荒川 洋平 ARAKAWA Yohey
- 役職/
Position - 大学院国際日本学研究院 教授
- 研究分野/
Field - 認知言語学、国際言語管理
通じる日本語=「つう日」でグローバル化をあらためて考える
「もしも...あなたが外国人と『日本語で話す』としたら」――これは私が2010年に出した本のタイトルですが、現在の研究内容はほぼこの言葉に集約できます。「国際言語管理」というのが、主な研究領域になります。
あなたが日本語で誰かと話をする時、初対面や目上の人には敬語で、友達や家族にはくだけた言葉を使うでしょう。では相手が外国人だったらどうでしょう? センテンスを短くしたり、ゆっくり話したりするのではないでしょうか。実はこの「外国人にわかりやすい日本語」のスキルやノウハウを一番持っているのが日本語教師です。私自身も20年以上日本語教師をしてきましたから、その内容を理論化?体系化して、日本人向けのテキストのような形にできないかと考えています。
日本を訪れる海外の観光客が増え、さらには20年の東京五輪開催に向けて、英語を話せるようになろうという機運が高まっています。もちろん、そのこと自体を否定するつもりはありませんが、一方で外国人にもわかりやすい日本語でコミュニケーションをとる、というのも国際化に向けた一つの態度ではないでしょうか。そこで、外国人にも"通じる日本語"、これを「つう日」というコンセプトにして、研究者だけでなく、広告代理店やメディアの方なども巻き込んで取り組みを進めています。
人間の認知基盤というものは、言語に関係なくある程度共通性を持っています。例えば「前?後ろ」という言葉は単に方向性を指し示すだけでなく、「未来?過去」という言葉とも関連しています。非常に大雑把に言えば、人間の身体基盤は基本的に共通であり、言語として出てくる音と意味の抱き合わせ、つまりシンボルの体系が違うだけ、と見ることもできます。これは私のもう一つの研究分野、認知言語学の考え方なのですが、そういった視点も国際言語管理では重要になります。
4月からの博士前期課程では、日本語教育を専攻としていない大学院生に向けた「日本語教育基礎」を担当します。院生の中には今後留学する人も多いはず。現地で「日本語を教えてほしい」と言われる機会もあるでしょう。その時に、英語に頼らずに日本語だけで教えるにはどうすればいいのか。上述した国際言語管理や認知言語学の視点も交えつつ授業を進めていく予定です。
現在世界は大きく変わりつつあります。アジア、アフリカ、さらには南米の国々も存在感を増してくる中で、グローバル化=英語という短絡的な見方は、一見便利なようでいて多様性を損なう、グローバル化とは対極の動きになってしまうように思います。幸い本学には27の専攻語があり、英語もそして日本語もそのワンオブゼムにすぎません。複眼的な視点を持ちながら、外国人に向けた日本語のあり方を考えてみてもらえたらと願っています。