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「カルヴィーノと鳥の視線」 住 岳夫
"Calvino e lo sguardo da uccello" SUMI Takeo
和文要旨
作品集『パロマー』(1983)で忘れがたい印象をのこす場面のひとつに、主人公パロマー氏が自宅のテラスからローマの町並みを俯瞰するくだりがある。「鳥の視線を投げかけ鳥類の眼に映るのと同じように世界をとらえようとする」(「テラスにて」)。イタロ?カルヴィーノ(1923?85)の作品には、まるで鳥の視点から世界を見おろすような人物、語り手が、じつによく登場する。それはなぜだろうか。
「カルヴィーノと鳥の視線」というテーマについて考えるうえで、貴重な手がかりとなるのが、小説『木のぼり男爵』(1957)である。主人公コジモは、生涯一度も地上に降りることなく、生い茂る樹々の上から世界を見おろしつづける。その外見、仕種、習慣、性質は、まさに「鳥とも人ともつかぬ存在」である。鳥のように視点を高みに置き、地上のできごとを常にべつの観点からながめること。『木のぼり男爵』にはそんなメッセージが込められている。
カルヴィーノの作品の全体を見渡すと、鳥類のモチーフが、見るという行為、視覚の問題と関わりをもつことがわかる。カルヴィーノにとって、「鳥の視線を投げかける」とは、「視点の自由」を確保する訓練だったのかもしれない。この作家にとって視覚がもつ並みはずれた意義を考えあわせるならば、「鳥の視線」というテーマから彼の詩学を読み解く可能性が開けるのではないだろうか。
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