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世界を語ろう@TASC シリーズ第4回:アフリカ研究を多層的視点から ?対談者:武内進一教授

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地域研究のシンクタンクとして本学の研究?教育を社会に対して発信することを一つの役割として担うTUFS地域研究センター(TASC)が行うTASC対談シリーズ。吉崎知典TASCセンター長が、世界各地域の諸問題について、本学の教員と対談していきます。

第4回は、現代アフリカ地域研究センター長の武内進一教授をお招きし、現代アフリカにおける国家形成、土地問題、そして開発の課題について対談しました。特に、ルワンダの事例を通じて、アフリカの国家建設における複雑な力学と、地域研究における多層的アプローチの重要性について伺いました。(対談が行われた2025年3月4日時点の情報に基づく内容です)

第4回目の対談者:
武内進一教授
略歴 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授、現代アフリカ地域研究センター長。アジア経済研究所で30年以上にわたりアフリカ研究を行い、国際協力機構(JICA)研究所上席研究員として研究活動も行った。専門はアフリカの政治研究、特に土地問題、平和構築、国家形成に関する研究を行っている。2017年より現職。アフリカの土地問題や国家のあり方について、実地調査と理論的考察を組み合わせた研究アプローチで知られる。

ファシリテーター:
吉崎知典特任教授/TUFS地域研究センター(TASC)長
専門分野は平和構築、戦略論、日本の安全保障等。慶應義塾大学法学部卒業、同大学院法学研究科修士課程修了。防衛庁防衛研究所助手、同主任研究官、防衛省防衛研究所理論研究部長、同特別研究官(政策シミュレーション)、同研究幹事を歴任した。2023年4月より現職。その間に英国ロンドン大学キングズ校客員研究員、米国ハドソン研究所客員研究員なども兼任。

アフリカの土地問題と国家形成

吉崎  TASCの図書コーナーは2024年10月にオープンし、3300冊の本があります。ダルフール、ケニア、ソマリアなどの本が多くありますので、アフリカの留学生にもよく利用してもらっています。本日の対談では、武内先生に、アフリカ研究や現在の活動でお考えになっていることをお伺いできればと思いますが、まずは現在の研究の関心についてお聞かせいただけますか。

武内  私は2017年から東京外大で勤務をしていますが、東京外大にくる前の5?6年間は、アフリカの土地問題に取り組んでいました。アジア経済研究所に所属していましたが、2009年から3年間、JICA研究所に出向し、紛争が収まった後の土地問題について共同研究をしました。紛争が多い途上国では、紛争が収まった後も土地問題が生じ、政情が不安定になることがよく観察されます。これはアフリカ、バルカン、アジア(カンボジアやスリランカ)などでも見られた現象です。その後、アフリカの土地問題についてもっと知りたいと思い、アジア経済研究所に戻って2回研究会を立ち上げ、アフリカの土地に関する共同研究を行いました。そして、ちょうどその成果が出る頃に現在の職場に移ってきました。

アフリカの国家をめぐる研究にも取り組みたいとずっと思ってきました。アフリカを見ていると、土地や開発、平和構築や政治など、様々な問題が国家に深く関わっています。19世紀末のベルリン会議で外から国境線が引かれ、それまでの政治のあり方とは全く切断された形で国家ができたことが、政治的不安定や経済危機に関わる問題につながっているとされてきました。

外から与えられた国家というのは非常に大きな課題ですが、アフリカの人々はこれを受け入れ、与えられた国境の下で国づくりを進めてきました。最近では、統治能力の弱さが指摘される一方で、ルワンダのように非常に強い統治を行う国も現れてきました。ルワンダでは2010年代の数年間で国土全域の土地権利証書を発行するなどの強力な統治が見られます。アフリカ国家についてもう一度考える必要があると感じて、ここ5年ほどその取り組みを続けています。

武内 現代アフリカ地域研究センター長

ルワンダの事例

吉崎  ルワンダの話題がありましたのでお伺いできればと思いますが、日本の大学生にとってルワンダは虐殺のイメージが強いと思います。国家が破綻し、民族浄化を行った国が、先生がおっしゃるように国づくりやガバナンスで成功例として挙げられることがある。その背景について教えていただけますか。以前、米軍の方から、東京の米軍基地から直行便でルワンダに行くことができると伺いました。ルワンダの空港や大使館、ネットワーク、Wi-Fi環境が非常に優れているとのことです。我々が持つアフリカの国々や社会に対するイメージと、現状や将来の可能性とのギャップが最も大きいのがルワンダなのかもしれません。先生のご意見をお聞きしたいです。我々が思うアフリカとルワンダのギャップの原因は何でしょうか。成功の背景に関係があるのでしょうか。

吉崎 TASCセンター長

武内  ルワンダは非常に複雑な国です。成功と呼べるかどうかも議論の余地があります。米軍の飛行機がルワンダに直行することは象徴的です。アメリカはジェノサイドが起こったときにそれを認めないという外交的失態を犯しましたが、紛争後のルワンダを強く支援してきました。ジェノサイドに関しては、国連を始めとする国際社会も結果的に傍観していたわけで、それに対する深い反省から国連PKOのあり方も変わりました。ジェノサイドは内戦末期に起こり、そこでは人口的マイノリティのトゥチ人が標的とされましたが、内戦に勝利して誕生した新政権は、やはりトゥチ人を中心としたゲリラ組織が中心になったものでした。この新政権にアメリカとイギリスが深くコミットし、支持してきたのです。ポール?カガメ(ルワンダの現在の大統領。2000年に就任。トゥチ人)という元ゲリラ組織の総司令官が率いるこの政権は、軍事的なバックグラウンドを持ち、強権的な統治スタイルを採用しています。

カガメ政権は、汚職を抑制し、政策の実効性を上げるなど、経済的なガバナンスを効率化しました。ITにも力を入れ、首都ではWi-Fi環境が良くなり、街も非常に綺麗です。数年前にルワンダで会議を開催し、ガーナ人などを連れて行った際には、路上に物売りがおらず、歩行者が信号を守っていることにみんな驚いていました。ルワンダは政権の安定や治安の良さ、先進国的な設備が整っていることから評価されています。

首都キガリの風景。
バイクタクシーはヘルメット着用が義務づけられている。路上に物売りはいない。

吉崎  ルワンダの周辺には、例えばコンゴ民主共和国のように長い内戦や紛争が続いている地域もあります。ルワンダだけを見て成功と語るのは全体像を見ていないかもしれません。ルワンダに関心が集中しているため、その成功が強調されているのかもしれませんが、それはどちらかというと例外的なケースです。

武内  ルワンダをめぐって現在問題となっているのは、コンゴ東部で30年以上続いている紛争です。ルワンダが国軍を送って反政府勢力を支援しているのではないかという話があり、国連の専門家パネルでも報告されています。コンゴ民主共和国は、この紛争を内戦ではなくルワンダの侵略と見ています。最近では、アメリカもルワンダに対して制裁を加え、ヨーロッパも援助を停止する方向に動いています。このように、ルワンダに対する見方は大きく変わりつつあります。

ルワンダの位置はオレンジで記した箇所(周辺国のみ国名を記しました)

地域研究の多層的アプローチ

吉崎  アフリカの地域協力や紛争には様々な方向性があるかと思います。現在、特に重要だと感じている分野や、これからもっと深刻になるかもしれないと考えている分野で、東京外大生に学んでほしい領域があれば、ぜひお聞かせください。

武内  地域研究者として事象を多層的に見ることが重要だと思っています。例えば土地問題は農村などで観察され、研究のためにはフィールドワークも必要になりますが、ルワンダで言えば、現RPF政権[1]の性格、つまりナショナルな政治体制とも結びついています。この政権はアメリカやイギリスに支えられてきたという点では、グローバルな政治とも強く結びついています。これらの問題をすべてのレベルで見る必要があります。学生の皆さんにも、アフリカの魅力を理解しつつ、それを様々なコンテクストに置いて考えてほしいです。村の生活とワシントンやパリで行われる国連やOECD/DAC(経済協力開発機構 開発援助委員会)の援助がどこかで繋がっていることを心に留めてください。地域研究は開かれた学問で、国際政治や人類学など様々な学問と連携して学ぶことが大切です。現在の政治状況、例えばトランプ政権による援助停止や南アフリカへの圧力がナショナルレベルや村のレベルにどう影響するかを見ることは非常に興味深いと思います。

[1] ルワンダ愛国戦線(RPF) は、ルワンダの主要な政党で、1980年代に設立された。1994年の虐殺後、RPFは内戦に勝利して政権を獲得し、それを現在まで維持している。RPFの指導者はポール?カガメで、2000年以来大統領を務めている。

ルワンダの農村部では、近年急速に低湿地開発が進み、米作が広まった。

東京外大生へのメッセージ、夢

吉崎  まさにおっしゃる通り、村のような細かい視点や民族的な背景は非常に重要です。また、国境線や国という概念が歴史的に上から与えられたものであることもありますが、その中で国づくりを進め、発展していく国々もあります。その点で、アフリカの可能性が広がっていますね。最後の質問になりますが、現代アフリカ地域研究センターと東京外大生のこれからの可能性や方向性について、先生の夢をお聞かせいただければと思います。

武内  私も東京外大出身ですが、学生時代の1?2年生の時はあまり授業に出ず、何をやるべきか分からないまま過ごしていました。しかし、3年生の時に北アフリカのチュニジアに2年間在外公館の派遣員として行く機会があり、そこで新しい世界に気づきました。その後、幸運にも研究所に採用していただきました。過去を振り返ると、学生の時には、世の中にはどんな仕事があるのか、国際関係に関わる人がどこでどう働いているのかについて無知だったと感じます。開発分野には様々な形で関わることができます。一般企業やJICAの他にも、開発コンサルタント、青年海外協力隊、NGO、ソーシャルビジネス、国際機関、研究者など、様々な可能性があります。焦らずに回り道をしても、どんな仕事があるのかよく観察し、何が自分に合っているかをゆっくり考えるのが良いと思います。今の日本の大学生は、自分の前にレールが敷かれている感じがあるかもしれません。就活に乗れば企業に採用される確率が高いですが、レールに乗る選択肢だけでなく、いろんな生き方があることを考えてほしいなと思います。そのためにお手伝いできることがあれば、それが私たちの役割だと思います。最後に研究について言えば、自分で自分の研究は面白いと思うことで、人にも面白いと思ってもらえるので、面白いと胸を張って言えるような研究をしていていけたらと思っています。それが夢でしょうか。

吉崎  学生が自分の興味を持つ分野を見つけて、それを追求することは素晴らしいことです。東京外大生の中には、短期海外訪問を経験して、自分の進むべき方向性を見つけて帰ってくる人も多いですね。今日は本当にありがとうございました。

インタビューはTASCにて行いました
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