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2013年6月 月次レポート(横田さやか イタリア)

月次レポート 2013年6月 
博士後期課程 横田さやか 
派遣先:イタリア、ボローニャ大学


 6月27日、いよいよ博士論文最終審査の日を迎えた。試験はボローニャ大学芸術学部において実施され、無事に博士号(映画、音楽、演劇学)を授与された。2010年度よりITP-EUROPA派遣のもと、本学との博士論文共同指導協定に即し博士論文の執筆を進めてきたが、遂に目標を達成しこれまでの研究成果をかたちにすることができた。
 今月は、口頭試験に備えるため、先月提出を済ませた博士論文(La danza nel futurismo: Giannina Censi e la danza moderna「未来派のダンス-ジャンニーナ?チェンシとモダン?ダンス-」)の読み直し作業に専念した。まず、博士論文を冒頭から注意深く読み直し各節ごとの要約を作成した。論文執筆作業とは異なり、口述となるとやはり異なる言語能力が求められ、新たな課題に取り組むことになった。たとえ明確な論述を試みても、緊張や不安、ためらいがあると、明らかに話し方にそれが表れてしまう。口述の練習を開始した時点では、落ち着きと自信をもって持論を述べるだけのことが、口答試験の経験の少なさも影響して、とても難しく感じられた。唯一の解決策は、これ以上はないと自分自身の納得がいくまで訓練を繰り返すのみであると考え、主要テーマごとに概略を述べる練習を毎日繰り返し行った。同時に、補助資料としてパワーポイントを作成した。博士論文では、未来派のダンスを考察するために、宣言文を読み解くことと同時に、イメージ資料(絵画、彫刻、写真、デッサン、視覚的マニフェスト等)の読解を試みている。後者の試みを強調するためにも、踊る身体の表象とその変容をめぐるイメージ資料をパワーポイントで示すことは効果的であると考えた。
 最終審査は、まず、報告者の口頭発表から開始された。研究の方法論、博士論文の要約、そして今後の課題を明確に説明するよう心がけた。続いて、本学指導教員和田忠彦教授、ボローニャ大学指導教員エレナ?チェルヴェッラーティ教授、ボローニャ大学元教授エウジェニア?カジーニ=ローパ教授、そして、ローマ?サピエンツァ大学からいらしてくださったシルヴィア?カランディーニ教授の各審査員からたいへん有意義な示唆とご指導があった。コメントをいただくと同時に、質問がなされ、質疑応答のかたちで進められた。
 ボローニャ大学の両教授からは、博士論文執筆作業と並行して、改善すべき問題点をその都度指摘していただいてきた。そのなかで、論文においてより深い考察が期待された点については、今後の課題として、それをどう解決していくのか、口頭発表の際に説明できるよう備えた。
 今後、発展させたい考察点のひとつとして、未来派的踊る身体のその後の発展が興味深いと考えている。未来派のダンスが20世紀後半のモダン?ダンスにどう影響したかを探ることが目的ではない。未来派の時代に予知された踊る身体の可能性は、多極化するモダン?ダンスのなかに具体化されていったのであり、逆からみれば、20世紀後半の多様化するダンスを考察するにあたって、そこへ立ち返る視点が欠けている現状を指摘する試論でもある。この点については、博士論文の最終章で問題提議を試みた。結論を導き出すには至らず、既存の未来派研究、あるいは舞踊研究に対し新たな視点を投げかけるまでだったが、それについて、本学の和田教授からは、非常に重要な示唆をいただいた。モダニズムの概念のなかに未来派を再考察することは、今後研究を発展させていくうえで論理的発展の基盤をなす考察点になるといえる。
 そして、ローマ大学のカランディーニ教授は、テキストへの細やかな指摘から、更なる研究の発展のための助言まで、惜しみなく見解を示してくださった。とくに、報告者の論文が提起する未来派再考察の学術的正当性と更なる可能性を評価してくださったことには、安堵するとともに励ましになった。イタリアの舞踊学界における未来派研究は、一次資料に基づく調査は全てなされたという意味で、前世紀に完結したと考えられている。それに対し、報告者は未研究の資料を詳細に分析し、既存の図式的考察に縛られない論理構築によって、いまなお未来派ダンスを研究することの妥当性を訴えている。反論も招きかねない試みであるが、逆にその点を高く評価していただいたことは、今後の研究のために大きな励ましとなった。
 こうして、質疑応答を終え、いったん退席したのちに、再度入室を指示され、博士号授与が言い渡された瞬間は、喜びや達成感というよりもむしろ、ただただ感謝の念に包まれた。未来派の舞踊という扱い易くはない主題を選んだ報告者の博士論文が受理され、たいへん高い評価をいただくことができたのは、ひとえに両学の指導教員の根気強いご指導のおかげであり、無事にこの日を迎えられたのも、たくさんの方の支えのおかげである。最終試験を終えたならひとつのステップが終わり開放感を味わうものかと想像していたが、実際には、はやく次の課題に取り組み成果を出したいという気負いのようなものが何より強かった。博士論文のなかに生かしきれなかった考察点の更なる研究や、重要性と時間を考慮して今回は参照しなかった一次資料の分析、調査などをすぐにも開始したいという思いだった。博士論文とは、研究生活の最終章ではなく、序章にすぎないことを、希望と期待とともに実感している。
 来月は、次に備えた国際シンポジウムでの研究発表と日本での学会発表のための準備に専念し、同時に、最終試験で各審査員からいただいたご指導を生かすため、気持ちあらたに研究活動を開始したいと思う。
 この場をお借りし、報告者の研究が良い成果を出せるよう支えてくださった指導教員とITP-EUROPA関係者のみなさま、そして学術的により意義深い博士論文が完成することを可能にした本プログラムに、心から感謝申し上げたい。ほんとうに、ありがとうございました。

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