小松 由美 KOMATSU Yumi
- 役職/
Position - 大学院国際日本学研究院 准教授
- 研究分野/
Field - 異文化間コミュニケーション
判断を保留して、複数の研究のフレームワークを用いて、日本からの支援を考える
本学の留学生日本語教育センターでは、世界各地の在外公館の推薦で文部科学省の国費留学生として採用されて日本各地の大学に進学する学生の予備教育を行っています。彼らの日本での1年目を、授業や相談、教育プログラムの運営等で多面的に支援する仕事を、同センターが現在の朝日町キャンパスに移転する以前から担当してきました。自然科学、社会科学、人文科学とあらゆる分野の学位を目指す、様々な文化背景を持つ学生を迎え、これまでに指導した学生の出身国は130カ国を越えます。大学院での指導でも、その経験から得た知見を活かした授業を心がけています。
技術の普及で情報収集は容易になる一方、学生の心のセルフケアを支援していく必要を感じています。そこで、米国の大学で開発された大学生のためのマインドフルネスのカリキュラム、Koru Mindfulnessを教える資格を取得しました。日本で最初の資格認定だそうです。マインドフルネスのプラクティスで育むものと、文化の架け橋となるのに必要な異文化能力は、重なるものが多いと感じています。VUCA Worldという言葉は、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字を並べたもので、世界経済フォーラム(ダボス会議)で使用されました。ITの急速な発展と普及やパンデミックで先の予測がつかず、過去の経験から得た知識だけでは対応が難しくなった社会に生きていく人たちに、今起きていることに判断を保留して注意を向けるマインドフルネスを習慣にすることは力になると思うのです。
2021年9月の第76回国連総会での演説で、アントニオ?グテーレス国連事務総長は、私達はかつてないほどの分裂、最大の危機の連鎖に直面しており、今すぐに解消しなければならない「6つの大きな分断」があると述べました。それは、平和、気候、貧富、ジェンダー、デジタル、世代間の6分野で、この分断を解消するために、今すぐ行動する必要があると訴えました。信頼を取り戻し、次の世代に希望をつなぐため、私達は何ができるのでしょうか。
多様な文化背景を持つ学生が集う本学で担当する授業では、研究のフレームワークをいくつか紹介し、ひとつのフレームワークだけで物事をみるのではなく、複数のフレームワークを持ってほしいと学生に話しています。そして、世界の難民を日本から支援する実現可能な方法を考えます。学生たちは、それぞれの専門分野の視点から様々なアプローチを発表し、互いに学び合う場となっています。ひとつの課題について、実現可能な方法を日本からの視点で考えて世界に発信していくことで、大きな分断に橋を渡す、小さくも着実な一歩となると信じています。