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2012年6月 月次レポート(桑山佳子 スイス)

短期派遣EUROPA月次レポート
2012年6月

博士後期課程 桑山佳子
派遣先:スイス?チューリッヒ大学

 6月には8、9日の日程でハンブルク大学のアジア?アフリカ研究所日本学科で行われた日本古典文学研究のワークショップ 「翻訳("Vom Ubersetzen")」に参加し、発表をさせていただいた。
 このワークショップは、日本古典文学を研究するドイツ語圏の学者たちが年に一度、その都度テーマを設定し開催しているものである。報告者の研究対象が現代の作家であるにもかかわらず今回発表の機会を得たきっかけは、報告者の研究テーマを知ったチューリッヒ大学の先生方から、今回は翻訳をテーマにしたワークショップであり、自分の研究をプレッシャーの少ない雰囲気の中で専門家に紹介するよい機会ではないかとお誘いいただいたことである。
 ワークショップでは、ドイツ語圏の日本古典文学の研究者が集まり、二日間で報告者を含め10名ほどが報告を行った。主催者であるハンブルク大学を中心に、報告者の派遣先であるチューリッヒ大学など各地から研究者が参加していた。古典の翻訳の実践に際して例を挙げながら、能や現代語訳など個々の具体的な場面で直面する問題を扱ったもの、翻訳の概念そのものを問題にした報告など、翻訳の実践と理論の両面にわたる内容が扱われ、砕けた雰囲気の中で長時間白熱した議論が展開された。
 筆者の報告では多和田葉子の詩Die Flucht des Mondesの三つのバージョンを扱った。日本語で書かれた詩「月の逃走」、このドイツ語訳"Die Flucht des Mondes"、ドイツ語と日本語両方の文字を混合させて書かれた翻案"Die逃走des月s"を題材に、この三つ目の翻案で翻訳において行われる言葉遊びを論じた。
 今回は比較的直前になってから参加が決まったこともあり、綿密に細部まで詰めた準備ができていなかった。この点は反省しているが、多和田の詩自体の魅力にも大いに助けられ、ワークショップでは概ね好意的に受け入れていただけたと感じた。また、この発表の準備のために、友人たちと議論を重ね、指導教員のタン先生との日ごろからの文献読解を通じてあたためてきたアイディアの断片を作品に即して具体的に整理し、ある程度形にすることができた。
 7月は、引き続き文献の読解を進めるとともに、博士論文の構成を少しずつ詰めていく予定である。また、今回のハンブルクでの発表をもとに論文を執筆する予定が控えているので、こちらも徐々に進めていきたい。

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