テーマと目標
この研究プロジェクトは、20世紀初頭のヨーロッパで興隆した、いわゆる歴史的アヴァンギャルドの作品や芸術実践の中で生み出された、多様なジェンダー的意味や表象を扱っています。具体的には、後発的近代化を背景とするドイツ、イタリア、ロシアのアヴァンギャルド運動が、戦争や革命の体験を経て急進化してゆく中で「新しい人間」像が追及された結果、旧来の「女性らしさ」や「男性らしさ」をめぐる観念やイメージにどのような変容が見られるかを、各分野の研究者の共同研究によって検証してゆきます。また、前衛芸術家が「新しい人間」像の創造者/実践者と位置づけられてゆく過程で芸術領域が拡大され、女性芸術家に活動の場が開かれると同時に、男性芸術家の優位的な立場にも揺らぎが生じたことで、前衛芸術家のあり方を定義するための綱領的議論が、ジェンダーアイデンティティの多様な側面やジェンダー横断的な経験を表現し、探究する場となってゆく様子も明らかにします。
アヴァンギャルド運動の中で生み出されたジェンダーに関する言説や表象を扱うといっても、表面に現れたジェンダー的テーマを論じるだけでは不十分でしょう。むしろジェンダー的なものが直接現れていない言説や表象であっても、それをジェンダー的視点から分析することが重要なのです。なぜなら性や身体、芸術に関わる「ジェンダー化」された思考やイメージは、多くの場合隠されていて、この事象を分析するためには、何が描かれたか以上に、何が描かれなかったかを検証することが極めて重要になると考えるからです。
アヴァンギャルドの言説や表象を、上述のようなジェンダー的視点から分析することは、アヴァンギャルドの提示する新しい芸術概念を再検討することにもつながっていきます。その意味では、この研究は、アヴァンギャルドに関する個別研究に止まらず、文学?芸術研究分野におけるジェンダー的分析の有効性を示すことにも寄与するプロジェクトだといえるでしょう。現代の文学?芸術においてジェンダーの問題がますます重要になっていることを考慮すれば、この研究プロジェクトが今後、現代の芸術全般を考察するための基盤を築くことにもつながっていくことが期待できます。
領域?分類等
研究課題 | 領域番号 19H01244 |
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研究種目 | 基盤研究 (B) |
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 | 小区分 02040: ヨーロッパ文学関連 |
研究機関 | 東京外国語大学 |
キーワード | アヴァンギャルド研究 / ジェンダー |
研究者
研究代表者 | 西岡 あかね 東京外国語大学、准教授 |
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研究分担者 | 香川 檀 武蔵大学、教授 |
研究協力者
柴田 隆子 専修大学、准教授