東京外国語大学

地域の情報

世界とっておき情報―キューバの「もったいない精神」

私は観光のためキューバを訪問した際、キューバ人の家に立ち寄り、自動車を使い続ける執念の一端に触れることができた。知り合いに日本で学ぶキューバ人留学生がいて、滞在中、偶然その親族を訪ねるチャンスに恵まれた。その家が自動車の所有者だったのだ。

ハバナ郊外の自宅を訪ねると、親族夫婦が歓待してくれた。夫の自慢はルノーの小型車だった。マイカーは誰でも持てるものではない。彼は日本から来た珍客を呼び寄せると、ボンネットを開けて、自分がいかに手間をかけてルノーを維持し続けてきたかを説明してくれた。彼自身が修理する技術を持っており、オリジナルのパーツが使えなくなったら、ロシア?東欧製などに少しずつ置き換えているが、それでもまだオリジナルがたくさん残っていると話していた。まるで我が子をいつくしむように大切に使っている様子がうかがえた。
連続してどのくらいの時間を走ることができるかを尋ねると、正直に「20分くらい」と答えてくれた。長めに走るときは20分走ってはエンジンを止めてクールダウンし、また20分走るのだという。近場であれば買い物や通勤に十分使えるそうだ。交通渋滞がほとんど発生しないため、たとえ20分の走行時間であっても、東京の感覚からすればそこそこの距離を走ることができると思われる。

話を交わしながら、ここ半世紀以上、キューバ国内の自動車を維持してきた人々の思いが伝わってくるようで、私は強い感動を覚えた。「アメリカ合衆国の人々にはとても真似できない技ですね」と声をかけると、彼は大きくうなずいた。「彼らは使えるものでも古くなるとすぐ捨てちゃうからね」。

同じような精神を東南アジアで実感したことがある。フィリピンのジープニーと呼ばれる乗合自動車である。フィリピン人は第二次世界大戦後に米軍から払い下げられたジープを改造し、自国民好みの装飾を施して庶民に欠かせない交通の手段に発達させていった。フィリピン人は自動車修理?改造に熱心で、私は以前、ボディーが使えなくなった小型車からドアやフロントガラス、屋根を含む車体ほぼ全体を取り除き、エンジン部分だけをブリキ板で覆った粗末な自家用車に乗せてもらったこともある。

使える限りはものを捨てずに使い続けようとする精神。資源や物資が足りない国ではどこでも受け入れられる姿勢だろう。さきほどのルノー所有者に「Mottainai(もったいない)」という言葉の意味を説明すると、大いに共感してもらえた。


東京外国語大学 大学院総合国際学研究科
国際社会専攻
博士後期課程 松野 哲朗

【掲載日:2017.7.11】