たふえね×教員:地域の声で紡ぐ世界~環境課題の今~春名展生副学長/教授(国際政治学?日本政治外交史)インタビュー
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本学の環境系学生サークル「たふえね」が、学生に世界各地域の環境問題についての知識を深めるきっかけを提供することを目的に、教員へインタビューするシリーズ企画。今回の企画では、国際政治学?日本政治外交史が専門で今年4月に学長に就任予定の春名展生副学長とたふえねの学生4名が、日本を中心に政治的な観点での環境問題や東京外大でのSDGsの取り組み、外国語大学の強みを活かした環境問題へのアプローチなどについて懇談しました。
<懇談参加者>
- 春名 展生 副学長/教授(以下「春名」)
以下、たふえね
- 渋谷(国際社会学部 西南ヨーロッパ地域/フランス語 国際関係コース 4年)(以下「渋谷」)
- 水 祥大(国際日本学部 4年)(以下「水」)
- 宮下 希彩(国際社会学部 東南アジア地域/タイ語 1年)(以下「宮下」)
- 龍 歩未(国際社会学部アフリカ地域 1年)(以下「龍」)
渋谷 春名先生のご専門に関することからお伺いできればと思います。国際政治や日本を中心とした政治をご専門にされていると伺いましたが、春名先生の研究分野から環境問題へのアプローチを掘り下げていくと、どのようなテーマで掘り下げることができるのでしょうか。
春名 本日のインタビューの趣旨としては、環境問題を専門分野の視点から聞きたいということだと思いますが、国際政治や日本の政治において、環境問題に関する研究は残念ながら少ないです。日本の政治においては、SDGsや脱炭素といった目標が掲げられていますが、実際には持続可能な社会を本気で目指す動きが見られません。例えば、脱炭素の名目で原子力発電を増やすことがあり、持続可能性と脱炭素が切り離されてしまうことがあります。このような状況では、実証研究ができず研究も育ちにくいのが現状です。しかし、若い世代の関心が高まっているため、持続可能性に関する研究が今後増えていくことが期待されます。学生の間でも、脱成長を訴えている東京大学の斎藤幸平氏が注目されています。政治外交史を研究してきた身としては、成長という目標が歴史的な産物にすぎないことを明らかにする研究を指摘しておきたいと思います(→おすすめ本)。成長という目標の歴史性を明確にしてこそ、それを乗り越える視点が開かれるのではないでしょうか。

渋谷 私は経済を勉強しておりまして、どうやったら貧しいとされている国が経済成長を遂げられるかを考えています。その視点では「脱成長」は考えにくいですね。
春名 今年のゼミ生の卒業論文に「縮小こそ新しい成長」というタイトルの論文がありました。東京の都市計画の歴史を研究し、戦後の人口増加に対応する住宅地開発から、現在の「東京ベイeSG」計画に至るまでを論じています。そのなかで建築家の大野秀敏氏の著書『ファイバーシティ: 縮小の時代の都市像』を取り上げ、高齢化社会において都市が公共交通の周辺に集約される形で縮小していく展望を提示しています。日本が舞台だからこそ、このような主張が成り立ちます。急速な人口増加が続くアフリカで同じ主張を展開するのは困難です。とはいえ、アフリカも日本と同じ地球を共有していますので、地球全体という単位で、国家間の格差を埋めていきながら、持続可能なトラックに移行していくための方法を模索する必要があります。
水 島根県大田市の大森町は、人口約400人の小さなコミュニティですが、近所の人が育児を支援するなど、家族単位の育児とは異なる形態が見られます。現代社会では核家族化が進み、女性が育児の負担を負うことが多いですが、大森町では地域全体でサポートする仕組みが存在します。成長を追求する社会のパラダイムから抜け出すためには、地域ごとの実践や生活の知恵が重要です。このような事例から、新しいアイディアや生き方を発掘することが文系の役割であり、人類学や地域研究が関わる部分が多いと感じています。

宮下 高校3年生の時に環境問題に興味を持ちましたが、その時には既に文系を選択していたため、理系には進みませんでした。大学に入ってから、環境問題に取り組むようになり、将来の課題解決や未来への貢献において理系の学問が適しているのかもと感じるようになったのですがどう思われますか。

春名 私は立場上、他大学の方々、そして理系の方と話す機会が多いのですが、環境問題の解決には人文系の役割が大きいと感じています。理系は技術やエネルギーの脱炭素化に貢献できますが、本当に持続可能な社会を目指すには、まず考え方の転換が必要です。人々が、生活が不便になる可能性を受け入れる必要があります。そのため、新しい価値観や思想が必要であり、ここに人文学の出番があります。社会の転換を促し、新しい価値観を生み出し、広めるところで私たちのコミュニケーションとコーディネーションの役割が欠かせません。成長というパラダイムを覆すためには技術だけでは不十分で、歴史や倫理の問題も考慮した新しい視点が必要です。

渋谷 春名先生は現在副学長として大学の運営に関わり、今年4月には学長に就任される予定ですが、東京外大のSDGsの取り組みとして行いたいことを伺いたいです。
春名 私は、この大学のSDGsに関する取り組みについては、たふえねをはじめとした学生たちの影響で関心を持つようになりました。例えば、自然エネルギー大学連合が加盟した取り組みがあり、ソーラーパネルの設置などを通じてカーボンニュートラルを目指していますね。2030年を目安に進めているようです。しかし、単に技術を導入するだけでなく、社会全体の価値観や生活様式を変えることが重要だと感じています。理系の大学と連携して、新しい技術を社会にどう受け入れさせるかを考えたり、具体的なアイディアを共に創出したりすることが必要です。東京外大の強みである言語教育を活かし、環境問題や持続可能性について国際的な対話を促進することも重要です。社会全体を巻き込むには、英語だけでなく現地の方とその地の言語でコミュニケーションがとれることはとても大切だと考えています。東京外大での学びは、こうしたコミュニケーションの場で重要な役割を果たすと考えています。社会を変えるためには、新しい価値観や思想を広め、人と人とのコミュニケーションが鍵となるでしょう。
渋谷 世界が一致して目標に向かう過程で、東京外大生が人々の間をつなぐ存在になることができると日頃から感じているので、今のお話に納得できます。

春名 次の世代の皆さんには申し訳ない気持ちがあります。我々の世代で脱成長や持続可能性の問題を解決できなかった責任を感じています。成長の限界は1970年代から認識されており、有名な本『成長の限界』も1972年に出版されました。環境問題への意識は当時からありましたが、50年間先延ばしにされてきました。こうした状況を前にして、私自身が環境研究をしてこなかったことに罪悪感を覚えます。東京での雪の減少など、環境変化はすでに私たちが実感できる水準に達しています。次の世代に「頑張って」と言うだけでなく、この大学はどう取り組んでいけるか真剣に考えなければならないと思っています。
龍 アフリカ地域専攻では、毎週アフリカ大使の話を聞く機会があり、アフリカの多くの人が開発に注目していると感じています。独立後の混乱が一段落し、人口も増加している現在、「アフリカの時代」とも言われています。開発が唯一の手段として注目されていますが、今回の懇談で、その開発自体を疑う視点が大きな気づきとなりました。今後のアフリカ社会において開発のあり方を考える中で、日本で学んでいる私たちも大事な役割を果たせるのではないかと思い、これからのアフリカ研究にも役立てたいと思います。

春名 アフリカは今後の人口増加が予測されるため、非常に重要な地域です。アフリカ地域専攻があり、日本とアフリカの学生交流が進んでいる東京外大は、この問題を考える上で大きな可能性を秘めています。アフリカからの留学生と共に、今後のアフリカの方向性や日本がどのように関わるかを議論する場が提供されています。全世界的な問題を世界各地から来た学生たちと議論し合える、世界の縮図のような場が、重要な役割を果たすことを期待しています。アフリカ地域専攻だけでなく、学生の皆さんの頑張りを応援しています。

おすすめの本
- Robert M. Collins?著『More: The Politics of Economic Growth in Postwar America』2000年、Oxford University Press
- Scott O'Bryan?著『The Growth Idea: Purpose and Prosperity in Postwar Japan』2009年、University of Hawaii Press
