2010年11月 月次レポート(藤井欣子 オーストリア)
短期派遣EUROPA月次レポート(11月)
藤井欣子
派遣先:グラーツ大学現代史研究所
受け入れ責任者:Helmut Konrad教授
グラーツ大学現代史研究所にて博士論文執筆準備のため在外研究を行っております、藤井と申します。私の博士論文のテーマは「世紀転換期ハプスブルク帝国言語境界地域における自由主義運動とドイツ国民化」です。当時、「言語境界地域」と呼ばれていたシュタイアーマルク(首都グラーツ)には、ドイツ系住民とスロヴェニア系住民が混住していました。このシュタイアーマルクで、自由主義を標榜しながらドイツ系住民の国民化を推し進めていた諸協会の活動に注目し、それらが地域の利害をいかに政治的に利用していたのか、また活動の成果が地域にいかにフィードバックされていったのかという点を明らかにしていきたいと思います。具体的な方法としては、シュタイアーマルクを主な舞台として活動を行っていた3つの協会団体(スートマルク協会、キリスト教農民同盟、マールブルク周辺地域農民協会)の活動を比較?検討します。これらの協会は、都市部、農村部、言語島(スロヴェニア系が人口の9割を超え、ドイツ系住民が少数派となっている地域)と、それぞれ異なる条件の下で活動していました。今回の派遣では特に、三番目の「マールブルク周辺地域農民協会」関連の史料を収集?分析することを目的としています。このため、2010年11月から2011年3月末までの5ヶ月間、地方の新聞や知事宛の報告書、協会の活動報告などを収集していく予定です。
私は11月2日にグラーツに到着しました。翌3日にさっそくグラーツ大学キャンパスから徒歩5分ほどの場所にある現代史研究所を訪ね、指導教官であるコンラート教授と面談しました。この日はドイツ語のレジュメをみせながら口頭で研究内容を説明するという簡単なものでしたが、その後コンラート先生の論文指導ゼミで報告することになり、先日24日に無事に報告を終えることができました。ちなみに、ゼミの出席者は毎回平均12~3名ほどで、8割方が修士論文執筆予定者のようです。毎週水曜日に行われるこのゼミに、私も毎回出席することになりました。私が報告したときは「シュタイアーマルクに存在した『右でも左でもない』協会の活動を、いかに自由主義として分析するか」という難しい問題に対して、活発な議論がなされました。シュタイアーマルクに実際に居住している教授や学生たちから実感のこもったアドバイスや意見を聞くことができ、大変貴重な体験となったと思います。このテーマに関して、また帰国前に一度このゼミで報告をする予定です。
11月の半ばはこの報告準備に忙しかったのですが、ようやく落ち着いてきた現在では、シュタイアーマルク州立文書館とグラーツ大学の各図書館(総合図書館、法学社会学図書館およびメディア図書館、歴史学図書館)にて史料収集を行っています。文書館では、知事に宛てた書簡という手書きの史料を読むのに苦労しているところです。一方、大学関係の図書館では学生証がないと借り出しとコピーができないため、少々不便を感じています。ただし、各館に1台ずつ巨大なスキャナーがあるため、コピー機のかわりにそれを使用しています。文書館?図書館における史料収集の詳細につきましては、また来月以降ご報告いたします。