暮らしに一輪のメキシコを~留学ではない海外渡航のかたち~:別所果歩さんインタビュー
外大生インタビュー
コロナ禍で一度は閉ざされた国境ですが、海外渡航への扉は少しずつ開かれています。メキシコのNPO法人でインターンをしている別所果歩(べっしょ?かほ)さん(国際社会学部ラテンアメリカ地域3年)。途上国の経済開発に興味を持ち、トウモロコシの葉から作る色鮮やかな伝統工芸品のマーケティングに取り組んでいます。単身メキシコに渡り挑戦する彼女に、活動のきっかけや内容、将来の展望について伺いました。
インタビュアー?記事執筆:国際社会学部イベリア地域4年 高橋さくら さん(広報マネジメント?オフィス学生取材班)
きっかけは小学生の頃に遡る
———何をきっかけに途上国の経済開発に興味を持ったのですか。
最初に興味を持ったのは「経済開発」ではなく「教育格差」でした。小学生の頃に塾に通った経験から教育格差について考えるようになりました。中学生の時にはインドネシアで学校を建設するボランティア活動に大学生に紛れて一人飛び込みました。
しかし現地で大きな課題があることを知りました。せっかく学校を建てても、教育を受ける必要性を認識してもらわないと、学校に通う人は増えないということです。十分な教育を受けずに働いてきた人にとって、勉強している暇があったら働いてお金を稼いでほしいと思うのは自然なことでした。
そこで着目したのが「経済開発」です。経済が発展して雇用が増えれば、識字率の向上や技術習得の必要性が生じ、学校に行く意義が明確になる。またその雇用によって得た経済力で継続的な通学も可能になる、という循環が生まれると考えたのです。
高校2年生の自由研究では、最貧国の1つと言われるハイチ共和国に着目し、自国で生産されるものだけでパンを作るという研究をしました。そこで「付加価値」を生み出すことができれば雇用創出につながるという気づきを得ました。日本から得られる情報は少なく苦戦しましたが、なんとか国際協力機構の方に、実際のプロジェクトとして行う価値がある、と言っていただけるものになりました。
———インターン先としてなぜメキシコを選んだのですか。
メキシコは経済的に非常に興味深い国です。50年前までは日本よりも豊かな国でしたが、現在ではその人口の半分以上が貧困であるとされています。そのギャップ、豊富な労働力、そして経済大国アメリカに隣接しているという立地に付加価値を創出する場としての魅力を感じました。
ハイチの自由研究で日本から得られる情報がかなり限定的であることを痛感していたので、専攻語であるスペイン語を生かし、現地の団体を調べ、現在働いているNPO法人ProMexico(プロメヒコ)に出会いました。そこでは女性の経済的自立を目指して「トレーニング」を行なっています。チョコレートの作り方、裁縫、介護の仕方など、専門技術を身につけることで自身のビジネスを始められるようにするのです。
最悪なスタート
———メキシコの第一印象はどうでしたか。
正直に言うと最悪でした。2021年10月にインターンを始めて1か月は自分の不甲斐なさに涙する日々でした。インターン先には留学生はおろか学生も一人もおらず、遠いアジアの国からポッと現れたスペイン語の拙い私はまったく必要とされていなかったのです。コミュニケーションも満足に取れず、世界を変えると息巻いてやってきたのに椅子に座って事務作業をする日々に悶々としていました。
———そのつらさははかり知れません…。そんな状態からどのようにプロジェクトは始まったのですか。
そんな私にも11月にチャンスがきました。「お金の管理方法」の授業をする予定だった教授が来られなくなったのです。彼女の代わりに1か月間、週3コマの授業を行うことになりました。この授業でトウモロコシの葉を使った伝統工芸品を作る女性たちに出会いました。
彼女たちは私に「1人の中間業者に安価で買い叩かれ、搾取されている」と言いました。他との差別化を図り、直接顧客に商品を届けるためのマーケティング。これこそが彼女たちの経済的自立に不足しているものであると考えました。これをインターン先の新規プロジェクトとして提案し、1か月間のプレゼンと根回しを経て、現在は無事にリーダーとしてこのプロジェクトを進めています。
———プロジェクトを進める中で大切にしていることはありますか。
「リーダーとは何か」について常に意識しています。このプロジェクトの最終目標は、女性たちだけでビジネスを継続させることです。リーダーの仕事はとにかく先頭に立って引っ張っていくことでも、寄り添って支え続けることでもありません。それぞれが問題意識を持ち、責任を持つように働きかけることです。そのためにメンバー全員と目標を共有し、私に頼りきりにならないような環境を作っています。
本学で得たことが大きな支えに
———苦労の連続だと思いますが、どのように乗り越えていますか。
市場調査に基づく商品開発、SNSを使ったプロモーション、卸先の確保。商習慣や言語の違いは依然として大きな壁ですが、一緒に働くメンバーに、「お陰で孫の学費を払えた」と言われた時の喜びを胸に日々奮闘しています。
また、本学で出会った友人も大きな支えとなっています。実は、持続可能な卸先を確保すべく日本やアメリカにも商品を売り込もうと考えています。そのために協力を募ったところ、なんと5人ものスペイン語専攻の心強い仲間がチームとして一緒に活動してくれることになったのです。各々の強みを生かしながら、私1人では到底達しえなかったところまで、日々邁進しています。
———本学での学びはどのように生かされていますか。
第一に、専攻語であるスペイン語を学ぶ環境が整っていると感じます。質の高い授業はもちろん、留学生とスペイン語で話すことができる「多言語ラウンジ」も活用しています。休み時間には友人とスペイン語で会話したり、授業で疑問に思った文法や言い回しについて議論を深めたりもしています。
専攻語以外の授業も充実しています。今は異動されてしまいましたが、渡辺周先生(現:大阪大学大学院経済学研究科)の経営学の授業では、マーケティングの基礎から組織の運営に至るまで多くのことを教わり、今の活動に大いに役立っています。最初は経済学に興味を持っていたのですが、ふとした興味から経営学を学び、自分の考え方を変えてくれたのは、本学ならではのプログラムのお陰だと思います。渡辺先生には感謝してもしきれません。
———インターン以外に活動していることはありますか。
グアダラハラ大学のクラブ活動で日本文化の授業をしています。時間があるときは日本語授業のアシスタントもしています。インターン先には同年代のメンバーがいないので、大学で出会う友人たちは心の支えになっています。
日本にも売り出す予定
———プロジェクトの今後の展望について教えてください。
日本にも売り出していこうと考えています。メキシコの伝統工芸品は日本での人気も高く、大きな市場になりえます。2022年4月30日には調布駅前広場のマルシェにも出店します。これをきっかけに認知度を上げ、日本の小売店でも取り扱っていただけたらと考えています。
8月上旬に帰国するまでに、ECサイト(Webサイトでの販売)での売上を軌道に乗せ、そのノウハウを工芸品グループとインターン先に引き継ぎたいと思っています。私がいなくてもビジネスを持続させることが今回のプロジェクトの最終目標です。
———帰国後は何をする予定ですか。
卒業論文(卒論)を書きつつ就活を進める予定です。卒論は「組織化を通じたインフォーマルセクターの解消」について書こうと考えています。簡単に言うと、メキシコに来て感じた経済格差を「組織化」を通して改善できるのではないか、というテーマです。
大学卒業後は大規模な「人?もの?金?知識」を有する企業で働きたいと考えています。今回のインターンで、やはり自分の持っている知識や資本だけでは与えうるインパクトが小さく、もともとの目標であった教育の必要性を認知してもらうほどの経済開発はできないと痛感しています。今回の活動で得たスペイン語力やメキシコ人との円滑なチーム作りのノウハウを生かし、機会の不平等を持続可能な形で是正したいと考えています。
———本日はありがとうございました。
インタビュー後記
別所さんとは同期で、普段から勉強熱心な様子を見てきました。今回の取材で改めて経歴や活動内容を聞いて、同じく留学中の自分の心も奮い立たせられました。興味があることを気軽に学べるのが本学の魅力だと思うので、新入生は特に在学中にたくさんのことに挑戦してほしいと思います。4月30日に開催されるマルシェにもぜひ立ち寄ってみてください。
取材担当:高橋さくら(国際社会学部イベリア地域4年)