平成25年度卒業式?学位授与式
2014.03.27
平成25年度外国語学部卒業式?学位記授与式、大学院総合国際学研究科学位記 授与式が平成26年3月26日(水)に府中の森芸術劇場「どりーむホール」において行われました。
平成25年度卒業式 立石博高学長式辞
この4月1日に、社会人として広く世界に向けて巣立っていく卒業生の皆さん、また、さらなる学究の意欲に燃え、進学の道に入られる皆さん、そして、大学院博士前期課程、後期課程のそれぞれで学位を取得された皆さん、皆さんの新しい門出を祝い、東京外国語大学長として、餞(はなむけ)の言葉を述べさせていただきます。
今日、外国語学部を卒業される皆さんのなかには、海外留学などのために留年されたかたもおられると思いますが、4年間で卒業されるかたは、2010年4月に入学されています。その入学式で、亀山郁夫前学長が皆さんにお話ししたことを覚えていらっしゃるでしょうか。
亀山前学長は、東京外国語大学の基本精神は、「世界知の蓄積、地球社会との協働」(accumulation of world knowledge, interaction with the global society)であると言われ、この精神のもとに学ぶ皆さんは、4つのスキルを習得してほしいと訴えられました。第一は、コミュニケーション(Communication)能力で、自分の意思をしっかり他者に伝えるとともに他者の考えを聞き取る能力です。第二は、イマジネーション(Imagination)能力で、他者の存在をしっかりと見つめ、理解しようとする人間的な想像力です。第三は、エクスプロレーション(Exploration)能力で、世界のさまざまな地域をしっかりと理解するためのリサーチ力です。第四は、コオペレーション(Cooperation)能力で、世界のさまざまな矛盾を見すえ、世界と協働し、よりよい世界の実現のために努力する行動力です。
皆さんは、本学での大学生活を通じて、これら4つのスキルをどれほど習得されたでしょうか。それぞれの地域言語の修得と英語力の向上によって、第一のコミュニケーション能力を培ったと、またそれぞれの専門科目や演習を通じて、第三のエクスプロレーション能力を培ったと、今日この場で皆さんが自負されるよう願ってやみません。
それでは第二のイマジネーション能力つまり想像力と、第四のコオペレーション能力を皆さんはどれほど磨き上げたでしょうか。
私は、この二つの能力は切っても切り離すことのできない関係にあると思います。というのは、他者のおかれた困難な状況を理解し、その解決に資したいと思う「コオペレーション能力」は、他者に共感する「イマジネーション能力」があってはじめて力を発揮できるからです。私は、この二つを備える人間力のことを「思いやり」と呼びたいと思います。そして皆さんがいま、本学での大学生活を通じて「思いやり」の力も十分に身につけたと誇られることを願っています。
皆さんは、大学に入ってすぐに学内競漕大会(ボート大会)に参加し、団結しました。秋には外語祭の各国?地域の料理店の準備と運営のために一緒に汗を流しました。2年生の秋の外語祭では専攻語別の語劇にチャレンジして立派に成功させました。さらに、さまざまな課外活動にも従事されたことでしょう。そうした学生生活で、自分とは異なる考えをもつ学友とはときにぶつかり合いながらも、それぞれに相手を「思いやる」態度を身につけられたものと確信します。
そして皆さんが入学した翌年の春、3.11の大震災が起きて、東北地方の人たちが苦しんでいた時、若者らしい「思いやり」の力を発揮されて、さまざまな募金活動や現地支援活動に立ち上がってくれました。そして今でも、東北復興のために自分たちのできるボランティア活動に打ち込み続けている方々がおられることを、私は誇りに思います。
「思いやり」の力が、自分の周囲や国内にとどまらないことも本学の特色です。昨年11月にフィリピンを未曾有の大型台風が襲って大きな被害を出しましたが、皆さんのなかから被災者支援のための自発的な運動が起こり、外語祭でも熱心に募金活動が繰り広げられました。
そのほかにも本学では学生の皆さんの課外活動?ボランティア活動が盛んで、アジアやアフリカ、ラテンアメリカの貧しい地域への支援に取り組んでいます。本学で異なる言語や文化を知るために努力されてきた皆さんだからこそ、遠くの他者のことを思いやり、しっかりと行動できるのだと、私は嬉しく思っています。
ところで昨年秋に2020年の東京オリンピック開催が決定され、「お?も?て?な?し」という言葉が流行語になっています。オリンピックで東京を訪れる世界各国の人たちに日本のすばらしさ、和食の美味しさを伝えようという意気込みが聞かれます。
しかし気になるのは、「おもてなし」が独りよがりにならないかということです。饗応(きょうおう)や手厚い世話をすると相手は当然に喜ぶだろうという考えに陥りがちです。生活習慣や食事の違い、とくに文化的タブーをわきまえない「おもてなし」は、逆効果をうみだしかねません。
「おもてなし」を英語に訳すときに、Hospitalityという訳語が与えられることがありますが、ヨーロッパの歴史のなかで、Hospitalityは重要な文化的態度でした。「異人歓待」ということです。ヨーロッパでは職人たちがその技を磨くために国境を越えて旅をしました。聖地巡礼ということで、イタリアのローマやスペインのサンティアゴ?デ?コンポステーラなどにたくさんの人が旅をしました。こうした移動する職人や巡礼者、つまり自分たちの村にとってのよそ者、異人を歓迎し、ときには病に倒れた人を看病する、そうした文化的風習がヨーロッパ各地に根付いたわけです。ちなみにHospitalityのラテン語の語源のhospesは、「客」と「よそ者」の二つの意味をもっていました。ちなみにHospital(病院)やHotel(ホテル)は、hospesに由来するhospitalis(客の、もてなしの)から派生したものとされます。
「外国学(Foreign Studies、つまり自分とは異なる国や地域についての研究)」を標榜する東京外国語大学で、異なる言語や文化を学んできた皆さんは、Hospitalityつまり「異人歓待」の態度を十分に身につけられたと思います。したがって、東京オリンピックを開催し世界に開かれた観光立国をめざす日本において、これからの皆さんの活躍の場は多く、また果たすべき役割も大きいのです。
この4月から社会人になられる皆さんは、学生時代と異なって、自由な時間や余暇をもつことができにくくなると思います。しかし、「思いやり」や「おもてなし」の柱となる「想像力」が、皆さんのなかで枯渇することはないでしょう。亀山前学長が4年前に皆さんに訴えたように、これからも豊かな「想像力」をもって、「世界のさまざまな矛盾を見すえ、世界と協働し、よりよい世界の実現のために努力してほしい」と思います。
そこで、私のモットーとしている言葉を、紹介させてください。「会ったこともない人々の人権を守るためには、想像力が必要です。想像力を持てるのは人間だけであり、生きている範囲を広いものにします。」日本のことを日本人以上に「思いやる」、在日アメリカ人イーデス?ハンソンさんの言葉です。
最後に二つお願いがあります。一つは、本学のOB?OG組織である東京外語会の活動に加わっていただきたいということです。ご案内がお手元にいっているはずですが、東京外語会は、「東京外国語大学と連携し、外語大ブランドをともに高めていく」同窓会組織です。
もう一つは、社会人になられて多少ゆとりができたときで結構ですが、本学が今年からスタートした「建学150周年基金」を支援していただきたいということです。この案内もお手元に届いているはずです。どうか、2023年の東京外国語大学を想像してみてください。つまり1873年(明治6年)の建学の年から150年目となる、いまから10年後の本学の姿です。OB?OGの皆様からの篤い財政的支援と人的支援に支えられて、「地球社会化時代における教育研究の拠点大学」つまりグローバル?ユニヴァーシティーとなり、このグローバルキャンパスで日本人学生と世界各地からの留学生が、ともに学び合い、切磋琢磨しているでしょう。私たち教職員もがんばりますが、卒業される皆さんが母校を末永く支援してくださることを心より希望いたします。
以上、皆さんのご活躍を祈念して、学長の式辞とさせていただきます。
2014年3月26日 国立大学法人 東京外国語大学長 立石博高