コロナが影響する社会問題を、現場と自分たちとの関わりから考える~四大学学生ワークショップを終えた座談?
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コロナ禍の中で起きている社会問題に、我々の研究はどのように貢献することができるのか。2021年夏、四大学連合(本学、東京医科歯科大学、東京工業大学、一橋大学)の学生が知を集結し、コロナ社会に挑む2日間のワークショップを開催しました。
今回のTUFS Todayでは、東京外国語大学から参加した4名の学生と本企画を主催した中山俊秀副学長との座談会をおこない、ワークショップを終えた感想を持ち合いました。
座談会参加者
- 中山俊秀(なかやまとしひで)副学長(本学アジア?アフリカ言語文化研究所/教授)
- 戸島毬絵(とじままりえ)さん(大学院総合国際学研究科博士前期課程2年)
- 上加夏未(じょうかなつみ)さん(国際社会学部3年)
- 中矢温(なかやのどか)さん(国際社会学部4年)
- 本多瑛麻(ほんだえま)さん(国際社会学部3年)
本文では各大学名を次のとおり略して記載します。
東京外大:東京外国語大学、東工大:東京工業大学、医科歯科大:東京医科歯科大学、一橋大:一橋大学
ワークショップのコンセプト
今回のワークショップでは、所属大学も学年も異なる学生を寄せ集めた班でグループワークを行いました。ワークでは「高齢者の孤立」「飲食店の対応」「大学の現場への影響」の3つのテーマに着目し、現在の感染症対策によって現場で生じている苦しみについて論じました。そしてその苦しみを今よりも和らげることのできる新しい感染症対策について提案しました。
四大学連合ポストコロナ社会コンソーシアムは異分野融合研究の促進を目指しています。研究者同士で異分野交流を行う際、それぞれの学問分野によって問題意識や着眼点が異なるため、一緒に議論をして異分野の知識を融合させた研究に発展させづらいという課題があります。そこで、今回のワークショップではまだ専門化が進んでいない学生同士を交流させることによって、学問分野の溝を超えた融合を発生させる狙いがありました。
またワークショップでの議題をコロナ対策とした理由は、中国体彩网手机版感染症は社会のあらゆる面に影響を及ぼしており、様々な切り口から議論が可能であるため、大学での学びを総動員して考えるにはうってつけのテーマであったからです。
さらに中山副学長によると、今回ワークショップを企画した背景には、学生たちに自らコロナ対策を考え出す「生産者」の立場に立ってほしいという思いもあったそうです。私たち学生の多くは、コロナ対策が与えられる、いわば「消費者」の立場に立つことが多いかと思います。つまり行政や大学、アルバイト先など、他人が決めた対策をそのまま受け入れるか、もしくは無視をするか程度の選択肢しか与えられておらず、自らがコロナ対策を考え出す自由が与えられることはめったにありません。しかし今回のワークショップでは、一般市民として、あるいは学生として、コロナ禍で遭遇した苦しみについて話す時間や、その苦しみを和らげる解決策について論じる時間が設けられていました。自分自身で対策を生み出す「生産者」の立場に立つことで、学生たちが主体的にかつ前向きにコロナと向き合うきっかけが得られるのではないか、という考えがあったとのことです。
異分野交流の難しさ
中矢 実際に専門分野の異なる学生とグループワークをしてみていかがでしたか。
戸島 他大学の人と議論をするのは思っていたよりもずっと難しいと感じました。私たちの班員は東京外大生?東工大生?医科歯科大生という構成だったのですが、東工大生が政策ベースの解決策を考えようとする一方で、東京外大生が問題の背景について話し合いたがる、という調子で話が噛み合わない場面がありました。
中矢 結局のところ、どのように落ち着きましたか?
戸島 最終的には上手くまとまりました。話し合いを重ねる中で、私たちの「コロナという問題そのものについて話し合いたい」とか「現場でできることを考えたい」という意見を伝えられたかと思います。
中山副学長 理系と文系で話し合いたいポイントが違うというのは興味深いですね。実際、文部科学省の文理融合に関する報告書でも、文理の間で問題意識が違うことが問題点として挙げられています。今回みなさんが他大学との交流を通して触れた問題や違和感というのは、社会のいろいろなところでも起きている問題です。なので、今回異分野の人と関わるときに持った違和感は大事にしてほしいですね。
本多 私も議論をするまでに道筋を立てるのが難しいと感じました。例えば大学ゼミで話し合いをする時、みんな問題への向き合い方もその問題にかける熱量も似ているので、すっと議論に入っていけます。ただ違う分野の人たちだと、思考の組み立て方にズレがあるため、話をすり合わせる努力が一層必要になると痛感しました。
中矢 私たちの班は、大学とコロナ対策という身近なテーマで課題に取り組んだのですが、学生の中にもそれぞれの立場特有の苦しさがあると気がつきました。まるで社会の縮図みたいですよね。特に医科歯科大生たちの医療従事者として社会と関わることへの責任感が印象的でした。
中山副学長 主催者としては、学生の皆さんには他人の当事者意識を身に纏う想像をすることで、自分たちの当事者意識を広げて欲しいという思いがありました。相手の立場を想像して共感する力というのは、立場の違う人と話をする上での命だと思うからです。だから中矢さんが医科歯科大の当事者意識に触れた体験は、今後立場の違う人と分かり合う上で大きな力となるのではないでしょうか。
解決の鍵は主体性
上加 私は大学間の考え方の違いはあまり感じませんでした。というのは飲食店のコロナ対策について議論したので、みんな客としての視点を共有していたからだと思います。ただ客としての現在のコロナ対策への不満は意見が出たものの、それをどう解決策につなげるかで苦労しました。
戸島 上加さんの班は「Slack」(チームコミュニケーションツール)で頻繁にやりとりをしていましたが、なぜそんなに話が盛り上がったのでしょうか?
上加 実は私たちも最初は全然盛り上がっていませんでした。ただ私がいろいろと思い付いて喋りたくなるタイプなので、何か意見が思い付くたびに共有していました。あとはオンラインの話し合いだと反応が伝わりづらいため、他の人の発言には相槌を大きく打つように気をつけていました。それで話しやすい空気は作れたかと思います。でも私の他にも、いろいろな人の貢献が折り重なって話が盛り上がったのだと思います。例えば最初「パーテーションはダサい」という意見がありました。そこから「どういうパーテーションなら楽しいか」と問題提起をした人がいて、みんながアイデアを考える基礎を作ってくれました。私が「落書きできる透明のパーテーションならコミュニケーションが取れて楽しい」という案を出したり、別の人が「水槽でできたアクアリウムのようなパーテーションなら楽しいんじゃないか」と意見を出したりしました。最初にパーテーションの話を出した人も問題提起につなげた人もいたおかげで、たくさんアイデアが出て議論が盛り上がりました。
中矢 議論ってみんなが大発見をしなければいけないわけではなくて、まだ形になっていないふやふやの考えを、みんなでトンカチで叩いて作り上げていくように、アイデアを練り上げる作業も大切ですよね。
中山副学長 上加さんの班は誰か一人の貢献ではなくて、みんなのやりとりの中で発想が生まれたのですね。
本多 私たちの班は上加さんの班とは対称的に、全然意見が出ずに苦労しました。行政レベルの対策がいくつか出たのですが、それでは物足りないと思い、スライドをまとめるときに私が自分の判断で意見を追加しました。
中山副学長 議論にならなかったけど話を突っ込んでみた、という思い切りは大事ですよね。ポンと放り込んだものが、触媒になって次に繋がることも多いですし。
中矢 初日の講演会での東京外大?布川あゆみ特任講師のお話で、先生方も手探り状態でコロナに向き合っているため学生の声を知りたがっているというのが新しい気づきでした。「私一人の意見なんて役に立たないし……」と思いがちかもしれませんが、少なくとも東京外大は学生の声を見ているので、学生課の窓口やアンケートなどで自分の意見を発信することで、大学を変えていけるかもしれないですね。
中山副学長 それは本当にそうですね。私は大学の中枢部に近いところにいますが、アンケートやレスポンスを返してもらえると本当に助けになります。大学側の投げかけに対して学生も答えてくれると大学側も学生側により的確な情報や支援を提供できます。お互いに情報交換をして対話を成立させることで、大学全体がよくなっていくと思います。
コロナ禍での東京外大生としての日常
上加 せっかくの機会なので聞きたいのですが、みなさんは東京外大生としてコロナとどう関わっていますか?
私から日常での変化を話しますと、後輩から履修の相談を受けて、確かに対面で会って友達に気軽に聞けないと困ることも多いと気がつきました。先生や職員の人に聞く機会もあったかもしれませんが、そこでは得られない情報もあると思います。この先生いいよ、なんて話も先生の前ではしづらいですし、友達や先輩に直接気軽に聞ける機会がなくなったのは大変ですよね。
中矢 初日の講演会でも、去年の春頃は学生相談窓口にPDFとは何かという質問があったという話がありましたよね。友人と一緒に授業を受けているとすぐに解決したものが、窓口に問い合わせないと分からない状況で、本当に大変だったと思います。ただオンライン授業開始とともに一気に増えた相談件数が、昨年1年間を通して少しずつ減っていったことは救いだと思えますよね。みんな手探りで解決できるようになったということですものね。
戸島 私も対面で会わないと得られにくい情報はあると感じています。私のゼミは昨年、オンラインで実施していたのですが、今年は対面でやるようになりました。すると今年のゼミは去年に比べて学生同士の質問や発言が増えたように感じます。確かにオンラインでも対面と変わらず授業はできますし、オンラインならではの利点もたくさんあります。しかしオンラインと対面だと、そこで繰り広げられている議論の内容は違う可能性はあるのではないでしょうか。
本多 私のサークルは演劇サークルなので、オンラインで活動はしてみたものの、どうしても対面ありきなところがあります。特に1年生とオンラインで活動するときに、相手の理解度や盛り上がり具合などが、オンラインではどうしてもよく分からず不安でした。画面の中でしか見たことない人たちが、話について来られているのか想像するのが難しかったです。その分相手の考えなどを表情などから慮るスキルはついたかと思うので、それはよかったことなのかもしれませんが。
ただその中でも、新入生の強さもすごく感じました。周囲からすると今年や昨年の新入生は対面の活動もできず、友達もできなくて可哀想、と見えがちなのですが、実際に1年生の話を聞いていると、状況を受け入れていて適応しているように思えます。例えばSNSで人と繋がり友達を増やしているようで、たくましいなと感じます。
中矢 私も後輩たちがTwitterのハンドルネームで呼びあったりしているのを見て、新時代だなと思いました。
上加 Twitterの「#春から東京外大」というハッシュタグも、以前よりも増えましたね。
中矢 私は留学をする予定だった年にコロナが広まってしまったため、大学院に進学してタイミングを伺うか、諦めてもう就職するかで迷いました。きっとコロナ前は留学に対する熱意が60%だったとしても留学に行けたかもしれませんが、コロナによって90%や100%の熱意がなければ行けなくなりました。留学にいつか行けることを信じ続けられる強さがあるかどうかが問われた気がします。
上加 周りのご友人も留学するつもりで待っている方が多いのですか?
中矢 人それぞれです。留学を諦めて就活を始める人もいたり、休学したり大学院に進学して留学に行けるタイミングを待つ人もいたり……。周りの友達がどういう選択をしたのかどうかも、後になって知る状態でした。
戸島 自分自身で考えて自分にとっての最適解を探していくという状況だったんですね。
中山副学長 留学制度のように普段ならもう歩くための道が決まっているようなことでも、変化の波が押し寄せているときは、色々難しい問題や決断がからんでその道が獣道みたいになっていますよね。以前に比べてある意味リスクが高くハードルが高くなっているかもしれないけれども、別の視点から考えると、相対的にはどの道も今ならリスクに差はなくて逆に色々な道が選びやすくなっているかもしれない。その点選択の自由度は上がっているかもしれないですね。
総括
中矢 ワークショップやコロナ禍を通じて気づいたことを最後に一言ずつお願いいたします。
本多 今回のワークショップを通して、分野が違う人たちと話していると新たな発見ができることとか、オンライン上でしかあったことのない人とでも、議論しあえるポテンシャルを自分たちは備えていることなどに気がつきました。自分たちがコロナ禍の中で、人とどう関わっていくべきなのかが分かった気がしました。
戸島 自分の考え方の癖に気が付けた気がします。大学生活での学習を通して、問題に直面したときの向き合い方や思考プロセスを自分の中で確立しつつありました。でもそれは必ずしも他の人にとっては普通ではないことに、他大学の方と交流することで気が付けました。まずは自分の特徴を自覚することが、他の人の考え方を理解するための第一歩になるのかもしれないと思いました。
上加 コロナ禍で感染症対策への意識の差などが浮き彫りになって、分断を感じることも多いかと思います。でもこの状況だからこそ、人と話すことは大事だと思いますし、自分にも凝り固まった思考はあると思うので、相手の話を聞いて共感することが大事だと思いました。
中矢 東京外大は学生の声をきちんと見ていることが改めて分かりました。なので東京外大が実施するアンケートなどで自分の意見を伝えることはすごく有効なことであり、あるいは権利かもしれないと思いました。どこにきっかけが落ちているのかは分からないので、主体性や前向きさを持って、自分の所属している団体に関わってみるのは大事なことだと気が付きました。
編集後記
中山副学長とは今回のワークショップで初めてお話ししたのですが、学生一人ひとりが何を考えているのかに興味を示してくださっている、温かい人柄を感じました。
また一緒に座談会に参加した他の学生の方3名も、それぞれ独自の視点から感想を教えていただき、ハッとさせられる場面も多くありました。特に上加さんの、「チームメンバー全員がアイデアマンやまとめ役など、自分の得意な役割を果たしてくれたからいい提案ができた」という感想には、初対面ばかりのメンバーだったはずなのに、本当に周りの人をよく見ているな……と感服しました。
終始明るい雰囲気で、大変話しやすい座談会でした。
取材担当:大学院総合国際学研究科博士前期課程2年 戸島毬絵さん