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大学院生インタビュー:博士後期課程 共同サステイナビリティ研究専攻 セネガル出身 セネ?ファファさん

外大生インタビュー

東京外国語大学、東京農工大学、電気通信大学の3大学が共同で設置する博士後期課程の「 共同サステイナビリティ研究専攻(Joint Doctoral Program for Sustainability Research:略称JDPSR)」は、開発?環境?平和に関する問題など今日人類が直面するグローバルな課題の解決に取り組むことが、サステイナビリティ研究の使命であり意義であるとの考えに基づいて開設されたプログラムです。

3大学の専門性を基礎としつつ、既存の研究?教育の枠組みを越える文理融合を実践する本プログラムは、国際連合の「持続可能な開発目標」(SDGs)の概念や視野を批判的に発展させるアプローチを行っています。

シリーズ「大学院ってどんなところ??東京外大の秘境を訪ねる?」第4弾。今回は、この研究専攻に在籍し、ここ日本でサステイナビリティ研究を行っているセネガル出身のセネ?ファファさんにお話を伺いました。

幼少期、学部?修士時代

---研究でお忙しい中、インタビューを引き受けてくださりありがとうございます。まず、ファファさんが日本に来るまでの歩みについてお伺いできればと思います。どのような幼年期や学生時代を過ごされたのでしょうか。

私が記憶している限りでは、幼少期の私はごく普通の生活を楽しんでいました。父の勤める国立の観光局は私たちのコミュニティでは恵まれた職業であり、私たち家族の生活水準は比較的満足のいくものでした。私はフランスが設立した公立小学校に通い、いつも成績優秀な生徒の一人でした。中学時代は、いろいろな意味で思い出深いものでした。その頃、大学入学をめざす、高校の最終学年(”Terminal e”、13学年)所属の年上の女性を紹介され、自分は、高等教育 の最終学年である博士課程にすすむことを目標としました。 家父長制社会のなかで生まれ育った少年であった私にとって、女性 たちのレベルに到達し、追い越すというのは一種の挑戦でした。 こうして、自分の中ではその女子高生に匹敵するように思われた博 士課程のレベルに到達することを、自分の目標に設定したのです。 家父長制の社会でそうプログラムされていたのですから、仕方ない ですね。高校卒業後、はやる気持ちでセネガルの首都のダカールにある最高学府シェイク?アンタ?ジョップ大学に入学した私は、人文?社会科学学部で学び始め、学士号、修士号、大学院の学位を取得しました。さらに博士課程にも進学し、厳しい選抜試験のある上級教員養成ディプロマ(セネガルで最も高い教員資格)を取得できました。博士号を取得するという私の夢は、生計を立てるための教員給与と引き換えにしぼんでしまいましたが、自立して生計を立てることももうひとつの目標ではあったのです。

その後、韓国政府の奨学金を得て、韓国の延世大学でも行政学の修士課程を修了しました。韓国から帰国して1年後、セネガル地方自治省にプランナーとして赴任しました。その職務を得たことで、私は後に東京外国語大学の本専攻に入学することになるのです。

---ファファさんが中学生のときにすでに博士課程への進学を決めていたことに驚きました。学部や修士課程では、どのようなテーマで学んでいらっしゃったのですか。

学部は、アフリカ文学、イギリス文学、アメリカ文学を中心に幅広く勉強しました。修士課程では、特に英語圏の文学と文明、特にイギリス文学に焦点を当てました。古典や現代のイギリス作家を深く掘り下げる必要があり、シェイクスピアやディケンズといった難解な作家もいるため、簡単な作業ではありませんでした。一方、韓国の修士課程は行政学に関するもので、とても興味深かったです。

延世大学にて修士号を取得

博士課程への進学

---ファファさんの現在の研究にはそれまでの豊かな学びが背後にあるのですね。日本で研究をおこなおうと決めたきっかけは何だったのですか?

韓国に住んでいると、隣国である日本の話はおのずと聞こえてきます。韓国滞在中、クラスメートの何人かは休暇を利用して日本を旅行し、帰ってくると東京の面白い話をたくさん話してくれました。私自身は当時、勉学に専念していたため東京を訪れる機会はありませんでしたが、日本の教育システムの厳しさをよく耳にしていたので、自分の力を試してみようと思い、延世大学を修了後は韓国での進学は選択せず、日本の博士課程に進むことにしました。

---なぜ、本学の「共同サステイナビリティ研究専攻」を選ばれたのでしょうか。

「サステイナビリティ」というマジックワードに惹かれたためです。この言葉が日本の大学を探しているときに、私の興味を大いに刺激しました。サステイナビリティは、発展途上の国々で必要とされているものです。セネガルにはたくさんの資源があるのに、持続可能な方法で計画を実行することができていません。また、新任の省庁職員でもあった私は、数々の発明やすばらしい歴史のある日本の確かな技術をお手本にしたいと思っていました。本専攻のプログラムを読んで、その内容の明瞭さに魅了されました。教授陣もとても魅力的でしたので、私はすぐに、「これは私が進むべき大学だ」と思いました。そして、私は正しい選択をしたと思っています。

博士後期課程での学び

---「サステイナビリティ」という言葉が大学選びの決め手となったのですね。修士課程と学びや研究スタイルに違いはありますか。

大きな違いがあります。まず、教授陣がよく面倒を見てくれます。アフリカからの留学生に聞いてみてください。皆、当地では指導教授になかなか会えないと言うでしょう。教授が学生に会いたくないのではなく、学生の数に対して指導教授の数が圧倒的に少ないのです。また、東京外国語大学の博士課程は、目的を達成するためのサポート体制がきちんとなされています。すべてが明文化されており、いつ何をすればよいのかがわかります。あとは自分の努力あるのみです。また、研究の面でも、多くの可能性を提供してくれます。図書館も自由に使えて、ホームページから蔵書を確認することができます。博士課程の学生のために特別に設けられたコモンルームには、パソコン、オーバーヘッドプロジェクター、オンラインミーティング機器など、必要なものはすべて揃っています。また、本専攻では積極的に発表を行うことが推奨されていて、3大学の3人の指導教授からフィードバックが受けられます。つまり、このプログラムに関わるすべての人にしっかりサポートされていると感じられ、成功するのに必要なもの全てが大学院生のために準備されています。

中山智香子教授と研究室メンバーと

---現在、どのような研究テーマで研究をされているのですか。その研究テーマの魅力についても教えてください。

私の研究テーマは「都市世帯の社会経済?文化構造におけるインフォーマルセクターの貢献:ダカールの露天商を対象とした実証的調査」というものです。おそらくセネガル人なら誰でも、これは良いテーマだと言うでしょう。セネガルの雇用創出の97%をインフォーマルセクター(法的な手続きを取っていない企業や活動)が担っています。正規部門は崩壊し、失業は常態化し、若い世代の学卒者たちは希望を失っています。唯一残された希望の光は、自分の貯金や家族の資産、あるいは近所の人から借りるわずかなお金で自分のビジネスを始め、そこから個人や家族所有のインフォーマル生産ユニット(IPU)を立ち上げることです。インフォーマルセクターのサブセクターである露天商は、非正規労働者の主要な収入源となっています。ダカールのほとんどの世帯は、露天商として働く人々によって維持されています。いまだ両親に頼った生活を送る若者たちにとって、露天商は自分の尊厳を守り、愛する人、大切な人に自分を誇りに思ってもらうチャンスをつかむことができる手段であり、そうしたことは、セネガル社会ではとても重要なことなのです。路上販売とは、お金儲けのためのものではありません。物理的な豊かさよりも深い、社会的な問題を解決するために必要なものです。それは、自分の内面や尊厳を守ることなのです。

本学学部生へのセネガルについてのレクチャー

---なるほど。「生産」「再生産」の問題にも関わるものかもしれませんね。いずれにしても、「尊厳dignity」というのは、サステイナビリティの研究において非常に重要な概念ですよね。本専攻の特色のひとつである文理融合について伺いたいのですが、ファファさんはどのような印象をお持ちですか?

学際的な研究のおかげで、学生は多くの分野で幅広い能力を身につけることができます。人文学の専攻だからといって、その分野しか知らないということがないようにしなければなりません。知識人であれば、どのようなテーマでも自分の意見を述べることができるように準備しておく必要があります。人文?社会科学は、人類やその文化に関する問題に、分析的?批判的な手法でアプローチする学問です。また、科学は身体的?自然的な世界の構造や振る舞いを観察によって研究する学問ですから、どちらの領域も批判的な方法を用いて探究をおこなっています。ですので、3大学による共同専攻でこれら2つの学問領域を連携させたのは、博士課程の学生が異なる領域で広範な知識を身につけるのにとても賢明な措置だったと思いますし、実際に私がそれぞれの研究プレゼンテーションを聞いたところでは、文理融合は非常に興味深い視点だと実感しました。

共同サステイナビリティ研究専攻の授業風景

---文理融合がご自身の研究に役立ったエピソードがあればお聞かせください。

例えば、本専攻の学生の一人は、「開発途上国の医療機器」というテーマで研究しています。アフリカの健康状況は非常に不安定ですが、その大きな原因は、医療設備が十分に整っていないことにあります。政府はいつも立派な病院を建設しますが、設備や熟練した医師が足りません。アフリカの人々の健康状態を改善するサステイナブルな方法は、医療施設に適切な物資を装備するだけではありません。日本などの専門家が、現地の病院スタッフや技術者に、最新の医療機器の使い方を教えるといった協力を行うことで、日本のような国で行われていることを見習うことができます。このように、社会科学を専攻する私が科学的テーマから学ぶ多くのことは、発展途上国のコミュニティに貢献できるものです。

---他の学生の研究活動から刺激を受けているのですね。その他、本専攻の特色があれば教えてください。

学内外でのインターンシップも、このプログラムの非常に重要な要素となっています。私は、国土交通省をはじめとする日本のさまざまな組織でインターンシップを経験する機会を得ました。これらの経験により、私は日本の行政の仕組みを理解することができました。私自身、政府機関の職員として、日本の官僚機構がいかにスムーズに機能しているかに驚かされましたし、国土交通省の職員の方々には多くのことを教えてもらいました。このインターンシップ?プログラムがなければ、そういった事を目の当たりにするチャンスはなかったと思います。このほかに、パソコンやプリンターなどの再生品を扱うIT企業でもインターンシップを経験しました。

---大学での研究以外ではどのような活動をしているのでしょうか。

文献にあたっていないときは、大学の周辺を散策したり、家族と日本国内旅行に出かけたりしています。新宿で買い物をしたり、家族で街を散歩したりするのも好きです。また、知り合いになったセネガル人の友人と、横浜周辺で食事に行ったり、会ったりするのも楽しいですね。

最近は、本専攻に所属するバラが好きな学生の紹介でバラの育種家?専門家と知り合い、その方に招待されて、農業が盛んな千葉県の佐倉市を訪れました。まずは人気のバラ園を見学するために行きました。私はそれまでにもいくつかの園芸農業を何度か視察していたので、この緑溢れるバラ園の豊かな自然環境に惚れ込みました。このことがきっかけで、セネガルのメディナ?サバフの農村コミュニティ向けに、マーケット?ガーデニング?プロジェクト案を書くことを思いつきました。メディナ?サバフ市の農業は、ピーナッツの単一栽培に支配されており、貧困層の食料にはなりません。マーケット?ガーデニングは、農村の農家が農法を多様化することで生計を立てることができる持続可能な方法だと考え、今回、精力的に指導にあたってくれる私の指導教授の中山智香子教授とともに2度目の佐倉市視察を行いました。私たちは、印旛沼川と、周辺の水田を湿潤で肥沃な状態に保つための巨大貯水タンクを視察しました。また、土を使わない革新的な農業技術を試している農家や、土壌改良を専門に行う農家などにも訪れました。土壌の劣化が農業生産に甚大な被害を及ぼしているセネガルでは、土壌改良は切実に必要とされています。また、セネガルの農業システムを機械化するプロセスを開始するためのアイデアを得るため、中古トラクター整備工場も見学しました。今回の佐倉市への調査旅行は、セネガルの農村部における農業実践の新時代を切り開くきっかけになると期待できるもので、非常に重要なものでした。

(左)東京スカイツリーにて、(右)佐倉市のバラ園にて

日本での生活

---ご自身の研究テーマに限らず、さまざまな経験をされているのですね。ファファさんはご家族も日本で一緒に暮らしていると聞きました。

妻と娘も2022年7月に東京に来て一緒に暮らし始めました。2人が来日するまでの1年7カ月間は、一人で暮らしていましたが、家族がそばにいてくれるようになったおかげで、私はより研究に集中することができるようになりました。私は、独立行政法人国際協力機構(JICA)の研修員制度を利用して本学で学んでいるのですが、JICAと東京外国語大学が家族の来日をサポートしてくれたことに感謝しています。おかげ様で、思っていたほどには、家族の呼び寄せは大変ではありませんでした。私は家族と、自分が経験したことをすべて共有し、時々小旅行もします。とても幸せなことです。

ご家族との日本での生活

---2022年秋に本学のキャンパス内に保育園が設置されましたが、ファファさんは開園当初から利用されていますね。

本専攻に合格したことに加え、私たち夫婦にとっての最大の喜びは、娘がこの保育園*に通うという素晴らしい機会を与えられたことです。娘が来日したのは、ちょうど保育園の開園と同時期でした。指導教授のサポートを受けて申請を行い、娘の入園が許可されました。日本語教師と英語教師がいるのもこの保育園の強みです。わずか半年の保育所生活の後、英語に接したことのない娘(セネガルはフランス語が公用語)は、英語で会話し、日本語で歌うことができるようになりました。これは本当にすごいことです。また、大学は、彼女の保育費用の一部を負担してくれています。この学内保育園が利用できることは、慣れない日本に住む私たち家族にとってとてもありがたいことです。

キャンパス内保育園でのお嬢さんの様子

*PAL国際保育園@東京外大

---学内保育園がお嬢さんの言語体験に貢献しているのですね。日本での子育てで、生活や文化の違いで驚いた点はありますか。

保育園に驚いた点などはまったくありません。スタッフはとてもプロフェッショナルで、娘は保育園に行くことに不満を言ったりしません。また、外出時も、日本の方は娘にとても良くしてくれます。応援してくれる人、話かけてくれる人、中にはプレゼントをくれる人までもいます。皆さん娘のことを可愛がってくれます。

日本での子育て

今後のキャリア、メッセージ

---今後のキャリアはどのように考えていますか。

修了後は家族でセネガルへ帰国する予定です。私は政府職員ですので、セネガル地方自治?開発?土地計画省でのプランナーとしての職務を再開する予定です。日本にも多くのチャンスはありますが、ここ日本で得た知識や経験を母国の人たちと分かち合いたいと思っています。セネガルが発展するために、日本からインスピレーションを得てほしいのです。共同サステイナビリティ研究専攻の合同プログラムで学んだことは、その出発点になると思います。また、私は農業プロジェクトを実行に移す予定ですが、本プログラムの先生方やスタッフの方々にご協力いただき、セネガルの農村部の人々の持続可能な農業を実現できるように支援したいと思っています。セネガルでは、持続可能性が求められているのです。

セネガルのメディナ?サバフ市でのフィールドワーク

---最後に、共同サステイナビリティ研究専攻への進学を考える方へメッセージをお願いします。

アフリカ、アジア、南米、そしてもちろん先進国の若い知識人たちに、このプログラムにぜひ挑戦してほしいと思います。このプログラムは、私のように彼らの人生を確実に変えるでしょう。共同サステイナビリティ研究専攻は、世界がどうあるべきかというより良いヴィジョンを持つために必要なものです。この博士課程プログラムは、その構想、アプローチ、多様な学生層、そして教授陣の質において、類のないプログラムです。すぐ近くにお子さんを預けることができるすばらしい保育園があり、ご家族で安心して過ごせると思います。キャンパスの庭は緑が多く、とても広々としていて、近代的な設備が整っています。また、とても親切なスタッフがサポートしてくれる体制があります。ひと言で言えば、静かで落ち着いた研究環境が整備されており、院生にとっては最適の場所だと言えます。

---本日は、ご自身の研究生活についてお聞かせいただき、本当にありがとうございました。ここでのファファさんのご活躍が、セネガルで実を結ぶことを期待しています。

参照

お問合せ先

  • 専攻および大学院入試:入試課 入学試験係
    TEL:042-330-5179、Email:sus-info[at]tufs.ac.jp([at]は@に変えて送信ください)
  • その他:広報?社会連携課 広報係
    TEL:042-330-5150、Email:koho[at]tufs.ac.jp([at]は@に変えて送信ください)
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