世界のヘビ特集?良き巳年を祈念して?
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新年、明けましておめでとうございます。皆さまのご健康とご多幸を心からお祈りいたします。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
2025年の干支は巳年。ヘビは定期的に脱皮を繰り返すことから、成長と進化の象徴とされています。巳年を迎え、皆さまにとって2025年が成長に満ち、たくさんの実(巳)を結ぶ年になりますように。新年最初のTUFS Today特集は、今年の干支にあやかりまして、本学の教員が世界で出会ったヘビを紹介します!
※ ヘビが苦手な方はご注意ください。ヘビの画像が含まれます。
アフリカ、モックヌベンベの伝説
中部アフリカのカメルーンやコンゴ共和国には、コンゴ川やその周辺の湖や沼沢地、森の中にモックヌベンベやモケレベンベと呼ばれる巨大な蛇のような謎の生き物が棲んでいるという民話があって信じられています。この民話には流域によってさまざまなバリエーションがあり、私の調査地カメルーンのドンゴ村では森に棲む大蛇であり、川に寝そべると水をせき止めて湖ができるほど。コンゴ共和国のテレ湖では、ネッシーのような怪物として想像されているそうです(写真)。そちらの怪獣伝説については、早稲田大学の探検部が探しに出かけた顛末がノンフィクション作家の高野秀行さんによって『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)にまとめられています。
モケレベンベの彫刻とアーティスト
撮影地: コンゴ共和国サンガ州
撮影者:大石高典(大学院総合国際学研究院)
撮影年:2012年
中国、北京動物園 両棲爬行動物館で展示されていたヘビ
北京動物園の両棲爬行動物館(両生類?爬虫類館)で展示されていたヘビです。餌となるハツカネズミが生きたまま入れられていてぎょっとしましたが、これこそまさに日本各地の動物園で取り入れられている「行動展示」の先駆けだったのかもしれません。
撮影地:北京動物園(中国)
撮影者:山越康裕(アジア?アフリカ言語文化研究所)
撮影年月:2000年9月
西オーストラリア、世界最小の大蛇
巳&me
昨年のDragonに続いて、今年はPygmy Pythonとワタクシです。(リアル爬虫類が苦手な方にはごめんなさい、これで最後にします!) Pygmy Pythonは世界最小の大蛇(Python)で、成長しても身長は60cmほど。西オーストラリアにのみ生息します。
撮影地:西オーストラリア
撮影者:H.S.
撮影年月:2019年8月
西欧中世美術、イブを誘惑する悪の化身
?欧中世美術でヘビと言えば、まず思い浮かぶのが、旧約聖書の冒頭にある『創世記』でイブ(ないしエバ)を誘惑する悪の化身でしょう。
「主なる神が造られた野の生き物のうちで、最も賢いのは蛇であった。」(創世記3.1)
ヘビは、神が禁じた木の実を食べても死ぬことはないと女をそそのかします。
「女が見ると、その木はいかにもおいしそうで、目を引き付け、賢くなるように唆していた。女は実を取って食べ、一緒にいた男にも渡したので、彼も食べた。二人の目は開け、自分たちが裸であることを知り、二人はいちじくの葉をつづり合わせ、腰を覆うものとした。」(創世記3.6-7)
この場面を描いた名作は多々ありますが、ここでは10世紀末頃にイベリア半島北部で描かれた写本挿絵を紹介します。
主役のヘビは、知恵の木の幹にぐるぐると巻き付き、女の耳元に甘く囁きかけているかのよう。左右対称にデザイン化された知恵の木の葉は、まるで棕櫚(シュロ、ヤシ科の植物)のようで、お世辞にもおいしそうな木には見えません。葉先についているものが実なのでしょうか。
アダムとイブは、大きな葉で腰を覆っているところから、すでに木の実を食べ終えた後のようです。アーモンド型の大きな目は、当時のイベリアの写本挿絵に共通してみられる特徴ですが、ここではヘビを挟んで、ふたり、視線を送りあうさまが、なんともユーモラスです。
「お前のせいだぞ」「違うってば、このヘビのせい!」と非難しあっているのか、さてまた、自らの裸体を恥じながらも、木の向こう側にいる相手のことが気になっているのでしょうか。
アダムとイブの体が着ぐるみのようにもこもこしている点にもご注目ください。男女の違いを多少なりとも意識しつつ、イブの乳房を分かりやすくは描いていません。この挿絵を手掛けた絵師だって裸身を見たことがなかったわけではないでしょう。それなのに、裸体を写実的に描くことを、意識的にか無意識的にか忌避しています。肉体を人間の原罪や汚れと結びつけて説いたカトリックの教えが、絵師のまなざしと手に大きく作用していたことがわかります。
「もっと見えるとおりに描けばいいのに」と思われるかもしれません。でもこの絵師には、こう見えていたのかもしれないのです。目と手の関係が一筋縄ではいかないのが、絵というものの面白いところです。
(聖書からの引用は新共同訳聖書に拠る。)
提供:久米 順子(大学院総合国際学研究院)
ベトナム北中部、ウミヘビ料理
ベトナム北中部、クアンビン省ドンホイの地元の海鮮料理店では、ウミヘビ料理が特産として提供されていました。ウミヘビには滋養強壮などの効果があるとされ、わざわざ薬効について解説したパネルが店内に掲げられていました。ハノイ近郊やメコンデルタにもヘビ料理(こちらは陸上のヘビ)で有名な地域があります。
いずれも
撮影者:小田 なら(世界言語社会教育センター)
撮影年:2011年
シリア、医神アスクレピオスの杖
ギリシア神話に登場する医神アスクレピオスが持っていたとされる、蛇が絡んだ杖は、医療や医術の象徴として世界的に広く用いられています。アプロディーテーに愛された美少年アドニス、テーベの都の建設者で、ギリシアに文字を伝えたとされるカドモス、ゼウスとの間に3人の子をもうけたエウロパが生まれたとされるシリア(歴史的シリア)でも、アスクレピオスの杖は病院、薬局、医師会、薬学会のシンボルに採用されています。写真は、本学のハルドゥーン?フサイン先生の故郷であるハマー県サルハブ市の市街地入口にあるビシュラーウィー薬局のものです。
撮影地:シリア ハマー県サルハブ市
撮影者:青山 弘之(大学院総合国際学研究院)
撮影年月:2024年8月
イラン世界と蛇
イランの神話上の歴史を描いた英雄叙事詩『シャーナーメ』(王書)では、よく知られているエピソードの一つとして、蛇王ザッハーク(zahhāk-e mār du?)の話があります。
隣国の王であったザッハークは、悪魔の唆しに陥って呪いをかけられ、両肩から蛇が生えてしまい、それを鎮めるために毎日人間の脳みそを蛇の餌にしていました。この頃、イランの伝説の王ジャムシードの治世が弱体化し、ザッハークはこれに乗じてイランに攻め込み、王となります。しかし多くの?衆を両肩の蛇のための毎夜の生け贄とするなど、暴虐の限りを尽くして圧政をしいたため、人びとの恨みと反感は高まります。とうとう鍛冶屋のカーヴェの反乱を機に、次王となるフェリードゥーンによってザッハークは倒されてダマーヴァンド山に幽閉され、暴政の時代は終わりを告げます。
このザッハークとフェリードゥーンは、ゾロアスター教の聖典『アヴェスタ』に起源をもつキャラクター(アジ?ダハーカ、スラエータオナ)です。アジ?ダハーカ(A?i Dahāka)は『アヴェスタ』では三口、三頭、六目をもつ怪?のような姿で、邪神アフリーマン側の生き物として登場します。これを退治するのは英雄スラエータオナ(Θraētaona)で、これが『シャーナーメ』ではフェリードゥーンとなります。なおゾロアスター教では蛇は「有害な生物」と説明されています。また a?i dahāka は、現代ペルシア語では e?dahā となり、蛇(mār)でなく「?」の意味になっています。
ちなみに、1978?1979年のイラン?イスラーム革命時には、当時のパフラヴィー国王を圧政王ザッハークになぞらえて、両肩から蛇を生やした国王のポスターが貼られたことがあったようです。
画像引用元:
Muhammad Bagher Aghamiri, 1990. Miniatures, Tadhhib and Tash'eer, Soroush Press.
Tony Allan et al., 1999, Myth and Mankind?Wise Lord of the Sky: Persian Myth, Duncan Baird Publishers.
提供:吉枝 聡子(大学院総合国際学研究院)
アメリカ、ホピ族先住民のスネーク?ダンス
1924年ごろ撮られた、3匹のヘビを首にまとったホピ族先住民
“Hopi Indian Study #22.” Arizona, ca. 1924. Photograph.
https://www.loc.gov/item/90710213/
主としてアリゾナ州北東部の地域に住むアメリカ先住民のホピ(Hopi)族は、スネーク?ダンスとして知られる儀式をおこなうと言われています。
情報提供:入江 哲朗(世界言語社会教育センター)
ブラジル、虹と蛇の神「オシュマレ」
オシュマレ(Oxumarê)は、アフロブラジル宗教の神で、虹と蛇を象徴とし、動きや、変化、そして天と地を結ぶ役割を担います。二元を統合し、生命力の循環や宇宙の調和、富、繁栄を司るとされています。蛇を象徴としていることは、その形状や動き、脱皮する性質と関係があるようです。
提供:武田 千香(大学院総合国際学研究院)
本記事のお問い合わせ先
東京外国語大学 広報?社会連携課 広報係
Email:koho[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)