イベリア写本の愉しみ —中世の光と影、展示や上映?トークで紹介— ?久米順子准教授インタビュー~
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2024年6月7日(金)から7月12日(金)までの期間で、附属図書館2階ギャラリーにて、現在のスペインとポルトガルが位置するイベリア半島において中世に作られた写本の展示を開催しています。今回のTUFS Todayでは、本イベントを企画した久米順子准教授にお話を伺うとともに、関連の催しなどを紹介します。
企画した久米順子准教授にインタビュー
今回、附属図書館でのギャラリー展のほか、ブックトークイベントやTUFS Cinemaにおいて2回に分けて関連映画の上映?トークが開催されます。一連のイベントを企画した、大学院総合国際学研究院の久米順子准教授(スペイン中世美術史、西洋美術史)にお話を伺いました。
——今回の一連のイベントを企画した意図は?
中世のこの地域の写本には、キリスト教?イスラーム教?ユダヤ教の三宗教の信徒が、鬩ぎ合い(せめぎあい)の中で交流を深め、お互いの言語や文化をある程度まで理解?共有していた有り様がみて取れます。写本の精巧な複製であるファクシミリ版やパネル、そして上映などを通して、中世のイベリア社会の様子を伝えていけたらと思い、企画しました。ちょうど上野の国立西洋美術館で「内藤コレクション 写本 いとも優雅なる中世の小宇宙」(6/11-8/25)が開催されるタイミングでもあり、日本ではなかなか見ることのない中世の写本をご紹介するチャンスだと思いました。
——ギャラリー展ではどのようなものが展示されるのでしょうか?
ラテン語、中世カスティーリャ語、ヘブライ語で書かれた資料を展示します。多様な書体を楽しんでいただけると思います。時代や地域により異なる趣を見せる装飾?挿絵にもご注目いただけたらと思います。
——6月11日と27日には、ブックトークも予定されていますね。
中世イベリア写本について皆さんにより理解を深めていただくため、展示の隣のスペースで、6月11日(火)は17:40から、27日(木)は14:20から、お話をさせていただく予定です。実は、附属図書館の貴重書室にあるファクシミリ版のひとつは、大きすぎて展示ケースに入りませんでしたので、ブックトークでお披露目の予定です。間近でご覧いただく絶好の機会です。事前申し込みは不要で途中入退場も可能ですので、学生さんはもちろん、地域の方や中世イベリア写本に興味のある方にぜひご参加いただけたらと思っています。
——企画中、映画上映会も開催されますね。
「中世の光と影:書物をめぐる冒険」と題して、2回にわたり、書物(写本)を影の主人公とする広義の中世映画を上映します。争乱や迫害に絶えず脅かされながらも、人々に生きる希望を与え、知の継承を可能たらしめてきた本が持つ力を、皆さんと一緒に再確認する機会にできればと思っています。
——具体的には、どのような映画を上映されるのでしょうか。
第1回目の6月23日(日)には、2009年にフランス?ベルギー?アイルランド合作で製作されたアニメーション映画『ブレンダンとケルズの秘密』を上映します。9世紀のアイルランドが舞台で、高名な修道士エイダンが、バイキングに襲われたスコットランドのアイオナ島からアイルランドのケルズ修道院へ、一冊の未完の書物を手に逃れて来ます。迫りくる闇を打ち砕き、世界に光を取り戻すために、その「聖なる書」を完成させねばなりません。主人公の少年は、その材料を探しに森へ向かう…というファンタジックなストーリーです。本作品は、西欧中世写本の傑作のひとつであり「世界で最も美しい本」とも呼ばれる『ケルズの書』(ダブリン大学トリニティ?カレッジ図書館蔵)にインスピレーションを得たアニメーション映画です。曲線美と色彩美あふれる画面と、少年の冒険譚を通して、「本の力」を伝える作品となっています。この映画はイベリア地域と直接の関係はないのですが、中世の写本挿絵の面白さを皆さんに知っていただきたく、また、ケルト文化圏にはイベリア北部も入ることなどから選びました。英語音声に日本語字幕がつきます。上映後には、映画における中世イメージを研究中の美術史家、新リスボン大学のアリシア?ミゲレスさんにオンラインで参加していただき、スペイン語で解説をしていただきます。通訳がつきますのでご安心ください。
第2回目の7月7日(日)には、1997年にエジプトとフランスにより製作された『炎のアンダルシア』を上映します。12世紀のアンダルス(イベリア半島南部のイスラーム圏)を舞台とした珍しい作品で、実在した哲学者イブン?ルシュド(ラテン名アヴェロエス)が主人公です。陰謀、恋愛、家族愛、アクション、ミュージカル場面がてんこ盛りのエンタメ大作でありつつ、20世紀エジプト映画の巨匠シャヒーン監督が、思想?言論の自由を熱く訴える作品です。こちらは、上映後に、スペイン?モロッコを中心とした西地中海地域の中近世史を研究している西南学院大学の押尾高志さんにお話ししていただきます。
——いろんな角度から中世イベリア社会に触れることができる、大変貴重な機会です。実は、一連の企画ではないのかもしれませんが、スペイン音楽のピアノ?トークイベントやカタルーニャ料理を紹介する講演会もあるのですね。
6月12日(水)1限の「イベリア地域基礎1」の授業で、スペイン音楽を主要レパートリーのひとつとして国内外で活躍するピアニスト西澤安澄さんをお迎えして、演奏を交えながらスペイン音楽を解説していただく予定です。ファリャやグラナドスといった作曲家の作品に触れられる貴重な機会です。また、フランス語圏への留学のことや、スペイン音楽に魅せられたきっかけ、イタリアやスペインでの生活などもお話しいただく予定です。授業内講演ですが、どなたでもご参加いただけます。スペインのピアノ音楽を聴いてみたい方、海外で学び、仕事をする生き方に関心のある方、朝8時半と早いですが、プロメテウス?ホールでお待ちしています。
また、7月1日(月)には、日本で活躍中のカタルーニャのシェフであるジョセップ?バラオナ?ビニェス氏を迎えて、カタルーニャ料理の基本についてお話しいただきます。これは、本学が学術交流協定を結ぶラモン?リュイ院との提携授業でのイベントで、この授業を担当されているダニエル?フォルテア?ムニョス先生が企画してくださいました。使用言語は日本語になります。こちらも、どなたでも参加いただけます。
——この初夏、イベリアが熱いですね。楽しみにしています!
開催情報
開催期間:2024年6月7日(金)~7月12日(金)
附属図書館開館時間場所:附属図書館2階ギャラリー
日時:2024年6月11日(火)17:40~
2024年6月27日(木)14:20~
場所:附属図書館2階ギャラリー
トーク:久米順子(東京外国語大学)
https://www.tufs.ac.jp/event/2024/240607_2.html
TUFS Cinema 「中世の光と影:書物をめぐる冒険」①「ブレンダンとケルズの秘密」
日時 2024年6月23日(日)14:00開映(13:40開場、16:30終了予定 )
会場 東京外国語大学 アゴラ?グローバル プロメテウス?ホール
その他 本編上映後にトークあり
入場無料、定員500名(先着順)、一般公開
TUFS Cinema 「中世の光と影:書物をめぐる冒険」②「炎のアンダルシア」
日時 2024年7月7日(日)13:00開映(12:40開場、16:30終了予定 )
会場 東京外国語大学 アゴラ?グローバル プロメテウス?ホール
その他 本編上映後にトークあり
入場無料、定員500名(先着順)、一般公開
日時:2024年6月12日(水)8:30~10:00
会場:東京外国語大学 アゴラ?グローバル プロメテウス?ホール
ゲスト:ピアニスト 西澤安澄氏
その他:予約不要、参加無料
日時:2024年7月1日(月)12:40~14:10
場所:東京外国語大学 アゴラ?グローバル プロジェクトスペース3階
ゲスト:カタルーニャシェフ ジョセップ?バラオナ?ビニェス氏
その他:予約不要、参加無料