ご入学おめでとうございます!(2025年度入学式)
2025.04.05
2025年4月5日(土)、2025年度入学式が行われました。
言語文化学部353名(編入学11名含む)、国際社会学部356名(編入学5名含む)、国際日本学部88名(編入学1名含む)、大学院総合国際学研究科博士前期課程120名、博士後期課程31名、計948名の新入生が入学を許可されました。













学長式辞(学部)
(スピーチは英語で行われました)
新入生の皆さん、東京外国語大学へようこそ。
本日は英語で話しをさせていただきます。皆さんの多くは、英語以外の言語を専攻します。そして、その言語の習熟度は、生涯にわたって皆さんの強みになるはずです。しかし、英語の習熟度が不足していれば、それはグローバル社会で不利な要素になります。皆さんには、専攻が何であれ、高い英語力を身につけていただきたいと思います。
いくつかの質問から始めたいと思います。これから式辞のなかで、皆さんにはいくつもの質問を投げかけます。どのような学生生活を送れば、これからの4年ないしはそれ以上の期間を最大限に活かせるのか、考えていただきたいからです
なぜ皆さんは大学で勉強しようと思ったのでしょうか。そして、なぜこの大学を選んだのでしょうか。そのように自分自身に問うて、自分の選択を自覚していてほしいと思います。
なぜかというと、選択こそ人生で最も困難な行為のひとつであり、今後の人生において、その難しい選択を何度も繰り返さなければならないからです。しかも、私たちは困難な時代に生きていますから、ますます選択が難しくなっていくでしょう
私たちはVUCA(ヴーカ)の時代に生きていると言われます。V 、U、C、A。この4文字は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)を表しています。
私は、ウクライナやパレスチナでの戦争、あるいは中国とアメリカの不穏な関係など、不安定な国際関係だけを念頭に置いているわけではありません。もう少し長期的な視点で考えてみましょう。世界の食糧供給は持続可能でしょうか? エネルギー供給は持続可能でしょうか? 気候についてはどうでしょうか? 日本の社会は持続可能でしょうか? もし持続可能性を失っているのであれば、私たちは社会を変えていかなければなりません。私たち自身の生活様式も変えなければなりません。そのため、私たちの未来は不確かで曖昧です。未来への道筋も不安定かつ複雑です。これが、現代がVUCAの時代と言われる所以です。
私たちが不安定かつ不確実な時代に生きているのであれば、先人たちが歩んできた人生の道筋やキャリアパスは、あまり参考になりません。先人たちの後を追うだけでは済まないのであれば、自分自身で道を模索し、選択しなければなりません。皆さんは、親や友人、先生にアドバイスを求めることもあるでしょう。しかし、自分の選択には自分で責任を持たなければなりません。だからこそ、自分自身が下す選択や決断を自覚していてほしいのは、そのためです。
そして、未来が不安定であるならば、これからの人生において、1度2度ではなく、何度も人生の選択、キャリアの選択をしなければならないでしょう。それには柔軟性が必要です。以前の選択を後で変えられるような柔軟性が必要です。
ここで、もうひとつ質問をしましょう。自信を持って主体的に選択できるようになるには、どのような準備が必要でしょうか。何が必要だと思いますか。
別の考え方もあるかと思いますが、私は、自分にどのような選択肢があるのかを事前に知っておくのがよいと考えています。そのためには、視野を広げ、さまざまな考えに触れるのがよいでしょう。そうすれば、自分にはどのような選択肢があるのかが見えてくるでしょう。
これまでお話してきたことをまとめると、激動と不確実性の時代を歩むには、自分の選択肢を把握したうえで自律的に選択しつつ、その選択を後に変更する心の準備もしておくべきでしょう。
次の質問に移りたいと思います。決断力と柔軟性を併せ持った思考は、どのように養えるでしょうか。
3つの提案をしたいと思います。
まずは、多様なバックグラウンドを持った人々と出会い、コミュニケーションをとってみてはいかがでしょうか。その経験から、多くの知識と多くのアイデアを得られるでしょう
さまざまな人々と出会うためには、自分の “comfort zone” から一歩踏み出す必要があります。そして、多様な背景を持つ人々とコミュニケーションを取るためには、共通の言語が必要です。外国語を専攻することで、皆さんの行動範囲は広がります。英語に堪能であれば、皆さんの行動範囲はさらに広がります。私が今日、皆さんに英語でお話ししている理由は、ここにあります。
今日、国際日本学部には、日本を含めて19の国と地域からの学生が入学します。モロッコ、オーストラリア、ブラジル、中国、ドイツ、インドネシア、日本、韓国、キルギス、スリランカ、ミャンマー、マレーシア、ニカラグア、ロシア、シンガポール、タイ、台湾、アメリカ、ベトナムからの学生です。大学院生や交換留学生を加えると、現在約80カ国の学生がこのキャンパスで学んでいます。英語を使えば、彼ら全員とコミュニケーションをとることができます。
この大学の環境を最大限に活用してください。本学には「英語による」コースが多数用意されています。英語力を磨くコースばかりではありません。英語による授業を受けてください。そのような授業では、世界中から集まった学生と出会うことができます。クラスでのディスカッションに積極的に参加してください。そして、授業外でも、キャンパス内外でクラスメイトに会えば、是非、話しかけてください。
次の提案です。皆さんには、可能なかぎり、たくさん挑戦してほしいと思います。失敗を恐れないでください。結果を恐れず失敗を繰り返せるのは、学生の特権だと私は思います。皆さんは学習の過程にあるのです。失敗するのは当然です。試行錯誤を繰り返せば、何がうまくいき、何がうまくいかないのか、何が自分の興味に合い、何が合わないのかが分かってくるでしょう。
海外留学は大きな挑戦です。本学では、毎年約500名の学生が、海外の提携大学に渡り、1学期または2学期間学んでいます。
本学では、ダブル?ディグリープログラムという、より挑戦的なプログラムも用意されています。提携大学に1年以上留学し、そこで卒業要件を満たせば、東京外国語大学を卒業する際に2つの学士号を取得できます。2つ目の学位は、あなたの学力を国際的に証明するものとなるでしょう。私たちは、英国のセントラル?ランカシャー大学、オーストラリアのメルボルン大学、ブラジルのリオ?デ?ジャネイロ州立大学と、このようなダブル?ディグリープログラムを設けています。
もちろん、その修了の要件は容易ではありません。しかし、先ほども申し上げましたように、失敗を恐れないでください。もし難しすぎると感じたら、2つ目の学位を取得せずに戻ってきても構いません。私たちは、いつでも、皆さんを温かく敬意をもって迎えます。
3つ目の提案にうつります。この大学で4年以上勉強することを考えてみてはいかがでしょうか
語学力とコミュニケーション能力の向上、留学準備、知識の収集からアイデアの醸成へ、そしてアイデアの実践的な試行。このような多段階のプロセスを踏破するには、相応の時間がかかります。実際、本学の学生の大半は、卒業までに5年以上を費やしています。しかし、その点に心配は不要です。標準的な修業年限よりも長く学んだ先輩たちは、卒業後に素晴らしい活躍を見せています。学びの期間を長引かせて得た知識と経験には、少しばかりの卒業の遅れを上回る価値があります。
5年で卒業しても不利にならないのであれば、1~2年海外で勉強して、学士だけでなく修士も取得したうえで、6年で卒業するのはいかがでしょうか。知識も経験も豊かになります。そして、国際的な信頼性も高まります。
本学のウェブサイトを見てください。本学の卒業生で、現在、国際NGOの一員としてパレスチナで活動している方のインタビュー記事が掲載されています。彼は現在、ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)のオンライン修士コースを受講しています。人道支援の分野で働くには、修士号は「免許みたいなもの」だからです。
そろそろまとめに入ります。不安定で不確実な未来に備えるためには、多様性に触れ、多くの挑戦をし、学位取得のために在学期間の延長を検討すること。これが私の提案です。
もし、これが個人に焦点を当てすぎているようであれば、もう一つ提案を付け加えたいと思います。それは、「大志を抱け!」ということです。北海道大学の前身である札幌農学校の第1期生たちに向け、教頭のウィリアム?スミス?クラークが発したメッセージを引用したいと思います。このメッセージは1870年代に伝えられたものですから、現代風にアレンジして引用します。
「若者たちよ、大志を抱け! 金銭や自己の利益拡大のためではなく、人々が名声と呼ぶ儚いもののためでもない。知識、正義、人々を向上させるために大志を抱け。人があるべき姿になるために、大志を抱け。」
まず自分自身で激動と不確実性の時代に備え、次にはコミュニティを広げ、多様性と持続可能性を確保したグローバル社会の構築に貢献してください
あなたの旅はここから始まります。東京外国語大学へようこそ。
2025年4月5日
東京外国語大学長
春名 展生
学長式辞(大学院)
東京外国語大学へようこそ。
入学式では、とかく理想や理念が語られがちですが、ここでは、あえて現実を直視したメッセージを皆さんに贈ります。
皆さんは、どのような目的をもって入学されたのでしょうか。特に博士課程、博士後期課程に入学する皆さんは、大学教員?研究者を志望している人が多いのではないでしょうか。私は、その希望が叶うことを切に願っています。
しかし、修士課程、博士前期課程に入学した皆さんはもちろん、博士後期課程に入学した皆さんも、将来の進路を一本に絞り込むのは、まだ早いと考えてください。と言いますのも、現状でも、東京外国語大学の大学院を修了した者のうち、大学教員などの安定した研究?教育職に就いている者は、少数にとどまっているからです。今後、少子化の進展、若年人口の大幅な減少を受け、大学の数や定員が減っていけば、大学教員の職は、今よりもさらに「狭き門」になるでしょう。
じつは現在も、修士課程の修了生は、多くが、企業など研究?教育機関以外の組織に就職しています。日本では、そのような組織は、採用にあたって修士号を条件と課していない場合が多いでしょう。しかし、国際的で専門性の高い職業では、修士号を求められる場合があります。
今、東京外国語大学のホームページには、パレスチナで人道支援にあたるNGOで働く卒業生のインタビュー記事が掲載されています。その卒業生は、現在、働きながらオンラインでロンドン大学東洋?アフリカ研究学院の修士課程プログラムを受講しているそうです。なぜならば、人道支援の分野で働くには、修士号が「免許みたいなもの」と見なされているからです。
博士課程の修了者で、企業など研究?教育機関以外の組織に就職する者は、まだまだ少数にとどまっているのが現状です。しかし、今後は、東京外国語大学としても、日本社会全体でも、博士号を取得して研究?教育以外の分野に職を得る者を増やしていくことが望ましい、と私は考えています。人口が減少していくなか、今よりも少ない人数で、持続可能な社会への転換など、これまでにない困難な課題に取り組んでいくには、これまでになく一人ひとりの知恵や創造力、そして社会への貢献が重要になってきます。そのため、今後の日本社会では、より長く教育を受け、より長く知的な鍛錬を積んできた人々が必要になってくるはずです。
海外に目を転じれば、博士号を持った人がさまざまな分野で活躍しています。人口100万人あたりで比較すると、博士号取得者は、日本では120人にすぎませんが、ドイツ、イギリス、韓国では300人を超えています。アメリカでも、300人に近づいています。それらの国々では、日本と比べて、人口あたりの大学教員数が格段に多いわけではありません。博士号を取得しながらも、大学などの研究?教育機関ではなく、多様な組織で活躍している者が多いのです。
ですから、皆さんも、大学教員を第一の希望に据えているとしても、それ以外の選択肢を常に考慮に入れておいてください。言い換えますと、大学院での研究活動が、研究以外の場面でどのように活かされうるのか、常に考えていてください。
研究活動をとおして身につく技能は、研究?教育以外の職種でも、十分に活かせるはずです。自分で問いを設定し、その問いに対する答えを探究する。そのために必要な資料を考え、探し、入手した資料を分析する。その資料は、文献にとどまらず、インタビューやアンケートによって得られるデータの場合もあるでしょう。一連の過程をひとつひとつの工程に分ければ、皆さんは、課題発見、企画構想、資料収集、資料分析、論理的思考といった作業をとおして研究をすすめていきます。それぞれ、研究以外でも、社会のなかで活きる場面があるのではないでしょうか。
これまで日本社会では、特に人文社会系の大学院に進学する者は、当然、研究?教育職をめざすと考える風潮がありました。今後、その考え方は変わっていくでしょう。その転換期にいる皆さんは、先駆者です。先人のたどった道とは違った道を、自分で切り開いていかなければならないからです。
東京外国語大学は、可能なかぎり、皆さんが多様なキャリア?パスを切り開いていけるように支援していきます。今年度より、新たに「トランスファラブルスキル実習」という授業が、博士後期課程に開設されます。しかし、正直に申し上げれば、大学も手探りの状態です。まだ至らない面も多々あるでしょう。皆さんのほうから何か要望がある場合は、是非、教職員と私にお伝えください。より長く教育を受け、より長く知的な鍛錬を積んできた人々が、多様な分野で活躍し、多様なかたちで社会に貢献する。そのような社会を一緒につくっていきましょう。
これから皆さんが歩む道のりは、けっして平坦ではないでしょう。ですから、この場に「おめでとう」という言葉は、あまりふさわしくないのかもしれません。
東京外国語大学へようこそ。ここから皆さんの旅路が始まります。しばらくの間、私たちは伴走します。
この言葉をもって式辞を締めくくります。
2025年4月5日
東京外国語大学長
春名 展生