2010年10月 月次レポート(松澤水戸 スイス)
短期派遣EUROPA月次レポート(10月)
松澤水戸
派遣先:ジュネーヴ大学(以下、UNIGE)文学部内、ELCF(?cole de langue et de civilisation fran?aises)
受け入れ責任者:Laurent Gajo教授(Directeur de l'ELCF)
10月
9月から引き続き、Luscher教授、Gajo教授、Racine教授の授業を受講しました。Luscher教授の授業では、日本語の「誤りを犯す」という強い表現では表しきれない非常に微妙な次元のエラー、文法的には不適切とも判定しうるが、文脈的には許容しうるエラーは、フランス語母語話者や上級学習者といったフランス語熟練者にさえ起きるもので、そこには結局、ことばの意味が関わっていることを確認しました。
例1 La fermière a vendu la vache parce qu'elle était malade.
代名詞elleがfermièreのことなのか、vacheのことなのか、この文章だけでは判断できないので、以下の2つの解釈が可能となりあいまいである。
解釈1:農婦は病気だったので雌牛を売った。
解釈2:農婦は雌牛が病気だったので売った。
例2 La plupart des planches d'ébène sont blanches.
和訳:大部分の黒檀の板は白い(黒檀が白いのは単なる冗談だそうです)。
主語plupartは女性単数形なので、sont blanches部分はest blancheと単数形にするほうが文法的というか純正語法主義的には正確であるが、その意味が「大部分の~」であるため、複数形を用いることに抵抗がないフランス語話者が存在する。
これに関して、小学館ロベール仏和大辞典には以下のような言及がありました。
「la plupart des + 複数名詞」を主語として用いる場合、動詞は複数形にする
「la plupart de + 定冠詞 + 単数名詞」を主語として用いる場合、動詞は単数形にする
また、授業中、pomme de terreは何語か、motの定義とは、という話になったのですが、わりとあっさりと「それは誰にもわからない」ということになりました。
Gajo教授の授業では、録画された小学校の授業風景と文字化された授業内容を例に、生徒たちの発話に対する教師の受け答えを観察しました。文字化データだけではつかみにくい話者たちの様子、話し方といったものが映像から読み取ることができました。コーパスを世界中の研究者が共有するためには、タグの付け方を世界中で統一するほうが効率的であるという考え方もありますが、世界の多様性を尊重して、タグを「翻訳」できるようにするという手段もあります。
Racine教授の授業では、学生たちは個々に発音?発話の練習項目を選び、自分のペースで進めていきます。教師は全学生の練習を聞くことができるので、学生側から質問がない場合でも、適宜、助言を与えるのですが、1人の教師で1時間の授業のため、多くの学生が参加すると大変そうなのですが、Racine教授は見事な采配で時機を逸することなく学生たちに助言を与えていきます。
22日の閉幕式までの期間、フランス語圏サミットの催しものを見て回りました。学術研究にかぎらず、経済、教育といったさまざまな分野に関する多くの発表がありましたが、発表者であるフランス語圏人たちは、世界の「画一化への旗手」である強大な英語圏に対抗する「多様性の砦」としてのフランス語圏を守るためには、フランス語圏の地理的規模を現状維持しつつ、圏内ではさまざまな分野にわたってさらなる発展が必要であり、その要が名実ともにまさにフランス語であると考えて活動しているようです。今年のサミットの主要開催地であるMontreuxには、フランス語圏を構成する世界中の国?地域ごとに紹介展示が行われ、万国博覧会の様相でした。同地に多くの見物客が訪れていることがテレビでも放送されました。しかし、この国際的な一種の祭も、フランス語圏を構成するほとんどの国?地域がフランスの旧植民地および現領土であるというその生い立ちを考えると単純に楽しめるものではありませんでした。例えば、サミット主催者たちの用意したパンフレットでは、フランス語圏に属するフランスの旧植民地のセネガルにおけるフランス語普及率は35%未満となっています。ここで、セネガルがより発展するためにフランス語を普及させる必要が本当にあるのでしょうか。セネガルにはすでに普及率90%以上の公用語があります。また、仮にセネガルの経済が今でもフランスの経済に依存しているとしても、セネガル人がみなフランスに依存しきった生活をしているわけではありません。フランスの文化習慣を拒絶するセネガル人もいます。たとえセネガル政府主動であったとしても、フランス語の学習が強制されるようなことになれば、それは多様性を否定することになるのではないでしょうか。発展とは何を指すのか考える必要もあるでしょう。
10月31日(日)の午前3時をもって夏時間から冬時間に移行し、時計を1時間遅らせました。
研究協力
スペイン語母語話者用Moodleの準備に予想以上の時間がかかり、ノルウェー語母語話者用Moodleの準備が追いついてきました。UNIGEのFran?oise Zay教授(専門はフランス語の統辞と韻律)もMoodleを研究に利用することになりました。
11月の予定
12月8~11日にパリで開催されるPFCおよびIPFCの学会に出席することになったため、その準備をします。
5日にGajo教授のアシスタントの博士論文審査があるので、それを見学します。