ご入学おめでとうございます!(2023年度入学式)
2023.04.08
2023年4月8日(土)、2023年度入学式が行われました。今年度は4年ぶりに、アゴラ?グローバル プロメテウス?ホールにおいて学部別に一堂に介して開催されました。
言語文化学部356名(編入学9名含む)、国際社会学部358名(編入学9名含む)、国際日本学部84名、大学院総合国際学研究科博士前期課程103名、博士後期課程34名、計935名の新入生が入学を許可されました。
学長式辞(学部入学式)
皆さん、ご入学おめでとうございます。
緑豊かなこのキャンパスに、今日、皆さんをこうしてお迎えすることができ、本当にうれしいです。この会場で、学部別に一堂に会しての入学式を行うのは4年ぶりのことです。また、多くのご家族の皆さまにも、ご来校いただきました。これから4年間、学生たちが長い時間を過ごすことになるキャンパスを、ぜひゆっくり見ていただければと思います。
コロナ感染症の影響が薄れ、普通がもどってきました。しかし、これまでの3年間を、コロナのもとでおくってこられた新入生の皆さんにとって、普通ってなに?という感じではないかと推測します。異例の高校生活を送られた皆さんには、大学においては、ぜひ、普通以上に活動的な日常を送ってほしいと願います。東京外大生にとっての普通というのは、1年次2年次には忙しい勉学の合間に、サークル活動などにはげみ、夏や冬には短期留学をし、3年生になると、ゼミに入り、長期留学をし、就活をし、、、、といった形を指すかもしれません。もちろん型にはまる必要はありませんが、こうした普通の多くが失われた3年間だったことを思うと、普通に、あるいは普通以上に楽しく有意義な大学生活を送っていただきたいと、心から思います。
ただ、外大での学びは、結構、たいへんかもしれません。新しい言語の学習にはちょっとした忍耐が必要ですし、道具としての言語を使って何を専門にするかを、自身で模索していかなくてはなりません。そういった一連の挑戦が怒涛のように押し寄せます。でも、心配しないでください。皆さんの先輩たちは立派にその波を乗り越えていきました。
どうして、こういうハードな生活を送ることになるのか、というと、それは、皆さんに対する期待がそれだけ大きいからです。また、皆さんには、それを乗り越える力があり、さらに私たちの期待以上のものを成し遂げてくれると信じているからです。
世界を見渡し、また身近な社会をみるとき、どれだけ問題が山積しているか、皆さんも肌で感じておられることでしょう。
今、世界は、ロシアのウクライナ侵攻に限らず、いろいろな争い事やその火種をかかえています。世界の国々に真にリーダーといえるような人がいなくなって久しいように思いますが、それは、だれもが納得するような価値が、失われているからかもしれません。皆がそれぞれの方向を向き、正しいと思うことを主張しあい、自分にとって好ましくないことに対し非難を浴びせかける、そんな光景が蔓延しています。
これを乗り越えていくには、一旦、互いの価値を認めたうえで、互いが相手の声に耳を傾けるしかありません。相手がよって立つ価値観を理解しつつ、妥協点を見出す努力をする。それが相手とあなたを近づけます。
想像力や共感する力も必要です。
ウクライナで続く戦争で戦場に立つ人々、その背後にいる人々、ミャンマーの軍事政権のもとにある人々、学校に行けないアフガニスタンの女子生徒、テレビには映らない北朝鮮や新彊、チベットの人々のくらし、トルコやシリアでの地震被害に苦しむ人たち、こうした問題に、心を寄せるには、それぞれの立場の人々が、どういう背景をもち、どのように感じ、考えているかを理解しなくてはなりません。それには、人々が発することばを直接受け止めることが第一歩となります。
また、日本国内にも、外国につながる人々が大勢くらしています。皆さんも身近でしっているように、共生に向けての課題は、尽きることがありません。
AI技術がすすみ、自動翻訳で相手のいうことを、自分の母語で理解することはできるようになりましたが、世界中の人が、自分の母語だけを話し、自分の母語だけですべてを理解しようとする世界で、人々が互いに近づけあえるはずはありません。今、必要なことは、想像力や共感力をもって、際限なく分化?分裂し続ける世界を、なんとか、ひとつに繋ぎ止めることです。本学での学びが目指すことは、ここにあります。学びは言語にはじまりますが、目的地は、世界の人と文化を理解し、それをつないでいくところにあります。
これから、本学で学ぶ皆さんが、世界の問題を解決する力となることを、心から期待しています。どうか、大きな志をもち、有意義な大学生活を送ってください。
入学、おめでとうございます。
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2023年4月8日
東京外国語大学長 林佳世子
学長式辞(大学院入学式)
大学院への進学、おめでとうございます。修士課程(博士前期課程)に103人、博士課程(博士後期課程)に34人の方が進学されました。本日から皆さんは、本学、総合文化研究科の一員となられました。
人文社会系の諸学問を志す皆さんがこれから探求しようとするテーマは、修士の方なら学部時代の卒論研究、博士の方なら修士論文研究のなかで、さらに深めたいと思われたものだと思います。あるいは、社会人としての生活のなかで新たに直面した問題を、大学院で追及しようとされている方もいらっしゃると思います。
人文社会系の学問の特徴は、個人個人のテーマが、あたかもバラバラであるようで、総体として、人間の在り方、社会の在り方、あるいは人間や社会がこれまでたどってきた道を明らかにし、そして将来を示すことにあります。一人ひとりの研究テーマは、あたかも、一つ一つの星のようにバラバラですが、まとまって、太陽系のような集合をつくり、さらに銀河をつくるようにつながっていきます。どうか、自分のテーマが、広く他の分野とどうつながっているか、そして社会とどうつながっているかを意識し、仲間とともに、研究を深めて行っていただきたいと思います。
社会につながる研究を、と思うのは、それだけ、社会には、人文社会系の研究により解決されるべき課題が多いからです。世界を見渡し、また身近な社会をみるとき、どれだけ問題が山積しているか、皆さんも肌で感じておられることでしょう。
2つほど、例を挙げたいと思います。一つは、地域研究への課題です。
今、世界は、大きな亀裂、小さな亀裂を無数に抱えています。その結果が、ロシアのウクライナ侵攻や、各地の地域紛争となり、紛争は、様々な思惑により複雑化しています。だれもが納得するような価値が失われ、世界はリーダーをなくしたまま、さまよい続けています。皆がそれぞれバラバラな方向を向き、正しいと思うことを主張しあい、自分にとって好ましくないことに対し非難を浴びせあう、そんな光景が世界には蔓延しています。
これを乗り越えていくには、自分たちの立場と、相手がよって立つ価値観がどう違うのかを、きちんと知る必要があります。解決には、地域に対する理解や、歴史に対する理解を通じた、相手への理解が不可欠です。それは、人文社会系の研究が明らかにするものでしょう。
2つめは、人間の可能性を明らかにする必要性です。今、科学研究は、目覚ましく進歩しています。AI により人間の思考力に迫る技術がうまれ、できなかったことが、次々にできるようになってきています。ここまで進んだ技術を前に、人間の想像力とは何なのか、人間の可能性はどこにあるのかが、改めて問われています。科学技術はどんどん進むのに、人間はかわらない。このギャップを埋めるのも、人文社会系の研究の役目です。
科学技術が進み、たとえば、戦場はハイテク技術の展示場と化し、その様子が実況中継されるような状況が生まれていますが、そのなかで、失われた人命を嘆く人々の気持ち、戦争に憤る人々の気持ちは、日本でいえば、万葉集の時代から変わりません。変わらない感情やエゴをもった人間を扱う学問分野により、技術に支配されない人間社会の可能性が、議論されなくてはなりません。人間とは何なのか、人間の幸せとは何なのかを、人文社会系の研究により、明らかにしていくことが必要なのだろうと思います。
以上を一言で言え、皆さんの研究は、社会につながっており、その視点、視野をもって大学院での研究を続けていただきたい、ということです。
本学では、MIRAIプログラムという大学院博士課程学生のための研究?キャリア支援プログラムを実施しています。研究の視野をひろげ、社会につながる研究、理系分野との接合などをめざした活動を行っています。博士課程の皆さんのなかには、すでにMIRAIプログラム生として入学された方も多いと思います。この活動は、MIRAIプログラム生以外にも開かれています。修士の方も、ぜひ興味をもって、未来のMIRAIプログラム生になっていただきたいと思います。
それぞれの研究が、社会につながり、社会を変えていく力となることを信じています。
皆さんの大学院での生活が充実したものとなることを祈念し、入学のお祝いの言葉といたします。
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2023年4月8日
東京外国語大学長 林佳世子