特別対談 TUFS 林佳世子 × ANA 芝田浩二 FUTURE!

対談者

  • 林佳世子(はやし?かよこ) 東京外国語大学 学長 (以下「林」)
  • 芝田 浩二(しばた?こうじ) ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 (以下「芝田」)


東京外国語大学で世界の諸地域と言語を学び、社会で活躍されている数多くの先輩たち。どんな学生時代を過ごし、社会に出てからは東京外大での学びをどのように生かしているのでしょうか。鹿児島の離島で生まれ、学生時代には部活に力を入れ、在学中に中国の北京大使館で働いた経験もあるというANAホールディングス代表取締役社長?芝田浩二さんに、東京外国語大学の林佳世子学長がお話を聞きました。

林:芝田さんが、東京外国語大学に入学されたのは1976年ですね。どのようなきっかけで東京外大に興味を持たれたのですか。

芝田:私の出身は、鹿児島県の加計呂麻島という離島です。沖を通る外国航路の船を見ていて、ああいう船に乗っていつか外国に行ってみたいと思っていました。通っていた小学校の校歌にも「7つの海に船出せん」という歌詞があって、母に聞いたら「7つの海」とは世界のことだと言われて、どんどん憧れが強くなっていきました。

林:「世界とつながる」感覚は今とは違った時代だと思いますが、芝田さんは沖を行く船が世界を目指すきっかけになったんですね。日本の若者は内向きになっていると言われますが、本学で教えているとやはり世界を見たい、海外で活躍してみたいという気持ちは、みんな持っていると実感します。

芝田:その気持ちは、人間の本能だと思います。おっしゃるように私の時代と、今の学生では少し違いがあるかもしれませんが、外に出たいという気持ちは変わらないと思います。

林:どんな学生時代でしたか?

芝田:当時の東京外大は外国部学部の一学部のみで、私は中国語を学んでいました。ただ、空手部の練習に明け暮れていたので、決して優秀な学生だったわけではありません。

林:部活に打ち込んでいらした。

芝田:はい。そして、部活動が一段落して大学4年生になると、中国語科の高橋均先生から「社会に出て、東京外大の中国語科を卒業したと言ったら、世間は中国語の専門家だと思いますよ。恥ずかしくないんですか、みなさん」と言われたんですね。

林:叱咤激励されたんですね。

芝田:自分の専攻語だけはマスターして卒業しなさいと熱心に語っていただいて、心に響くものがありました。その後、たまたまキャンパスの掲示板で外務省が北京の大使館で働く嘱託職員を募集しているというポスターを見つけました。試験に合格し、休学して2年間、中国で働くことなったんです。

林:北京大使館ではどのようなお仕事をされていたんですか。

芝田:最初の1年間は、第二次世界大戦後に中国に残された、日本人残留孤児の身元調査を手伝いました。

林:嘱託とは言え、本当に重要なお仕事をされていたんですね。

芝田:少しでもお役に立てれば、という思いで取り組みましたね。


「相手の立場で考えることが
  言葉を知るということ」

林:社会に出てからは、東京外大で培われたことはどのように役立ったでしょうか。

芝田:私は、1982年に当時の全日本空輸に入社しました。当時のANAはまだ国内線のみでしたが、入社前の面接では「ANAで国際線を飛ばす力になりたい」と熱く語りました。実際入社後は、国際線の就航準備に携わりましたが、仕事ではコミュニケーションツールとしての言葉が重要で、英語にしろ中国語にしろ東京外大で学んだ基礎が役立ちました。また、相手を理解するには言葉だけでなく多様性―ダイバーシティの精神が欠かせませんが、東京外大のキャンパスにはまさにその精神があふれていました。多くの人たちと相互理解のもとで仕事ができたのは、東京外大の中で培われた素養のおかげだと私は思っています。

林:今は、自動翻訳ツールもあって、外国語を勉強する意味はあるのかと聞かれることもあります。でも、翻訳ツールが進化しても、世の中の人が母語しかしゃべらない世界なんて恐ろしいと思うんですね。やはり相手の立場で考えることが、「言葉を知っている」ということになるのではないでしょうか。

芝田:おっしゃるとおりです。同じことを相手に伝えるにしても、表情を持って自分の言葉で話すのと、機械に語らせるのとでは違います。少なくとも熱量は伝わりませんよね。

林:今後、グローバルに活躍するためには、何が必要だと思われますか。

芝田:まず、最低限の語学力ですね。たとえばうちの社員であれば、英語ともう1か国語は身につけることが必須です。また、やはり相手を理解する気持ちも非常に重要だと思います。


「自分の環境を高みに上げる
  努力をし続けてほしい」


林:最後に、本学を目指す高校生に向けて、芝田さんからメッセージをいただければと思います。

芝田:「環境が人を育てるからこそ、自分の環境を高みに上げる努力をすべき」ということを、お伝えしたいですね。たとえば、エベレストの頂上を目指すときは、徐々に体を順応させていって、やっと登頂に成功します。

林:確かに、急に頂上に着くことはあり得ないですね。

芝田:自分の環境を、一つ上の高みに引き上げる努力を常にしていてほしいと思います。これは、私自身の体験でもあります。加計呂麻島で生まれて、高校で鹿児島に行き、そこから東京外大に行ったこと、さらに在学中に中国の大使館に行ったのも、私にとってはすべて大きなチャレンジでした。でも、チャレンジし新しいステップに進むと、その環境に自分の体は慣れます。だんだん環境が変わることで人は育つのです。そうした「環境を変える努力」をぜひやってほしい。まずは、東京外大に入るというチャレンジに向かって頑張ってください。

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芝田浩二(しばた?こうじ)氏  鹿児島県出身。1982年、東京外国語大学外国語学部卒業後、全日本空輸入社。2004年アライアンス室長、2012年執行役員、2013年ANAホールディングス執行役委員などを経て、2022年4月より現職、及び全日本空輸取締役会長。

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