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について

アジア文芸ライブラリー 花と夢

刊行
著者等
ツェリン?ヤンキー著、星泉訳
出版社
春秋社

内容の紹介

さまざまな事情を抱えて田舎から上京してきた4人の若い女性たちが、チベットの古都ラサのナイトクラブ〈ばら〉で働きながら小さなアパートで身を寄せ合って生きている。彼女たちのしたたかな生き方と、やがて訪れる悲痛な運命を慈愛に満ちた筆致で描いた長編小説の邦訳。農村の貧困や性暴力の問題、男女格差、機能不全家族など、現代社会の抱える問題を織り込みつつ、女性たちの姿を生き生きとした言葉で描き出した作品。英国PEN翻訳省受賞作。著者ツェリン?ヤンキー(1963–)はチベットを代表する女性作家の一人である。彼女が手がけた初の長編小説である本作品は、チベット自治区出身の女性がチベット語で発表した初めてのチベット語長編小説となった。春秋社が立ち上げた新シリーズ「アジア文芸ライブラリー」の刊行第一作。

訳者のコメント

星 泉(アジア?アフリカ言語文化研究所/教授)

この作品は2016年に発表されるやチベットで大評判になったそうですが、人気に火がついたのはコロナ禍で厳しいロックダウンが行われた時期だったそうです。口コミで評判になり、海賊版が出回っただけでなく、電子版が勝手に作られて広まり、さらには複数の朗読音源がインターネットを通じて流布し、チベット語を読めない人のもとにまで物語が届いたと言います。著者はこうしたことを面白そうに嬉しそうに教えてくれました。物語では悲痛な運命に翻弄される女性たちの姿が描かれるのですが、その彼女たちが性暴力を受けたのも、セックスワークのような他人から蔑視される仕事をする羽目になったのも、今生きている自分のせいというよりは、自分の前世の悪い業(カルマ)のせいだと割り切っているのが印象的です。仏教の輪廻転生にもとづくこの考え方は、どれだけ辛くても生きていかなければならない彼女たちを支えているのかもしれません。ぜひみなさんも読んで考えてみてください。 アジア文芸ライブラリーは「文学を通じてアジアのこれからを考える」というコンセプトのもとに続々と文学作品が紹介されていく予定です。読者対象は高校生から。アジアの隣人たちのことを深く知るためにみなさんにお薦めしたいシリーズです。

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