「植民地支配のイデオロギーと在地語コミュニケーション」 足立享祐
研 究
本研究課題は、東インド会社ボンベイ管区において、植民地官僚と在地エリートたちとの接触により作り出された領域を言語空間と言う観点から考察するものである。その主眼は、植民地化に伴う知的体系の交換と社会記述の中で、マラーティー語などの在地諸語が果たした役割を歴史学的に詳らかにすることにある。
今回の研究助成では、国際学会報告として第12回国際マハーラーシュトラ会議で研究発表を行うと共に、学術調査としてマハーラーシュトラ州ムンバイーを中心とするマラーティー語揺籃本についての資料調査を実施する。国際学会では“List of Words and Order of the World; A study on the making of Molesworth's Marathi-English Dictionary”と題する研究報告を行う。発表ではモールズワースのマラーティー語?英語辞書初版(1831)の編纂から出版に至る経緯について、東インド会社取締役会資料を主たる依拠資料として概略する。近代的辞書の存在が現地の言葉を包摂していく媒体となる歴史的過程において、多言語状況下での言語間の関係、地域差?階層差、あるいは口語と文語といった問題が、編纂の過程を通じて如何なる形で議論され、当時の社会記述に如何なる影響を与えたのかという問題に焦点を当てる。
国際学会後は研究課題に関連して資料調査を実施する。インドの文脈に於いては、幾つかの歴史的過程を経て公布された出版書籍登録法(1867年25号法)をもって印刷施設?図書?定期刊行物の管理体制がほぼ確立されるのだが、マラーティー語圏では東インド会社など、ヨーロッパからの活版及びリトグラフ印刷技術の導入からこの法令に先立って出版された書籍を、いわゆるインキュナブラ=揺籃本として調査収集、修復保存及び研究の対象とするのが通例である。今回の調査ではムンバイー大学などの機関を調査し、これらのマラーティー語揺籃本、分けても文法書や辞書、教科書類について可能な限り閲覧?収集するよう努めることとする。
詳しくは学術調査報告書(PDF)をご覧ください。
報告者
- 名前: 足立享祐
- 研究テーマ: 植民地支配のイデオロギーと在地語コミュニケーション
- 渡航先: インド
- 旅行期間: 平成19年12月16日~平成20年1月16日(31日間)
- 調査旅行の概要: プネーにおいては国際マハーラーシュトラ学術会議に出席し、報告を行った。ムンバイーでは、ムンバイー大学フォート図書館所蔵の揺籃本コレクション、分けても19世紀初頭に出版されたマーラーティー語による教科書の調査?収集を行った。デリー並びに近郊都市においては良好な古書市場が現存しており、ムンバイーでは収集の困難な古書の収集を行った。
- 学術調査報告書(PDF)