年度(2023年度)の第101回外語祭に向けて制作したものでした。ありがたいことに外語祭では5日間で700人以上の方にプレイしていただき、盛況に終わったのですが、手前味噌ながら良いゲームが作れたので1回きりにしてしまうのはもったいないという思いがありました。

昨年度の外語祭にて謎解きに取り組む参加者の様子

そのような時に、本学がコーポレートメンバーとして加盟している共創施設「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」(東京都渋谷区)でイベントを開催してみないかとのお声がけをいただきました。

外語祭では間口を広げて多くの参加者を集めるために、外語祭期間中であればいつでも自由に遊んでいいという形式で実施したのですが、その形式にしたことのデメリットもありました。そのため今回は、より学びや人文学研究の楽しみを伝える「サイエンスコミュニケーション」としての効果を高めるために、形式を調整してワークショップの要素を入れたイベントとして企画しなおしました。

謎解きゲーム制作の第一回ミーティング(国立国語研究所にて、一般社団法人 異言語Lab.様の制作ワークショップを受けている様子)

───イベントの参加者にどんなことを感じてほしかったですか?

本イベントは、現代における言語学習の意義について、参加者に考えてもらうことを目的にしていました。言語学習の意義や価値は多層で、必ずしもひとつに定まるものではありません。本イベントではそのことをゲームを通じて体験できるように設計したので、参加者の方々にはそれを擬似的に実感してもらえていればよいなという思いがありました。

イベント当日の様子
サンプル画像

───実際に参加した方の反応はいかがでしたか?

事後アンケートで、当たり前だと思っていた言語の使われ方や無意識の前提を疑い自分の先入観に自覚的になった、と回答してくださった方がいました。参加者の方がそれぞれに何かを感じてくださればと思っていましたが、謎解きゲームを通したメッセージが届いていたようで良かったです。

イベント当日謎解きに取り組む参加者の様子

───先ほど「サイエンスコミュニケーションとしての効果を高めるために」とおっしゃっていましたが、サイエンスコミュニケーションにおいて、重要だと思うポイントはどのようなことだとお考えですか。

サイエンス「コミュニケーション」ですから、一方的な情報伝達だけではなく、多様なやりとり?場を提供することが大切です。アウトリーチ先の人々にサイエンスは自分には無関係だと思われてしまえばコミュニケーションは成立しません。いかに彼らに「当事者」になってもらうかが重要だと思います。

───言語?言語学をモチーフにした謎解きゲームを作る上で、最も難しかったことは何ですか?

学術的正確さとゲームとしてのエンタメ性とのバランスを取るのが難しかったですね。学術的正確さを重視するとどうしても説明が冗長になってしまうので、わかりやすさのために泣く泣く省略した要素もありました。ただし、わかりやすさを優先しすぎて誤解を生まないようにするというのは意識しました。

謎解きゲーム制作の最終段階として、TReNDセンターで内部テストプレイを実施したときの様子

言語を学ぶ意義

───AIの時代に、言語の学び方や学ぶ意義は、どう変わっていくと思いますか?

AIの発展を含めた機械翻訳の隆盛は、間違いなく大きな影響を与えていると思います。これまでの「コミュニケーションの手段のため」という動機づけは、テクノロジーによって満たされていくでしょうから、そうではない学ぶ理由が求められていくと思います。かといって、決して言語学習の意義がなくなったわけではありません。私自身も言語教育に携わる人間ですが、教師は言語学習者に対して、それ以外/それ以上の価値を提示することが必要だと常々思わされています。

今後は一層、言語学習者ひとりひとりが言語学習の先に何があるのか、何のために言語学習をしているのか意識する、意識させることが求められてくると思います。

昨年度の外語祭に向けて、成城大学の授業の場を借りて外部テストプレイを実施したときの様子

───この記事の読者の方に向けて、言語を学ぶことの魅力や価値についてメッセージをお願いします。

繰り返しになりますが、言語を学ぶことはコミュニケーションのためだけにとどまりません。そのひとつが、「いま?ここ?わたし」のものではない「ことば」を鏡にすることで、「いま?ここ?わたし」の実像に迫ることだと思います。これが大きな意義かつ魅力であり、そしてこのことは人文社会系の学問を学ぶこと一般に通じているはずです。この記事をご覧になっている在学生、高校生、言語学習者の皆さんにもぜひ一度、これまでに言葉を学んだことで気づいた「いま?ここ?わたし」を思い返していただければと思います。

左:北大と外大のフェローシップで共催した異分野交流イベントにてポスター賞を2年連続で受賞、右:10の異分野交流イベントにて発表したポスター

参照

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