HIPS
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プログラム内容
連携大学?機関
HIPS at TUFS
募集要項
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HIPS修了生インタビュー

2期生 名合 史子(なごう?ふみこ)さん

修士論文タイトル:
Embracing Japan’s Post-Cold War: An Examination of Intellectuals’ Opposition to the Gulf War

Q.1 HIPSに参加したきっかけや理由を、なるべく詳しくお教えください。

元々学部時代から東アジアの近現代史、特に日本の戦争記憶や歴史認識の問題に関心があり、歴史?歴史学の社会的な役割を学問?実践の両側面から探究したいと考えていました。学問知としての歴史?歴史学と人々の歴史認識を越境して、新たな語りの共創を試みるパブリック?ヒストリーの視点に魅力を感じ、修士課程ではこのアプローチを体系的に学びたく本プログラムへの参加を希望しました。また大学間のモビリティ(HIPSプログラムでの、国や大学の移動のこと)や歴史実践の現場でのインターンシップ等、アカデミアに囚われない学びの環境に身を置くことで、歴史を勉強する者として今後どのように社会を捉え、関わっていきたいのかを多面的に考える機会になると思いました。

ブダペストの寮から引っ越しする日

Q.2 HIPSで研究した内容を、なるべく詳しくお教えください。

修士論文は1980年代から90年代?ポスト冷戦移行期の日本の思想空間に注目し、柄谷行人をはじめとした文学者が1991年に発表した「湾岸戦争に反対する文学者声明」の歴史化に取り組みました。「声明」を反戦の立場を表明するだけではなく、ポスト冷戦世界における「日本」を再考するような意味合いを持つものだと捉え、「声明」が「日本」をめぐるナショナル?トランスナショナルな問題にどのように応えていたかを検討しました。
HIPSのカリキュラムが私の研究に直結することは多くはありませんでしたが、思想空間の社会的な役割を検討するという広義のテーマは共通しており、研究の切り口にも影響を与えたと思います。またグローバル?ローカルな移行期としてポスト冷戦を捉えていく上で、中央ヨーロッパのポスト冷戦の歴史や、戦争記憶のあり方は1つの参照点となりました。

Q.3 HIPSで印象に残っているエピソードを教えてください。

リスボン滞在時のCalouste Gulbenkian Museumでのキュレーター?インターンで、東洋美術を展示しているエリアの改装プロジェクトに参加し、キャプションと解説パネル文章の作成をした時のことが印象に残っています。事前に各オブジェクトの美術的?歴史的な背景のリサーチを綿密に行い、時間をかけて展示のストーリーを検討するのですが、実際にパネルに載せられる情報はほんの数行であることがとても新鮮でした。幅広い年齢?知識層へのアクセシビリティに配慮しながら、オブジェクトを説明し、展示のストーリーを伝えるための適確な言葉を選ぶことはとても難しく、主任キュレーターやアクセシビリティ専門のコーディネーターに何度も指導してもらいながら作成しました。歴史研究でも論文に含む情報の取捨選択はありますが、空間デザインやアクセシビリティを考慮しながら、リサーチの結果を最小限のテキストで伝えるという視点は学びになりました。

リスボンの国立アーカイブを見学

Q.4 HIPSで出会った困難と、それにどう対応したか、教えてください。

新リスボン大学のメンバーでポルトに旅行

短期間での移動と、修了年限が2年半であることによる経済的な困難が大きかったと思います。移動する先々で新しく生活を始めることもあり、JASSOの奨学金だけでは生活できませんでした。学費の支払いもあるので、リモートで週3日勤務の仕事をしながらプログラムに参加していましたが、両立はかなり難しかったです。ただお金の心配は参加学生の共通の話題でもあり、「節制しながら一緒に乗り切ろう」という連帯が生まれていました(笑)。行く先々で手に入る食材を使って、それぞれが作れる料理を互いに振る舞ったのは良い思い出です。各所属大学で事務的?経済的な壁に直面し、学生支援のあり方についても考える機会になりました。

Q.5 HIPSを修了した後の過ごし方や、今後の進路について、差し支えない範囲でお教えください。

ポルトガルのロカ岬(ユーラシア大陸最西端)

現在は博士後期課程で1990年代?日本の社会思想史の研究に取り組んでいます。将来的にアカデミアで研究を続けるか(続けられるか)は、正直わかりません。ただ、何らかの形で歴史?歴史学に携わっていきたいと考えています。最近は学問知を一般の人々に届ける学術出版に興味があり、出版社で編集者の見習いをしたり、学術本を通したアウトリーチの活動に携わったりしています。このように研究者以外のキャリアも選択肢として捉えられることは、HIPSで得た重要な視点だと思っています。

Q.6 HIPSへの参加を考えている学生にひとこと!

モビリティは事務的にも体力的にも大変な部分があります。ただ、異なる背景を持つ街で、その歴史の語りを意識しながら生活することは、歴史研究を志す私にとって貴重な体験になりました。研究者志望の方に限らず、歴史を学ぶことは好きだけれど進路に迷われている方にも、ぜひ参加してほしいと思います。

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