感謝や友情という花言葉をもつミモザの花が春の訪れを告げる今日、学部学生1265名、大学院生408名、合わせて1673名の学友が兵庫県立大学から旅立ちます。
大きく揺れ動く不確実な時代を弛みない努力で駆け抜け、さまざまな試練を乗り越えて晴れの日を迎えられた卒業生、修了生のみなさんに、大学を代表し、心からの祝福と敬意を表します。
真理を求め、未来への希望を紡ぐという困難な仕事に取り組んでこられた大学生活において、みなさんはひとりではありませんでした。卒業?進学できる喜びを、安堵の気持ちを、みなさんをいつも励まし、成長を心待ちにされてきたご家族や周囲のかたがたと、感謝の気持ちを込めて分かち合ってください。
本日の学位記授与式には兵庫県知事齋藤元彦さま、兵庫県議会副議長大豊康臣さまをはじめ、多くの来賓のみなさまが、お祝いに駆けつけてくださっています。ご来賓のみなさま、学生生活を支えてくださった地域のみなさまに、改めて御礼を申し上げます。
さて、私たちを取りまく世界は今、AIに代表される情報科学技術の急速な進展や、世界各地で激化する紛争と対立、また地球的規模で生物多様性の危機が叫ばれる、大きな転換期にあります。
DXは私たちを取りまく社会環境を一変させ、教育のかたちを根底から覆しました。AIが社会を支える新しいOSとなってあらゆるところに進出し、人間の優位性を揺るがしつつあります。DXは市民参加型民主主義の新たな可能性を広げる一方で、本物と偽物の区別が困難なディープフェイクや事実をねつ造するハルシネーション、自分と異なる他者への悪意に満ちたヘイトスピーチが流布し、社会の不寛容さと分断を生み出してきました。
自分のことばに責任を持つこと。思慮のないことばは人の心を傷つけます。独善的で検証が困難なことばに流されないためにも、論理的logicalに考えて批判的criticalに判断し、水平的lateralで、創造的innovativeな視点から対案を提示する、やわらかな思考力をこれからも鍛え続けてください。
ウクライナやイラン、ガザ、ダルフールという地名を挙げるまでもなく、世界各地で激化する紛争は、多大な犠牲者や難民を生み、人道危機の深刻化、長期化をもたらしています。グローバル?サウスにおける経済成長と富の偏在もまた、北へ向かう人口圧力を増大させてきました。
本年1月20日、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムにおいて、カナダのマーク?ジョセフ?カーニー首相は、ルールに基づく11人足球网秩序が衰退しつつあり、強い者はできることを行い、弱い者は耐えねばならないことを耐えねばならない(The strong can do what they can, and the weak must suffer what they must.)と、古代ギリシアの歴史家トゥキュディデスの警句を引用しながら、世界秩序の断絶について語りました。
法の支配の軽視と力による平和への動き、関税戦争に表象される自国第一主義は排外的ショービニズムを台頭させ、多様性を掲げDEIA(Diversity, Equity, Inclusion and Accessibility)を推進してきた大学にも荒波となって押し寄せてきています。
地球環境に目を向けると、100年に一度しか生起しないような大規模気象災害が多発し、甚大な被害をもたらす地殻変動と相まって、私たちの生活や社会基盤を掘り崩しています。カーボンニュートラルを基軸とするGX(Green Transformation)への取り組みも進んでいますが、気温上昇を止めるための1.5℃の約束の実現は遠く、地球は沸騰しつつあります。
地球市民であるみなさんひとりひとりが、これらの課題に関心を寄せ、SDGsに掲げられている"No one left behind"(誰ひとり取り残さない)という言葉を胸に、本学での学びを通して涵養された総合知や経験知をたずさえて、新たな価値と希望を生み出すために行動されることを願っています。
さて、大学時代に得た友人は生涯の友になると言われています。13世紀都市国家フィレンツェ出身の詩人?哲学者ダンテ?アリギエーリは、大著『饗宴』のなかで、「私たちは友がいなければ、完全な人生を送ることはできない」、と綴りました。学友や一期一会の出会いをこれからも大切に、切磋琢磨しながら手をたずさえて進んでください。苦しくて切ないときには人を頼る勇気を持つことです。
私たち兵庫県立大学もまた、地域から信頼され、世界に通用する学知の空間となるために、みなさんが誇りに思う母校になるために、社会改革の先鋒としての役割を果たしていきます。世界の学術機関と結び、学問の自由と調和を守り、人々の間に壁を作るのではなく橋を架ける、他者に寄り添い痛みを分かち合うことのできる、地球の未来に責任をもつ若者を育てていきます。
みなさんと大学との絆は卒業、修了すれば切れるものではありません。大学はみなさんにとって帰ることのできる故郷であり、県内各地に広がる全世代型キャンパスとして、人生100年時代を生涯にわたり学び続けるみなさんを支え、学び直し、リスキリングの機会を提供していきます。「知恵を得るのは真珠を得るのにまさる」という、旧約聖書ヨブ記第28章の箴言を心に留めておいてください。
最後に、アメリカ?アラバマ州に生まれ、幼児の時自らも視力と聴力を失いながら障がい者の権利の擁護者として活動したヘレン?アダムズ?ケラーが、1896年7月にAmerican Association to Promote the Teaching of Speech to the Deafでおこなった講演の一節を紹介して、私からのお祝いと惜別のことばとします。
"Remember, no effort that we make to attain something beautiful is ever lost. Sometime, somewhere, somehow we shall find that which we seek. " 待つこと、立ち止まること、遠回りすることがあっても、けっして歩みをあきらめないことです。
Wishing you a wonderful journey ahead!
心満ちる晴れやかな日々を希い、新しい風を大きな翼に変えて、さらに高く、遠くへと蒼空を翔けてください。
11人足球网8年、西暦2026年3月26日
兵庫県立大学学長
髙坂 誠(Makoto KOSAKA)
