「近世スペインにおける対「ユダヤ」認識」 久木正雄
研 究
調査の目的を明確にするために、まずは報告者の研究課題について概観させていただきたい。それは、研究題目に「近世スペインにおける対「ユダヤ」認識」と掲げるとおり、近世スペインにおいてユダヤ教徒がどのような存在として捉えられていたのかということである。しかしながら、この時代のスペインが孕んでいたユダヤ問題の特質は、ユダヤ教徒が存在していなかったということにある。つまり、反ユダヤ運動が勃発した中世末期を通じて、キリスト教への改宗をおこなうユダヤ教徒(コンベルソ converso)が大量に現れ、さらに1492年にカトリック両王が発したユダヤ教徒追放令の結果、国内に残存したのはコンベルソもしくはその子孫のみとなった。近世スペインにおけるユダヤ教徒は、言わば不在の存在だったのである。
しかしながら、こういった動きと同じく中世末期よりその活動を展開させてきた異端審問制度は、コンベルソの中に潜むとされた偽装改宗者(フダイサンテ judaizante)の摘発を目的として彼等を主たる訴求対象とし、逆説的ではあるがその活動によって、ユダヤ教徒もしくは「ユダヤなるもの」の存在を民衆心性から拭い去りえないものとしたのであった。実際、その後近代に至るまで、「ユダヤ」という言説は、蔑視や敵意を伴った他者表象の手っ取り早い道具として、規範や伝統と相容れない他者――たとえば啓蒙思想や自由主義を標榜した政治思想家たち――に対し幾度となく用いられることとなったのである。ではその中で、「ユダヤ」とはいかなる意味を持った、もしくは意味を付与された言説であったのだろうか。報告者の大局的な目的は、これを明らかにすることにある。
詳しくは学術調査報告書(PDF)をご覧ください。
報告者
- 名前: 久木正雄
- 研究テーマ: 近世スペインにおける対「ユダヤ」認識
- 渡航先: スペイン
- 旅行期間: 平成20年3月4日~平成20年3月23日(20日間)
- 調査旅行の概要: 本研究は、『近世スペインにおける対「ユダヤ」認識』という研究課題に対し、「血の純潔」規約と呼ばれる諸規定に焦点を当てて試みるものである。そのため、今回の用務においては、この諸規定をめぐる議論を展開した同時代の論者たちによって残された史料(手稿史料、印刷史料ともに含む)の閲覧および蒐集をおこなった。
- 学術調査報告書(PDF)