2011年12月 月次レポート(堀口大樹 ラトヴィア)
12月報告書 堀口大樹
今月の最大の目標は、12月1日と2日に地方都市リエパーヤのリエパーヤ大学で行われた学会「語とその研究の諸側面」での研究発表であった。この学会は毎年同じ時期に行われる、国内で最も規模の大きい言語学の学会である。派遣者は昨年に続き2度目の参加であった。発表内容が博士論文の最終章になるため、非常に重要であった。
発表のテーマは「言い直しにおける接頭辞動詞」であり、話者が言葉や表現を言い直す際に、接頭辞動詞が用いられている用例を分析した。題材はインターネット上で視聴、ダウンロードが可能な国営ラジオのとある番組である。2010年の春より用例の収集を始めていた。これまで約150回分の番組をすでに日本で視聴していたため、ラトヴィアではその用例の分析に集中することができた。
「言い直し」はどんな言語にも観察できるが、書かれた言語よりも話された言語に特有の現象である。歴史的に、ラトヴィア語はラトヴィア人のアイデンティティと強く結びついてきた。ラトヴィア語学では「標準語とはなにか」や「正しい言葉使いとはどうあるべきか」といった議論が盛んであるが、それゆえに言語内の変化や、誤りの分析はあまり行われていなかったと言える。「言い直し」の現象には発音や文法的な間違い、言いよどみなどもあり、「正しく美しい言葉づかい」とは程遠いため、これまで"単なる間違い"の一蹴りで済まされてしまいがちだった現象を研究対象にすることは大きな賭けであった。
発表時間は15分、質疑応答は5分であった。質疑応答では、「話者の思考プロセスが言い直しの現象に現れていて興味深い」という肯定的コメントをいただいた。また現地の指導教官から内容についての質問が一つ出たが、すでに日本語で執筆中の論文で分析結果を得ていた(が単に発表では言及しなかった)ため、うまく答えられたように思う。発表後は、話し言葉を専門としている研究者に、方法論の点で意見交換やアドバイスを個別に乞うことができた。
この学会の発表後は、11月の一時帰国中に本学教官らから頂いたコメントを考慮に入れ、日本語で執筆している博士論文の総見直しを本格的に始めた。個別の論文を一つの流れの中に置くことが大事であるが、矛盾がないかどうかを再確認しなければいけないため、緊張する作業である。今月は、博士論文の構成を若干修正するとともに、博士論文の議論の元となる章を見直し、それを現地教官のためにラトヴィア語にまとめ直した。その要約をもとに個別に2時間ほど時間を割いて頂き、意見を乞うことができた。
来月で派遣期間は終了し、2月初旬の日本へ帰国するが、1月は授業がないため、日本語での論文執筆と並行して、現地教官との議論のために章ごとにラトヴィア語にまとめ直す作業に集中する。幸いなことに、現地教官も派遣者の研究内容に興味を示してくれており、来月少なくともあと2度は個別に時間を割いてもらえる予定だ。日本語で書いたものをラトヴィア語に要約し直すプロセスは、論理展開の見直しや、問題意識の明確化、意見を求めたい点の整理に役立っている。