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2012年4月 月次レポート(廣田郷士 フランス)

短期派遣EUROPA月次レポート(4月)

廣田郷士(博士前期課程)

 3月は麗らかな陽気の続いたパリですが、4月に入ると再び寒さが逆戻りし、曇りがちな毎日でした。気候の激しい変化から4月は体調を崩す日が続き、研究に多少ブレーキがかかってしまいました。
 今月も引き続き、「全-世界学院」のセミナーに参加しました。今月はパリ第3大学からフランコフォニー文学が専門のエマニュエル?レコイン氏(Emanuelle Recoing)、またルイジアナ州立大学よりアレクサンドル?ルーパン氏(Alexendre Leupin)などが発表者として講演し、その講演を聴くことができました。
 加えて今月より、パリ第8大学にて、フランソワーズ?ズィマゾチ=ブロネス教授(Francoise Simasotchi-Brones)によるフランコフォニー文学の授業を聴講し始めました。ズィマゾチ=ブロネス教授は特にフランス語圏アフリカ?カリブ地域の文学、ポスト?コロニアル理論などを専門とされていますが、この講義では、フランコフォニーの地域ごとまた作家ごとによってフランス語がどのような形で受容され、創作の言語となっているのかについて、テクストに照らし合わせながら広くフランコフォニー全般に渡って扱われています。一口にフランコフォニーとはいっても、講義では中東やインドにまで話が及び、報告者の研究にとっては関心の共有点ではありながらも未知の領域で、この講義は今後の研究の幅を拡げる上でも重要な機会となりました。特に、報告者の研究する作家グリッサンの生まれ育ったカリブ地域と同様に、広く民衆言語としてクレオール語の話されているレユニオン島のフランス語文学に関しては、強く興味を引かれました。クレオール語、ないしはクレオール性を押し出す文学運動としては、ジャン?ベルナベ、パトリック?シャモワゾー、ラファエル?コンフィアンらマルチニック島出身の3名による文学的マニフェスト『クレオール性礼賛』(Eloge de la Creolite, Gallimard,1989)が日本でも紹介されましたが、(平たく言えば)多言語?多文化の共生と相互浸透をクレオールと同様の文学運動が、すでに70年代後半のレユニオン島で、ラ?クレオリ(La Creolie)の概念のもとで打ち立てられていたようです。具体的には詩人ジャン?アルバニ(Jean Albany)、ジルベール?オブリ(Gilbert Aubry)などの名が挙りましたが、レユニオン島出身者の文学は、まだ殆ど日本には紹介されていないと思われます。今後、カリブ地域の文学運動との関連を考える上でも、レユニオン島出身者の文学はこれから開拓されるべき領域であるように思われます。
 
 また今月は友人とパリ7区にあるケ?ブランリ美術館にて、「野生の発明」展(l'Invention des Sauvages)を見学してきました。この展示会は西欧が非西欧世界をどのような表象のもとで眺めてきたか、コロンブスによる新大陸の発見から19?20世紀の植民地博覧会に至るまで、500年間に渡る歴史にまつわる展示会です。
 非西欧世界への眼差しについては、19世紀になると、自然科学と技術の発展(特に写真の発展)によって科学的言説が人種主義的言説を後押しし、諸人種間のヒエラルキーが「科学」という装いをまとうことになります。この「科学的言説」という問題は西欧世界の植民地主義に限らず、今日的な意味でも考えるべき意義を失っていないように感じました。つまり「科学」という言説がなぜ可能になるのか、またそこにいかなる功罪があるのか。破局的事故を招きながら、なおも原子力の発展という「科学的言説」が蔓延る日本において、この問題はなお突き詰めるべき問いであると、展示を眺めながら考えしまいました。
 また、1931年のパリ植民地博覧会前後の時期の、非西欧世界にまつわる「エキゾチック」な表象の歴史はとりわけ圧巻でした。1920年代から30年代にかけて、パリでは一種の「植民地ブーム」が起き、植民地の人間を集めたショー(その最たる例が、アンドレ?ブルトンの作品やアンリ?ルソーの絵画のタイトルにもなった「蛇使い女」)が開かれ、エキゾチスムが様々に演出された時代でした。黒人文学史を語る上で決定的に重要なネグリチュード運動が生まれたのも30年代のパリであり、そこは植民地ブーム、さらには精神分析やシュルレアリスムといった独特の空気が広がる時代?空間だったことに、この展示を通じて改めて気づかされました。また、ネグリチュードを生み出した時代背景と、エドゥアール?グリッサンの創作活動の時代背景との違い、そこから生まれてくる両者の世界観の隔たりについては、ブアタ?B?マレタの研究書『パリにおけるアフロ?カリビアン作家達』(Buata B.Maleta, Les ecrivains afro-antillais a Paris, Karthala, 2008)に詳しく描かれています。
 5月には奴隷解放の記念日が控えていることもあり、パリでもそれに関する幾つかの催しが予定されております。奴隷制の過去に深くコミットしてきたグリッサンの作品を読み直しながら、来月はグリッサンの想像界と奴隷制の過去との関連について、腰を据えて考えてみたいと思っております。

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