篠田英朗教授インタビュー:読売?吉野作造賞受賞記念!
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篠田英朗教授(大学院総合国際学研究院、平和構築)の著書「集団的自衛権の思想史-憲法九条と日米安保」(風行社)が、第18回「読売?吉野作造賞」(主催:読売新聞社、中央公論新社)を受賞しました。本賞は、2016年に発表された著作、雑誌論文の中から選出され、受賞作は集団的自衛権の問題を題材に、憲法9条と日米同盟の関係を問い直す力作として評価されました。今回のTUFS Today特集では、ヨーロッパ近現代史?社会史を専門とする古川高子特任助教に、篠田教授をインタビューしていただきました。動画と合わせてご覧ください。
古川高子特任助教(以下「古川」) 本学の篠田英朗先生がご著書『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』で2017年度読売?吉野作造賞を受賞されました。今日は、篠田先生にインタビューさせていただきます。篠田先生、よろしくお願いします。
篠田英朗教授(以下「篠田」) よろしくお願いします。
受賞の感想
古川 この度は、読売?吉野作造賞受賞、おめでとうございます。今はどんなお気持ちでしょうか。
篠田 ありがとうございます。読売新聞が主催している賞ですので大変にパブリシティが高いのですが、記事にしてもらえるだけでなくホテルで受賞式を行っていただきました。学者には珍しい機会だと思いました。これを機に、多くの方に読んでもらえる機会が増えたとすれば、もちろん1人の本の著者としてはすごくうれしく思います。
古川 ありがとうございます。それでは、少しずつ中身の話に入っていきます。まず、篠田先生がご専門とされている平和構築研究の中で国際的な平和とは何かについてお伺いしたいと思っています。大国が括弧付きの「遅れた地域」に介入していって、必ず何らかの影響を与える。そのような歴史が大体15世紀ぐらいから始まって、現在に至るまでずっと続いています。いつまでたっても植民地の権益の取り合いだとか権益としてその国を利用するという、そういう世界の中にいて、いつまでたっても貧しい者は貧しく、紛争の大きな地域はそのまま現在まで続いており何の解決もできない、そのように感じます。篠田先生がされている研究は、今現在、生命の危機にさらされているような地域に住んでいる人たちに直接関わり、それを何とかして解決していこうとする研究だと思います。そういうお仕事をされている先生の本を読んでいると新鮮な驚きを覚えます。私が高校生の時は、紛争をなくすためにどうしたらいいのかと本気で考えた時期があったことを思い出しました。戦争を終結させるために紛争状況に介入し平和的解決をするということについて教えていただけますでしょうか。
篠田 歴史の中でもそうですし、現在この瞬間を取っても、人間の世界には戦争だけではなくテロなどもっと広い意味での紛争がさまざまあります。これらは我々にとって大きな問題?脅威であり、簡単には共存していけない、できれば社会から取り除きたい、少なくとも改善していきたいというような事柄です。目の前にある紛争問題を解決していく、少なくとも改善していくアプローチのことを、現在、政策論的に「平和構築」とか「国際的な平和活動」という言い方をしています。平和構築研究は、学問的な体系が最初にありその理論を適用することではなく、誰の目にも明らかな目の前の巨大な問題を何とかしないといけないという気持ちから生まれるものです。解決するのは簡単ではないので、いろいろやってみて失敗して教訓から蓄積されていく。経験知や理論的な推察に基づいて未来に向けた政策を考える、そういった活動が平和構築に関する実務であり、研究、議論だと思います。
著書の内容について
古川 現在、日本が直面している現実的な問題、安保体制の根本原因がどういうところにあったかということを、戦争直後から直近に至るまで、政治家や憲法学者、国際法学者との関連を歴史的に追っていくところを非常に興味深く読ませていただきました。この著作の中では、憲法に書かれていない集団的自衛権が違憲であると主張されてきた論理的構造がよく分かるようになっています。私が特に面白いと思った点について幾つかお伺いしたいと思います。1つは国際法と憲法学の教授たちの相互関係です。先生のご著書では、その世界の配置図がちゃんと書かれていて、学問の筋と先生たちの関係がちゃんと分かるようになっています。ほかの本や授業や教科書ではなかなか分からないのですが、そこをちゃんと突いています。とても面白いと思いましたし、得がたい情報だと思いました。本学には外交官試験を受けたいだとか国際機関で働きたいと思っている学生たちもいると思うので、憲法や国際法を勉強している学生たちに、私は強くぜひ読んでほしいと思いましたが、その点について何か意図されていたのかお伺いします。
篠田 はい、この本を読むと、有名な学者の人たちの学説、言説を、ある論争の中で取り上げていますので、論争における各学説やそれぞれの学者の方々の立場というのをやや図式化し過ぎているぐらいに位置付けさせていただいています。そのため、あまり学問にまだ造詣が深くない学生さんも、例えば何となく同じことを言っているようで違っているA教授とB教授とでの学者間の意見の似ている部分と違っている部分が分かってくるかもしれませんね。もしそういうのがあるとしたらうれしく思います。自衛権の問題で、同じ単語を使っている場合には、この摩擦やすれ違い感が劇的になる。同じ単語を使っているのに、どうしてここまで違ってしまうのかという観念が出てきます。国際法学の学者間での位置付け関係、憲法学会での位置付け関係についてはかなり踏み込んで書かせていただきました。
古川 憲法学者の実利的態度という点について非常に関心があります。日本の憲法学者や国際法学者の態度を批判的に検討しています。その背後には、政治思想を確固として持って自分の憲法学や国際法学への一貫した態度を持つべきであるのに、さまざまな政治に追従するような態度を取ってきてしまったことに対する批判があるのではと考えましたがいかがでしょうか。
篠田 世の中には秩序というものがあって、それを法律が固めている。日本という社会にも法律があり、それをもう少し大きく包み込むような意味での社会の秩序というものがある。国際社会も1つの社会なので、国際法というものが非常に分かりやすい規範体系として存在し、それを包み込む国際秩序というものがあるわけですね。本来の国際法の中核部分は、法学者の人たちが専門家として厳密に整理?解釈していく。でも、彼らも大きな意味での社会秩序の中で初めて法規範があるということは知っていますので、専門家として中核部分を技術的にやる作業と、常に社会の動向を見て、社会の規範と乖離せずに法規範を運用していくということについても相当のエネルギーを注いでいる。私たち政治学者は必ずしも法律の専門家ではありませんが、法律と絡んでいる部分での社会秩序を扱っているという意識はあります。国際法もきちんと勉強して、政治現象を分析したり、国際社会の秩序なるものを語らなければいけないという観念はあります。そのため、お互いの専門を見ながら、できれば有意義なコミュニケーションや総合的な刺激というのを作っていきたいという、総合的な国際学をどんな学者でも取っていますし、あえて言えば、本学の国際学という総合性を高める学問を志向している場合には、まず総合的な視野というのを養って、それからまた専門に入っていこうというやり方なんだろうと思っています。法規範は大事ですが、歴史的な経緯や政治的な環境などを見て解釈するのも必要です。必ず背景、いろいろな利害関心のうごめき合い、政治状況なども含めて考えざるを得ない。それは本学の国際社会学部などで、そのエッセンスなどを培っていただきたいなというふうに思います。
古川 集団的自衛権も社会的な背景だとか政治的な状況によってさまざまに解釈されていく。そのために、むしろ憲法でうたわれている「国際協調主義」に基づいた平和構築への貢献がおろそかにされてしまうという点を問題にされていると思いますが。その点はいかがでしょうか。
篠田 この本を書こうと思った2つの大きな理由は、1つは集団的自衛権そのもの、国際社会という点。もう1つは国内論争それ自体に興味を抱いたということです。1つ目の国際社会の側からお話しします。集団的自衛権というのは国連憲章に出てくる言葉で、歴史的な淵源としては、アメリカ合衆国が19世紀建国以来、西半球世界でモンロー?ドクトリンと呼んで作り上げていた独特の国際秩序です。2回の世界戦争に参加して、普遍的なものとして導入した幾つかの国際規範のうちの1つだと言って差し支えありません。歴史的な淵源を見て、国連憲章の運用?解釈という問題で論じているのが普通です。日本の憲法学者が憲法9条を読んで集団的自衛権を論じるというのは、あってもいいのですが、どう見ても世界の亜流ですよね。ところが日本で暮らしていると、あたかも集団的自衛権というのは憲法学者が論じるべき問題で、政治学者が政治的な事情でぶつぶつ言ってるのはけしからんみたいな話になってしまいます。国際社会の歴史があり国際法の規範体系があって集団的自衛権があるというのが普通の国際社会の標準なので、本著書を書いてみようと思い至りました。2つ目の国内論争への興味という点ですが、今言ったような事情が、単に国際政治学者、国際法学者と憲法学者が読んでいる本が違うということ以上に、結構お互いがお互いに書いている本を読み合っているがゆえに、むきになって自分の主張を展開しているという部分もあるので、世界観のようなところも含めて日本の国内論争をもう体系的に振り返って見るという作業をこの機会にやってみようと思いました。
平和構築について学びたいと思っている学生へ
古川 最後に、これから平和構築について学びたいと思っている学生に一言お願いします。
篠田 平和構築というのは、政策論で言うと、世界にある紛争問題を解決、あるいは少なくとも改善したいという人間が避けては通れない問題に対応しています。人類の歴史を紐解けばみたいな大きな話ではなくても、現在この2017年の世界情勢を見ても、かなり深刻な状態にあるので、引き続きわれわれはこの問題に取り組んでいかなければいけない。国際社会全体の秩序の在り方や、国際社会の未来を良くしていくことに直結した活動なので、勉強し、長い時間をかけて関わってみると、すごく大きな意味を感じることができる、そういう領域ではないかと思います。本学の総合国際学や国際社会学、いろいろな国際関係に関する学問的な知見だとか、実際の現状、地域の現状を紐解いて考えていくには、平和構築のような分野横断的な問題解決アプローチはすごく重要な点ですので、本学に来て平和構築を勉強したり、実務に関して考えていただくということは、すごくいいのではないかなというふうに思います。さらに付け加えれば、人間が自分の目の前にある社会の問題を認識して、それに対して解決策を考えたり、少なくとも改善する方法を考えるということ自体は普遍的なもので、ある企業が自動車を作ったんだけど、ある時急に売れなくなってしまったという問題、どうやってこの問題を解決したり改善したりしようか、技術の問題、マーケティングの問題、社内の雰囲気の問題、いろいろなことを分析して、ここに問題の原因があったというふうなことが分かると、その原因を除去したりして解決策としていく。こういう考え方のアプローチというのは、どんな分野に行くのであれ、一般企業に行くのであれ、平和のへの字も関係なさそうな普通の企業であれ、実は考え方のプロセス自体は全く同じと言っても差し支えないので、そういう意味でも、平和構築の考え方みたいなところを勉強して、後でこんなところにも役立ったような気がしましたみたいに言ってもらえるような学生さんとかがいらっしゃったら、すごくうれしいなというふうに思うということですね。
古川 ありがとうございました。
篠田 はい。どうもありがとうございました。