トップ  »  新着情報  »  2012年7月 月次レポート(桑山佳子 スイス)

2012年7月 月次レポート(桑山佳子 スイス)

短期派遣EUROPA月次レポート
2012年7月

博士後期課程 桑山佳子
派遣先:スイス?チューリッヒ大学

 7月は、これまでの成果をふまえて、執筆予定の博士論文の全体の方向性の見直しを行った。
 3月末からこれまで、現地指導教員のダニエラ?タン先生との面談では、報告者の研究対象である多和田葉子の博士論文?Spielzeug und Sprachmagie"について議論してきた。面談では、論理の流れをほぼ章ごとに細かく区切って確認し、論点を見つけて話し合うという形で、比較的細かくテクストに即した丁寧な読解を行ってきた。報告者の読解が、自分の解釈を先にテクストに求めてしまうやや先走りがちなものだということもあり、テクストについての議論ではそこまで流れを定めず、自由に考えたことをとにかく口に出すよう励まされてきた。このため、議論の内容自体は集中した緻密なものだったが、どちらかといえば形にこだわらない、緩い方向性のものだったといえる。今月の面談では、細かい章に分けてではなく、テクスト全体を通した流れを振り返り、これまでの先生との議論の内容をある程度まとまった形で見直したうえで、報告者自身の博士論文との関わり方について話し合った。このことで、何度も繰り返し立ち戻ってきた言語と翻訳、Sprachmagieについて、報告者が完全に理解し納得するまで先生と話し合うことができた。
 このタン先生とのまとめ作業と並行して、博士論文の構成を再度見直し、章ごとの内容と多和田葉子の各作品との関わりを大まかながら形にする作業を行った。拡散しがちだった論点が少しまとまったものになり、考察と調査が足りていない部分がより明らかになってきた。修士論文でもトランスレーション?スタディーズの文献はいくつか扱ったが、日本語と英語で書かれた記述的な研究のものが中心だった。博士論文ではこの方向性も引き継ぎつつ若干理論的なアプローチのものを扱いたいと考えていたが、報告者の興味が言語、特に文字と音に向かっており、こちらの方向がおろそかになりつつあった。来月以降は、引き続き多和田葉子のテクスト読解を進めつつ、トランスレーション?スタディーズの理論的な方向性を補強するよう努めたい。
 8月にはタン先生が夏休みに入るため、次回の面談は9月になる。先生からは紹介していただいたテクスト(Walter Benjamin "Spielzeug und Spielen Randbemerkungen zu einem Monumentalwerk", "Rastelli erz?hlt...")と来学期からの方針について考えておくように、とご指示をいただいている。報告者自身の来月の予定としては、投稿予定の雑誌論文の執筆を開始する。また、8月28日からの3日間、ドイツ語圏日本研究者会議(Gesellschaft für Japanforschung)のイベントDer Japanologentagがチューリッヒ大学で開催される(http://www.zuerich.japanologentag.org/)。このイベントでは文学や政治、経済など、日本に関わる研究発表がなされる予定で、来月はこのことについてもご紹介できればと考えている。

このページの先頭へ