2013年12月 月次レポート(水沼修 ポルトガル)
月次レポート(12月)
水沼 修
今月は,意味論がご専門のRui Marques先生と面談をする機会がありました.今回の先生との面談では,現代語における「現在完了」の用法や,意味論的観点に基づいた分析方法について話し合いを行いました.現代語の用法については,特に,2013年秋にグルベンキアン財団より刊行された「Gramática do Português」(同書において,Rui Marques先生は,法(ムード)の章をご担当されています)等,最近の研究における記述に関して,先生のご意見をいろいろと伺うことが出来ました.
現代ポルトガル語の直説法現在完了(Pretérito Perfeito Composto)は,助動詞terの直説法現在形と本動詞の過去分詞によって形成され,過去に始まった状態が発話時(またはそれ以降)まで継続する様を表す際に用いられます.つまり,扱われる事象は,その名に反し,未完了アスペクトであり,形式の表す意味は,述語動詞の種類により,「(状態の)継続」または「(行為の)反復」となるとされています.
ポルトガル語も,その歴史において,現代ロマンス諸語の多くに見られるような,「完了」を表していると考えられる用例が確認されています.また,当該形式の,俗ラテン語から現代ホ?ルトカ?ル語に至るまて?の意味機能の変遷については,これまて?の諸研究においていくつか仮説か?立てられており,博士論文においては,大規模な資料体から得られたテ?ータを用いて,これらの仮説の検討を行いたいと考えています.
テキストにおける実際の用例を分析する際,その例において形式がどのような意味を表しているかを判断するのは必ずしも容易ではありません.関連する先行研究においては,研究者が文脈から判断し記述する場合が多く,また,その判断の根拠は必ずしも明確にされない場合も多く見られました.例えば,Cardoso e Pereira (2003)1は,前後の文における動詞の時制や,当該形式と共起する副詞節を手がかりに,用例における形式の表す意味について分析を試みています.しかし,副詞節が共起する例は非常に限られており,用法を特定するための情報が少ないケースも多くあります.
また,現代ポルトガル語には,直説法現在完了とは別に,terが,過去分詞によって修飾された目的語を支配する形式が存在し,こちらの形式は,結果構文(resultative construction)であるとされています.現代語では,これら2つの形式は,形式的にも意味的にも区別されていますが,そもそも両者はともにラテン語における形式(habeo factum)を起源に持つと考えられており,当然の事ながら,中世語においては,両者の区別がまだ明確ではありません.
Ulrich Detge (2000)2は,中世スペイン語における「tener+過去分詞」を分析するにあたり,構文の主語が,過去分詞で表される動作の主体であるか否かに基づき,2つのタイプ(resultative I / resultative II)に分類し,それぞれの特徴について考察を行っています.同研究は,Resultativeからperfectへの文法化の過程を,意味論的観点及び語用論的観点から考察を行っている点で,非常に参考になると考えられます.
この他にも,Mafalda Frade (2011)3のように,オリジナル版との比較対照を通じた分析等,今回のRui Marques先生との面談では,用例の分析を行う上で,参考となるような先行研究の方法論について,優位な点や問題点等を話し合いました.現段階では,上述した諸研究からできるだけ多くの有効な判断基準を採用し,分析を行う方針でおりますが,より客観的な分析を行えるような方法論については,今後も先生方と議論を行っていく予定です.
1 Pereira, Susana & Cardoso, Adriana, 2003. "Contributos para o estudo da emergência do tempo composto em português". Revista da ABRALIN Vol. 2, n. 2, pp: 159-181.
2 Detge, Ulrich (2000). Time and truth: The grammaticalization of resultatives and perfects withina theory of subjectification, Studies in Language 24:2, 345-377.
3 Frade, Mafalda (2011). Teer/aver + particípio passado no 'Livro dos Ofícios' do Infante D. Pedro. In Diacrítica. No prelo.