大学院日英通訳?翻訳実践プログラムで同時通訳実習を実施

2021.03.23

大学院総合国際学研究科の日英通訳?翻訳実践プログラムの「通訳翻訳実践研究2」科目で、今年度最後の同時通訳実習が、冬学期の集中講義にオンラインで開講された世界教養プログラム「地域社会の持続可能性について考える」(通称:山形スタディツアー)において行われました。

本講義は、山形県ならびに県内の4自治体(寒河江市、高畠町、白鷹町、飯豊町)と東京外国語大学の協働プログラムです。参加学生は3日間のなかで、各自治体の方々や山形県の高校生らとディスカッションを行い、地域活性化及び持続可能性について議論を重ねました。参加学生の中には留学生も2名いたことから、円滑にプログラムを実施するために同時通訳の依頼があり今回実習として日英同時通訳を行うこととなりました。同時通訳はZoomの同時通訳機能を用いて提供され、ブレイクアウトセッション中は個別に通話ツールを通して言語サポートを行いました。学生向けの事前打ち合わせ2回と集中講義全3日間のほぼ全ての内容を同時通訳しました。山形スタディツアーの詳報は、近日中にTUFS Today特集にてご紹介予定です。

実習を行った大学院生のファム?トゥ?トゥイさんと栗田裕香さん(ともに大学院総合国際学研究科博士前期課程2年、日英通訳?翻訳実践プログラム)のレポートを紹介します。

ファム?トゥ?トゥイさん

大学の通常の授業と異なり、今回の実習ではオーディエンスの中に大学生だけでなく、ファシリテーターの先生と自治体の方々もいたため、前回の実習よりさらに緊張感をもちながら通訳を行いました。
本実習を通して学んだことは大きく三つあります。まず、本番で予想外のことがたくさんあるので心の準備をすることです。当初は同時通訳を依頼され準備しましたが、打ち合わせ初日では技術トラブルが発生し、逐次通訳に変更になりました。一年間、同時通訳を中心に訓練していたため、急に逐次通訳をすることになりスムーズにできない部分がありました。しかし、できる限り頑張るほかありません。今回の実習を通して通訳現場ではそのような予想できない事態があると改めて実感しました。その時は焦らず、冷静に対応できるように練習しておきたいと考えております。
さらに、通訳者にはコミュニケーション能力が欠かせません。例えば、今回は通訳内容や資料について一ヶ月前からファシリテーターの先生と連絡を取り合いました。同時に、本番の前は通訳が必要な留学生、いわゆるクライアントにも相談しました。当日スムーズに通訳を行うため、クライアントの希望や技術面の問題などを確認しておくことが大切でした。それに加えて、スピーカーとして参加する自治体の方々にもゆっくり話してもらうことを依頼しました。その過程の中で、情報共有と意見交換の仕方を学ぶことができました。今回の実習で一層感じたのは通訳者が単に訳すことだけでなく、コミュニケーション力を身につけなければならないということです。
また、同時通訳ではほとんどの場合パートナーがいるため、役割分担や交代時間などを決めることも非常に大切です。例えば、最後日では開始時間の直前まで資料がそろいませんでした。限られた時間で全てを読んで調べることは難しいと気づき、発表を二人で分担して通訳することにしました。基本的に5分交代で進めていましたが、発表時だけ4つの発表を1人2つずつ担当を分けて通訳しました。それぞれの発表は約20分です。20分連続の通訳は長いものの、内容を考えると、発表者ごとに担当を分けるほうが負担を減らすことができました。この事例からみると、パートナーとの協力は通訳本番の成功に大きな影響を与えたと感じています。
スタディーツアーが終了した後、当日の録画をみることができたおかげで自分のパフォーマンスについても深く反省することができました。まだ問題点がたくさんありますが、前回の実習で注意されたことは念頭において改善しようとしました。例えば、同時通訳をする際は聞くことに集中しすぎて、自分の通訳パフォーマンスにまで気が回らなくなる傾向があります。初回の後に、訳した声が聞きづらいとのコメントを受けました。この点を振り返ってもっとゆっくり話すことを意識しました。今回の実習を通して通訳者がオーディエンスの立場から考えなければならないと実感できました。今後も通訳訓練を頑張っていきたいと思います。

栗田裕香さん

本実習を通して多くの学びや気づきがありました。その中でもここでは二点を取り上げたいと思います。
一点目は、臨機応変に対応することの重要性です。リアルタイムで行われるからこそ、予期せぬ事態が多く発生し、それぞれに対して柔軟に対応することが求められました。たとえば、Zoomの同時通訳設定が上手くいかなかった際には、瞬時に個別の通話ツールに切り替えて同時通訳を行いました。また、最終日の講義では学生がグループプレゼンテーションを行うことになっており、発表内容をグループ内で念入りに議論していた都合で、使用するスライドの編集作業が直前まで行われていました。そのため、これまでの講義内容や前日までに受け取ることができた資料などをもとに内容を予測し、本番ではその場で訳していく瞬発力も求められました。このように、状況に応じた対応を取るということは、現場に近い状態での実習だからこそ学ぶことができたと感じています。
二点目は、綿密に予習することの大切さです。先ほど述べたとおり、当日予期せぬ事態が起こることもあります。そのような場面に遭遇した際に、臨機応変に対応することも大切ですが、それと同じくらい事前準備をしっかり行うことも大切であると気づかされました。今回、実習にあたり、一カ月ほど前から担当の方と連絡を取り合い、資料の共有や流れの確認などを行わせていただくことができました。そして、いただいた資料をもとに、単語リストや想定原稿を作成して練習しました。そういった予習のおかげで、当日予想外のことが起きた時も落ち着いて対処することができたと考えています。
今回の実習をとおして、柔軟に対応する力と事前準備を綿密に行うことの重要性について改めて実感することができました。至らぬ点も多々ありましたが、無事に全日程を終えられたことに安心感を覚えました。また、集中講義に参加していた留学生から感謝の言葉を述べられたときに、通訳者としてのやりがいを少し感じることができました。このような学びの機会を設けてくださったことに対して大変ありがたく思うと同時に、本実習に際してサポートしてくださった全ての方々に御礼申し上げたいと思います。

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