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2013年1月 月次レポート(新谷崇 イタリア)

月次レポート 2013年1月
新谷崇(博士後期課程)
派遣先:ピサ高等師範学校(イタリア)

 今月前半は、図書館と文書館が冬期休暇だったため、博士論文の執筆に専念した。課題として、近現代イタリアの教区司祭の経済状態や社会的地位について取り組んだ。ファシズム期に多くの教区司祭が政府の農業プロパガンダに参加したことを、博士論文のテーマとして扱っている。このテーマを考えるうえで、教区司祭が政府に協力した動機を経済面から明らかにすることは無意味ではない。
 史料としては、司祭の経済利益を保護するための団体Federazione tra le Associazioni del Clero in Italia (FACI)の月刊誌Amico del Cleroを用いた。FACIは、イタリアで司祭関係の協会を統一する初の団体として、1917年に誕生した。その機関紙であるAmico del Cleroは、内部向けの会報を月刊誌化する形で1925年に創刊された。その際に紙数も大幅に増加され、聖職者の仕事や生活に関わる法律、経済、司牧の情報を具体的に伝える媒体となった。FACIは、もちろん現在も存続し、Amico del Cleroも刊行されている。
 この史料については、これまでの派遣期間中に、ローマのサレジオ大学図書館(Universita Pontificia Salesiana)、ミラノのサクロ?クオーレ?カトリック大学図書館(Universita Cattolica del Sacro Cuore)、フィレンツェの国立中央図書館(Biblioteca Nazionale Centrale di Firenze)、ジェノバ大司教区の神学校図書館(Seminario Arcivescovile di Genova)で調査をし、収集した。
 L'Amico del Cleroの誌面を分析することで、ファシズム政府のプロパガンダに協力する際に、FACIがつねに下位聖職者たちの経済的利益の保護を取引材料にしていたことを確認できた。FACIは、穀物の自給率向上を目的としたファシズム政府の農業政策「小麦戦争 (Battaglia del Grano)」に1925年から協力し、ムッソリーニが逮捕される1943年まで続けた。しかし、その間、聖職者への課税や聖職者への国家給与削減の問題が持ち上がるたびに、小麦戦争への非協力をたてに政府側から譲歩を引き出そうとした。20世紀前半のイタリアの下位聖職者が抱えていた貧困問題、農業を中心とした伝統的な司牧の再構築を試みようとするカトリック側の意図、イタリア社会の隅々にまでいた教区司祭を利用して農民を動員しようとしたファシズムの農業政策の絡み合いについて考察し、約40ページの論文にまとめることができた。この成果を、博士論文の一部にするだけでなく、機会があれば学術雑誌に投稿したいと考えている。派遣先の受け入れ教員であるメノッツィ先生に提出し、アドヴァイスをもらう予定である。

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