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2012年8月 月次レポート(フィオレッティ?アンドレア イタリア)

月例レポート
(2012年8 月、博士後期課程 フィオレッティ?アンドレア)(派遣先:ローマ大学、イタリア)

 翌月に帰国を控えた8月は、引っ越し作業などをして、その大半を過ごすことになった。イタリア滞在中に博士論文で用いる資料を集めてきた。そのすべてを持ち帰るには多すぎるので、何回かに分けて郵送しなければならなかった。そして、帰国後の東京での住まいも探さねばならなかった。インターネットを通じて不動産屋と連絡を取り始めたものの、東京に到着する前に住居を見つけるのは難しかった。後期の授業が始まる10月までには引っ越し作業を終え、日本での研究活動を再開したいと思っている。
 ローマ大学側の指導教員であるマストランジェロ先生からは、帰国後も継続して、指導を受けるつもりである。博士論文中の章やその一節ができ次第、先生に送ることにした。そうすることで、本学指導教員である和田先生と同時進行で、研究の状況を確認してもらえるであろう。また、マストランジェロ先生は10月下旬に研究の用事で来日するので、その機会も活かし、論文執筆の打ち合わせをおこなう予定である。
 ヒルデスハイム大学(ドイツ)で11月におこなう発表を用意している。その論点が徐々にしぼれてきた。仮の発表タイトルは「近代小説における発言の書き方」という抽象的なものにしたが、博士論文で論じる予定のテーマを紹介することにした。それは近代小説における直接話法と引用符の使い方である。シンポジウムの共通テーマが「鏡像としての文化」なので、西洋文学と日本文学とを比較?照射し合うことで、近代の物語における直接話法と引用符の技術的側面を紹介できればと思っている。
 ヒルデスハイムでの報告は、博士論文の中でより広い文脈に挿入したいと思う。とりわけ作者と読者との関係という問題について論じたい。直接話法を括るために引用符が使用され始めた時代に作者と読者の関係がどのように変化したのかに関心がある。直接話法は幻覚のような作用を生み出すのではないかとみている。小説の中で直接話法が、存在しない声をある登場人物に発せさせ、読者に聞こえうる声に見せかけるという幻覚を作り出すと考えている。それにしても、なぜ十八世紀後半に、この幻覚的な声を排除し、閉鎖された空間に閉じ込めることになったのだろうか。それは、十八世紀(日本の場合には十九世紀後半)という音読から黙読への展開が生じた時代に小説の書き方がどのように変化してきたか、という問題と併せて考えるべきだと思う。引用符もまた、この展開によって生じたものとして考えられはしないか。
 来月以降は、イタリアで集めた資料を整理しながら、以上の問題を深めていきたいと思う。そうすることで、博士論文の構想を立て、論文の中で引用する資料を的確に定めることにつながればと思っている。

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