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学長対談:マスコミで働くということ

世界にはばたく卒業生

ゲスト:江口義孝様(経営協議会委員、元NHK国際部記者)

東京外国語大学を卒業後、日本放送協会に入局し、報道局外信部(現:国際部)の記者として、フォークランド紛争、中米紛争、イラン?イラク戦争など数々の国際紛争を取材されました。1996年12月に起きたペルー日本大使公邸占拠事件では、事件の発生をいち早く伝えるとともに、公邸を占拠したゲリラとの対話、人質となっていた日本大使との対話を報じ、日本放送協会会長賞を受賞されています。現在、本学の経営協議会委員を務めていただいています。国際部記者としての経験、本学の取り組みへの期待、マスコミ志望の学生へのアドバイスなどを伺いました。


立石博高学長(以下、立石学長) 本日は、本学経営協議会委員で元NHK国際部記者の江口義孝様にお越しいただきました。よろしくお願いします。

江口義孝様(以下、江口様) よろしくお願いします。

立石学長 江口さんは、本学スペイン語専攻の卒業生で、私と同期入学です。当時、学園紛争などがあり、本学は混乱期でしたね。

江口様 ええ、入学したら学園紛争により大学が閉鎖されていて、すぐに勉強しようという雰囲気にならず、私は1年留年しました。しかしそれが結果的には幸いでした。

立石学長 結果的に幸い、とはどういうことですか。

江口様 入学当初、就職先としては、商社や銀行など実業系を志望していました。ところが学園紛争をきっかけに、より公共性の高い仕事、オフィスにいるより外に出て活動する仕事をしたいと思うようになり、マスコミ志望へと変わっていきました。

——国際部記者の仕事???

立石学長 そうでしたか。入社後はまずどちらに配属になったのですか。

江口様 NHKは全国に放送局があり世界各地にも支局を展開していますが、皆、はじめは国内の地方局を担当します。各配属に就く前に、テレビ記者に必要なリポートと原稿執筆の訓練を受けて、地方局に出されます。そして、新人はまず事件取材を担当します。刑法なども勉強しながら、事件?事故などを取材して原稿を書きます。そのようなことをしながら人間的なコネクションを作ります。私は新人の頃、福岡を担当したのですが、その当時、コネクションのあった警察官とはいまだにお付き合いがあります。

立石学長 記者になるためには、人間的なコネクションをつくる能力も必要ということですね。

江口様 はい、自分の取材対象の方といかに親しくなって、いかにその方から話をきちんと聞き出せるかということは、記者にとってとても重要なことです。

立石学長 先日、本学で、ノーベル文学賞受賞者でジャーナリストのアレクシエーヴィッチさんの講演会をさせていただきました。彼女もジャーナリストとして、600人近くの方を対象に話を聞いて、それをルポルタージュ文学としてまとめていますね。

江口様 ええ、私も彼女の本を拝読しました。本では1人の人のお話をずっと連続して聞けたような格好になっていますが、あのようにまとめるまでには実はすごく時間がかかっていると思います。自分の胸の中にあることを本人が語るようになるまでの前段階も相当あったと思います。大変時間のかかる困難な仕事です。ジャーナリストとしての大きな仕事ですね。

立石学長 江口さんは大学時代から人間的コミュニケーションが得意でしたか。

江口様 特にそのようなことはありません。今もリポートはそれほど得意ではないし、何か資質があるわけはないですよ(笑)。ただ、これまでお付き合いした方々からは、私はあまり相手に警戒心を持たせないタイプの人間だということは言われます。気がつくとあなたは私の懐に入っている、と。そういう性格的なものはあるかもしれませんね。ジャーナリストとして、何か特殊な才能というのは要らないと思います。ただ、あえて言いますと、1つのことを追いかけていく様なしつこい性格は必要です。特に外国関係の専門記者は、中国、朝鮮半島、アメリカ、ロシアなど自分の専門とする地域や分野を、大抵は定年までやり続けます。私は紛争地を専門にするような記者でした。戦争にはよく行きましたね。

立石学長 最初の海外取材はどちらへ行かれましたか。

江口様 フォークランド紛争です。

立石学長 それはすごいですね。最初の経験がアルゼンチン、しかも社会的な軋轢の高い地域に行かれましたね。

江口様 はい、次がイラン?イラク戦争でした。

立石学長 イラン?イラク戦争では、危険な目に遭われたこともあるのではないですか。

江口様 はい。テヘランに到着して記者登録をした際に、最前線取材に行かないか、と聞かれました。断ってもいいよ、何かあっても一切保証できませんから、と。断ることもできたのですが、怖いもの見たさというのがありますよね。夜明け前に飛行機、超低空飛行のヘリコプターやジープで国境の丘の上から眼下にイラク領の平原が見下ろせるところまで行くのですが、近づくにつれて100メートルぐらい後ろにどんどん砲弾が落ちてきます。これはチャンスだと思い、砲撃が続いている間に、どーん、ばりばりという音を背景に前線でリポートしました。それを現地の記者が写真に収めていて、翌日、テヘランの英字新聞に報道されました。

立石学長 ええ、覚えています。仲間うちで「江口、すごいな」と評判になっていました。

江口様 はい、その映像を見た当時の外信部長に「おまえは何をやっておる。最前線に行くとは何事だ」とひどく怒られました。黙って行きましたからね。その後、私は逆の立場になって、様々な危険地域に部下を派遣する立場になるのですが、戦地ではどういうことが危ないとか、何に気を付けなければならないのかとか、それらを必ず全員に事前研修させるようにしました。

立石学長 自分自身の経験が管理者になった時に活かされていますね。その後、リオの支局長をされていますね。

江口様 はい、派遣される前、歴史?経済?政治の本をたくさん買い込んで、ラテンアメリカのことをかなり勉強しました。スペイン語に加えてポルトガル語も勉強しました。

立石学長 片言でも話せると現地の人にとっては全然違いますよね。

江口様 おっしゃるとおりです。リオ在住の特派員は中南米全部をカバーしています。そのためブラジルではポルトガル語ですが、ブラジルを一歩出るとすべてスペイン語での取材になります。3分の2はブラジル以外での仕事でした。当時、中米のエルサルバドル、ニカラグア、ホンジュラスなどでは紛争があり、取材によく行きました。

——人のコネクションと地域言語を駆使???

立石学長 その後しばらくして、バルセロナ支局長を担当されて、その後、東京の報道局に戻られた頃でしょうか。大変な事件がありましたね。1996年の12月17日。

江口様 ちょうど20年前ですね。当時、私は国際部長を支えるような立場にいました。朝の10時過ぎ、ペルー人の知り合いから私に国際電話が入りました。日本大使公邸の方で銃声がしているという話を聞いたと言うので、すぐに車で近くに行ってみるようにお願いしました。約20分後、再度電話が入り、「大変です。日本大使公邸の中から自動小銃を撃っていて、取り囲んで警官隊も撃ち返している。今日、日本大使公邸で天皇陛下の誕生日パーティーをやっているようで多数の人質がいるようだ」というんです。ペルーの日本大使公邸には過去に1度取材に行ったことがありましたから、大使公邸の作りは何となく記憶にありました。まずは、すぐに原稿を書いてニュースで一報を流し、現場に行ってくれたペルー人の知り合いにも携帯電話から現場中継をしてもらいました。そして次に、大使公邸に電話しました。まず初めに電話した際は、ゲリラグループが電話に出ました。そこで、襲撃理由を取材しました。

立石学長 スペイン語で取材されたのですか。

江口様 もちろんスペイン語です。彼は、襲撃の理由をいろいろと述べてくれました。その取材で、逮捕?拘留されている仲間の解放が目的だということがわかりました。

立石学長 恐らく英語で聞いていたら答えなかったでしょうね。

江口様 そうでしょうね。日本の記者がスペイン語で聞いたから答えてくれたのだと思います。ほかの言葉だったらそうじゃなかったかもしれませんね。

立石学長 切られたかもしれないですね。

江口様 その後、また1時間ほどして電話を入れました。今度は私と同じような日本語の発音でスペイン語を話す人が出ました。これは現地の人ではないと思い、「あなた、誰ですか」と聞いたら、「おれは大使の青木だ。目の前にゲリラがいて銃突き付けてスペイン語でしゃべれと言われているんだ」と。中の様子を差し支えない範囲で話してくださいました。その後、フジモリ大統領がその地域の電話を携帯?無線も含めてすべて切断してしまい一切連絡取れなくなりました。このように個人的な人とのコネクションと地域言語や経験を駆使して、事件の発生をいち早くキャッチして伝えることができました。

立石学長 NHKでもスペシャル番組を作られましたね。

江口様 ええ。番組制作のため、事件解決後1?2週間して現地へ取材に行きましたが、NHKが番組を制作するということで、大統領は積極的に制作に協力してくれました。

立石学長 その後、バンコク支局長や報道局国際部長をされていますね。バンコクでは中南米あるいは中近東とは違う難しさはございましたか。

江口様 言語がすごく入り乱れていて苦労しました。タイ語をやってもカンボジアでは通じない、ベトナムでも通じない、ミャンマーでも通じない。バンコク支局長は、今はアジア総局長といいますが、要するに東南アジアとアフガンまで全部をカバーしています。管轄の各支局を管理するのが主な仕事でした。

立石学長 その後、解説主幹などを経て、バイリンガルセンターでもお仕事をされていますね。

江口様 NHKは今、外国語放送に積極的に取り組んでいます。「NHKワールド」という放送で、海外向けに外国語放送を24時間放送しています。加えて、NHK総合の夜のニュース番組「ニュース7」や「ニュースウォッチ9」では、副音声で英語放送をしています。英字新聞の朝刊では遅い情報も、夜のニュースを英語で聞ければ、少なくともその日に日本で起こったことが分りますよね。

立石学長 日本を海外に発信する、ということがNHKの役割として重要になっているということですね。

江口様 はい。それと国内にいる外国人の方々への情報サービスとしても重要です。

——記者志望の学生にアドバイス???

立石学長 本学では、マスコミへの就職を希望する学生が多くいますし、実際に多くの学生がマスコミへ就職しています。記者あるいはマスコミで働くためのポイントなどがあればお話ししていただけたらと思います。

江口様 国際化社会となり、マスコミは、外国で取材できる人材を増やしています。本学を卒業した方は、英語以外の言語もきちんと勉強している方がほとんどですので、マスコミとしてはとてもありがたい存在です。地域の事情にも詳しい。外国の情報を扱うセクションは、ほとんど英語を使っての仕事です。BBCやCNNの放送メディアの情報から原稿を書くこともありますが、それらの情報はすべて英語です。国際部記者になった場合は、東京での仕事も英語ができないと仕事にならないということです。ある言語と英語が同等レベルできると良いですね。それから、在学中に、できるだけ多くの本をたくさん読んでいただきたいと思います。

立石学長 マスコミ志望の学生には、どのような本をお勧めしますか。

江口様 時間によって淘汰されて残っている本、インテリが読む本、宗教に関する本、偉人の自伝、そしてその偉人の身近な人が書いた本。マスコミを志望する学生は、このような本を特に読むと記者として参考になると思います。(*末尾に推薦図書を掲載!)

——東京外大の情報発信への提案???

立石学長 最後に、本学に対して、何かございましたらお願いします。

アジア?アフリカ言語文化研究所で開催中(2016年12月当時)の大瀬二郎報道写真展にて

江口様 はい、研究成果の発信に関してひとつお願いがございます。本学で先生方が研究されていることやその成果を、国内外問わずどんどん外に発信していってほしいと思います。その点では、我々マスコミと協力していける部分も多々あると思います。

立石学長 大学が持つ地域情報を社会に発信していかなければならないですね。

江口様 はい、例えばテレビや新聞で発表されたコメントの短いミニ解説のようなものが大学のホームページにあるとありがたいですね。教員の皆さんはいろんな地域の研究をされて論文にまとめられていると思います。学者の見識で、今、世の中で起きていることをどう考えたらいいのか、見たらいいのか。時事解説的に短く書いたものが東京外国語大学のホームページなどから発信されていくと良いと思います。

マスコミを志望する皆さんへの入門書の紹介

江口 義孝さんにマスコミを志望する方々への入門的な推薦図書をご紹介ただきました。

いわゆる古典に属するような本

国際記者には宗教の知識は必須ですので、「仏陀の言葉」「旧約聖書」「新約聖書」「コーラン」(簡約版や入門書でも可)は読んでおくべきでしょう。

私は、イスラム諸国を取材することが何度かありました。そうした時に、コーランを全部読む必要はないにしても、コーランにどんなことが書かれているかとかいう基礎知識は必要です。キリスト教や仏教についてもそうです。仏教は戒律や教えがそんなに厳しくないですが、イスラム教やキリスト教の教理は、仏教に比べると非常に厳しい内容になっています。今日、宗教に絡んだ戦争があちこちでありますが、宗教についての基礎知識なしに取材に行くことはできません。

戦争?革命関係では、「ガリア戦記」(ジュリアス?シーザー)、「戦争論」(クラウゼヴィッツ)、「孫子」(戦わずして勝つ謀略が最上の策というのがミソ)も古典的な名作です。

「永遠平和のために」(カント)、「歴史とは何か」(E?H?カー)

「世界を揺るがした10日間 上?下」(ジョン?リード)ロシア革命時に現地にいたアメリカ人の手記で、古典的名作

「黒い夜白い雪 上?下」(ハリソン?ソールズベリー)ロシア革命を描いた決定版。

「核兵器との共存」(ハーバード核研究グループ)多角的な考察がポイント。

「ゲバラ日記」(チェ?ゲバラ)ボリビアでのゲリラ闘争を記した日記。

外交関係の書籍としては

「外交」(ヘンリー?キッシンジャー)、「マクナマラ回想録」ベトナム戦争との係りに注目。

「フォーリン?アフェアーズ傑作選 上?下」アメリカとアジアの出会いという副題がついているように、1920年代から99年までの論文を掲載している。吉田茂の論文も収蔵。

「ネオコンの論理」(ロバート?ケーガン)ブッシュ政権の後ろ盾となった論理。

「アメリカへの警告」「ソフトパワー」(ジョセフ?ナイ)外交には軍事一辺倒ではなく ソフトパワー(文化?情報)を通じた戦略が必要と説く。

「戦略的思考とは何か」(岡崎久彦)外務省の初代国際情報局長によるアメリカとの同盟関係を基盤とする日本の外交戦略を論じた名作。

「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」(若泉敬)佐藤首相の密使として沖縄返還交渉に当たった著者が、密約の存在を暴露し、返還交渉についての自分の本意を綴った問題作。

「日米同盟の正体」(孫崎享)日米安保条約の実質的変貌を明らかにして再認識を迫る。

「仮面の日米同盟」(春原幹男)解禁された外交文書から日米関係の欺瞞を明らかにする。

ヨーロッパを総合的?多面的に理解するための基本図書としては

ブローデルの『地中海』(全5冊、文庫本もあり)が挙げられます。各国語に訳されてヨーロッパの大学生の必読書となっています。ヨーロッパ言語?地域専攻の学生は是非とも挑戦。

情報戦を理解するには、情報機関の活動について書いた本が必読です

「寒い国から帰って来たスパイ」(ジョン?ル?カレ)冷戦時代スパイ小説の古典的名作。

「CIA 秘録」(ティム?ワイナー)ニューヨーク?タイムズ記者によるCIAの誕生から現在までの活動を描いたノンフィクション。

「アメリカの秘密戦争」(セイモア?ハーシュ)9.11からアブグレイブへの道までを描く。

「暗闇に身をおいて」は、イスラエルの諜報機関「モサド」の長官エフライム?ハレヴィーが書いた本です。イスラエルがアラブに囲まれた中で、いかにして国の安全を図り、生き残っていくということに対しての努力を綴っています。

「ザ?モサド」(デニス?アイゼンバーグ)は具体的な作戦について書いてありこちらの方が、現代史のぎりぎりの凌ぎあいの部分が本当によく分かります。

近代中国を理解するためには

「周恩来秘録」は、周恩来の生涯を研究していた高文謙が書いたもので、周恩来の人となりと毛沢東との関係を含めて中国共産党政治の熾烈?過酷な面を十二分に知ることができます。

「わが父鄧小平?文革歳月」(毛毛)娘の毛毛が書いているので、文化革命中に権力中枢から遠ざけられていた時の鄧小平一家のことがよく解ります。復権するために何をしたかなども興味深いところです。

「鄧小平秘録」(伊藤正)東京外語大中国科卒業の先輩の書いたものです。共同通信社で長く中国専門家?北京特派員として活躍した方です。

アメリカと中国の関係についての本としては

ロサンジェルス?タイムズ記者ジェームズ?マンの「米中奔流」と「危険な幻想」、そして「2049」(マイケル?ピルズベリー)が挙げられます。この三冊を読むことで、国交正常化からのアメリカの中国に対する接し方、考え方の変化がよく読み取れます。大市場、大生産基地として活用しようとする中国への激流のようなのめりこみから、国民所得が上昇しても一向に民主化に手を付けようとしない共産党政権に疑問を感じ始め、そしてどうやら中国=共産党を完全に誤解していたようだと気付くまでの過程です。

特に「2049」は、CIAの中国専門家の第一人者が書いたもので、必読の書です。

いわゆるノンフィクション作品は

玉石混交ですが、いくつか挙げて見ますと。

「パリは燃えているか 上?下」(D?ラピエール、L?コリンズ)古典的名作。

「史上最大の作戦」(コーネリアス?ライアン)映画化もされた証言に基づく傑作。

「カタロニア賛歌」(ジョージ?オウエル)初期のスペイン内戦を如実に描いた。

「1989」(マイケル?マイヤー)ソ連の崩壊、冷戦の終結前後の欧州の変動を国別に活写。

「ベスト?アンド?ブライテスト」「メディアの権力」「コールデスト?ウオー」など(デイヴィッド?ハルバースタム)アメリカで最も定評のあるノンフィクション作家。

「チェチェン やめられない戦争」「ロシアンダイアリー」(アンナ?ポリトコフスカヤ)情報機関によって暗殺された記者が生前にまとめたプーチン批判の反体制ルポ。

「倒壊する巨塔 上?下」(ローレンス?ライト)イスラム原理主義のルーツから9.11テロまでのジハード実行者たちの軌跡を発掘し、追跡取材した力作。

最近の必読書

人工統計学?家族人類学者であるエマニュエル?トッドの著作「最後の転落」「帝国以後」「文明の接近」「シャルリとは誰か」「ドイツ帝国が世界を破滅させる」

本学で講演したスヴェトラーナ?アレクシェーヴィッチの著作「戦争は女の顔をしていない」「ボタン穴から見た戦争」「アフガン帰還兵の証言」「チェリノブイリの祈り」

日本人学者によるイスラム関係著作

「イスラムの怒り」「イスラム戦争」「ヨーロッパのイスラム」(内藤正典)

「イスラム国の衝撃」(池内恵)、「イスラム 生と死と聖戦」(中田考)

政治家の回顧録、自伝と結び

チャーチルの「第二次世界大戦」、「サッチャー回顧録」、「キッシンジャー秘録」など、歴史的指導者たちが政治的試練に直面して何を考え、どう決断したかがよくわかります。私はフォークランド紛争を取材に行きましたが、サッチャー回顧録を読むと、イギリス政府内部の政策決定の動きがどうであったのかがよく分かりました。チャーチルは日本の真珠湾攻撃の知らせを聞いて、これでやっとアメリカが欧州戦線に参戦してくれると手放しで喜んだことを知りました。ただし、政治家の著作は自分に都合の良いように状況を解釈して書いている部分が散見されるので、事実関係で疑問な点は違う文献で調べながら読むべきです。政治家の著作を読んで歴史を学ぶのは、ジャーナリストとしての素養です。

各国の歴史に関する本も、自国に都合のいいように歴史を意図的に書き換えていますから注意が必要です。ナチス占領下のフランスの歴史も事実とはかなり違った形になっています。高度の民主主義国の歴史教科書だと言っても、必ずしも事実に忠実に書いているとは限りません。アメリカ政府のベトナム戦争に対する総括は、私たちが考えているものとは全く違います。それぞれの国にとっての事実ということは、その国独特の立場や考え方を知る上で、とても重要なことだと言えます。日本でも国内で一般的に常識だとされていることを、決して普遍的なものだと考えないようにした方がいいということです。

そのためにも広い分野で高い質の読書をすることで、自分なりの視点をもって歴史や世の中の出来事について考える力をつける努力をしてもらいたいと思います。

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