2012年6月 月次レポート(柏崎正憲 ドイツ)
東京外国語大学 短期派遣EUROPA 月次レポート(2012年6月分)
2012.07.01 柏崎正憲
概要
東京外国語大学海外事情研究所紀要『クァドランテ』への論文アプライ。主題は、ユーロ債務危機における国民国家ならびにEUの位置づけと役割について。投稿は9月末。
15-17日には ユーロ圏危機に関する集中セミナーに参加。このセミナーでは詳細な参考文献表が事前に配布されており、最新の研究を知るうえで大いに参考になった。
21日にカナンクラム教授と面談。
成果
国民国家とリージョナル?ブロックとの関係についての詳細な研究の視点を得た。
EUではナショナル?レベルの政治制度の相対化がより一層進んでいる。しかも、リージョナルな諸制度(EU議会、委員会、法廷等)が単に国民国家の上位に設けられている(supra-nationalである)というだけではなく、いくつかの制度については、市民社会がナショナル?レベルの調整や媒介を経ることなくリージョナル?レベルに直接に関わることが可能となっている(とくにEU法廷)。英語やドイツ語の最近の諸研究では、これを「スケールの再編」という概念で捉え、詳細に分析している。この「スケールの再編」をもってEUは、いまだ国民国家間の地域的パートナーシップの範囲内にあるリージョナル?ブロック(ASEANやCELAC:ラテンアメリカ?カリブ諸国共同体等)と質的に区別される。
その一方で、EUのようなより高度なリージョナル?ブロックにおいても、経済レベルにおいてはナショナルな諸利害間の矛盾や対立が根本的に克服されることはない、少なくとも目下されてはいないことは、現在進行中のEU債務危機において明白となっている。EUがドイツや北欧の貿易黒字国における圏内での新重商主義的政策を支える枠組となっていると指摘する研究もあり、国民国家やナショナルな諸枠組はいまだ堅固であると言わざるを得ない。これは、より高度な地域的または国際的統合をつうじて克服すべき障害と見るよりも、いわゆるグローバル化やその文脈の内部で語られる近年のリージョン化における構造的限界として見るべきだと思われる。
派遣先大学(マールブルク大学?ドイツ)との連絡状況
指導教員のジョン?カナンクラムとの今回の会合では、グローバル金融市場と国民国家との関係についての諸研究の要約を事前に提出し、討論した。基本的なアプローチについては教授の賛同を得たうえで、いくつかの読解の誤りや不十分さについてのご指摘をいただいた。来月は26日に会合の予定。