新しいヨーロッパ史概念の構築へ ―東京外国語大学の「頭脳循環研究プロジェクト」
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本学大学院総合国際学研究院は、平成26年より、頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム「境界地域の歴史的経験の視点から構築する新しいヨーロッパ史概念」プロジェクトを推進しています。
「頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム」(略称「頭脳循環研究プロジェクト」)とは、文部科学省の主導のもと、国際共同研究ネットワークの核となる優れた研究者を育成し、我が国の学術の振興を図ることを目的とし、日本学術振興会が実施しているプログラムです。2016年2月から3月にかけて、本プロジェクトの一環として、国際研究集会が3回にわたって開催されました。今回のTUFS Todayでは、その様子をお伝えします。
プロジェクトの目的と概要
この研究プロジェクトは、イギリスやフランスといった西欧諸国をモデルに理解されてきた「ヨーロッパ」の歴史や、「ヨーロッパ史」という概念そのものを、中欧?東欧などの「境界地域」の経験から再検討し、新しいヨーロッパ史像を模索するものです。
このプロジェクトを推進するために、本学から中央ヨーロッパ大学(ハンガリー?ブダペスト)、国際文化センター(ポーランド?クラクフ)、および欧州大学院(イタリア?フィレンツェ)に、合計6名の若手研究者が派遣されました。また、これら海外の研究機関からも、本学に研究者が招聘され、上記の研究プロジェクトを進めてきました。さらに、研究遂行を支えるための国際ネットワークがダイナミックに構築されてきました。3度の国際研究集会は、これらの中間成果を問いつつ、さらなる研究発展を目指して開催されたものです。
2016.02.05 クラクフ会議
第1回「外からみたヨーロッパ」(2月5日、国際文化センター)では、本学から5名、国際文化センターから3名が、個々の研究プロジェクトについて報告を行い、戦争、宗教、プロパガンダ、公共建築、絵画、感情といった多彩なキーワードをもとに、「境界地域」という視点の重要性を確認しました。ヨーロッパの多様性と、その多様性のなかにある歴史的経験の共通性について、活発に議論が交わされました。
2016.03.17-18 ブタペスト会議
第2回「暴力の記憶?記憶の暴力性」(3月17-18日、中央ヨーロッパ大学)では、戦争における虐殺?虐待とその記憶をめぐる諸問題といったような、暴力と記憶の問題をとりあげました。本学と中央ヨーロッパ大学からそれぞれ3名が研究報告し、またそれぞれ別の3名が相手大学側の報告にコメントをするというかたちで、2日間にわたり白熱した議論が交わされました。
2016.03.25 東京会議
最後に、本学で行われた第3回会議(3月25日)は、「ヨーロッパ近代におけるリベラリズム再考(第1部)および「ヨーロッパにおける文化遺産と歴史意識」(第2部)というテーマについて、第1回、第2回の議論をふまえたうえで、研究代表者の篠原琢教授(大学院総合国際学研究院)以下、中央ヨーロッパ大学と国際文化センターから招聘された各研究分野を代表する研究者が報告を行いました。各報告のあとには討論者によるコメントが続き、フロアからも質問が相次いで出され、刺激的な議論が展開しました。
成果
今年度の大きな成果は、このように共同研究を進め、国際会議を重ねるなかで、日本の人文学の伝統のなかで育まれてきた比較史的視点の重要性を示したことです。本研究プロジェクトには、日本側からヨーロッパ史研究の伝統に挑戦するだけでなく、共同研究をつうじてヨーロッパの研究者の関心を、非ヨーロッパ世界に開いていくという意義があります。そのためには、個々の研究者同士の地道な対話と、対話に基づいた新しい歴史像の構想が必要となります。3つの国際会議は、このことを確認する貴重な場となりました。