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2013年10月 月次レポート(蔦原亮 スペイン)

10月月次レポート
マドリード自治大学
蔦原亮

 今月はナバラ大学における国際学会で口頭発表を行った。ナバラ大学はナバラ州パンプロ―ナというピレネー山脈のふもとの街にある私立大学である。キャンパスは広く、小高い所に登ればピレネーの雄大な姿が見える。敷地の大部分は森に覆われていて、森の中に近代的なデザインの建物が点在している(このため、キャンパスに入るたびに道に迷って困ったが)。キャンパス内には有名な「サンティアゴ巡礼の道」が走っており、学生や教授たちに交じってホタテガイをぶら下げたバックパックを背負った巡礼者たちがひっきりなしに行きかう。アカデミックな雰囲気の中にかすかな異国情緒が漂う、そんな詩的なキャンパスを持つ大学であった。今月、マドリード自治大学は大規模な学生デモの中で、器物が壊される、構内の至るところに不吉な落書きがなされる、デモ隊がデモに参加しない学生を恫喝する、どさくさにまぎれてメディアルームのパソコンが盗まれる、等々、詩的とは真逆の状態にあったため、長閑で美しいナバラ大学の風情は一層身に染みるようであった。

 派遣者の研究発表のテーマはスペイン語の総称文の形式による三分類を提案するというものであった。今回の学会はパネルがかなり細かく区分されていたこともあり、有意義な意見交換と同時に、同じようなテーマの研究を行っている多くの研究者と知り合いになることができた。また、ナバラ州はバスク文化圏に属するため、「バスク語学」というユニークなパネルもあった。このバスク語学に関する発表をいくつか聴いたが、いずれも非バスク語話者を念頭に置いたわかりやすいもので、見習うべき点が多くあったように思う。
 プログラムの発表一覧を眺めていて印象的だったのは、語彙意味論とスペイン語教育に関するものがとても多かったということである。今回の学会だけでなく、他の学会においてもこの二つの分野は活発のようで、スペインにおける言語学のトレンドが垣間見られたようで興味深かった。
 今回の学会は若手言語学者協会のもので、派遣者は昨年も同じ学会に短期派遣EUROPAの援助により派遣させていただいており、今回は二度目の参加である。この学会に出席する最大の利点は同世代の、同じようなテーマの研究をしている研究者?大学院生と知り合えることにあると思う。他の参加者の研究発表や、彼らと交わす議論から得られるものは多い。そして同世代による素晴らしい研究を見聞きするたびに、「もっと頑張らなければな」という思いを新たにできる。これもこの学会に参加する効用だろう。今年も世界各国の同世代の研究者と知り合い、派遣者同様、昨年に引き続いて参加した研究者らとの再会もあり実に楽しく、刺激的な三日間であった。
 来月はこの学会で得られたフィードバックや気づきを現行の研究に反映させ、推し進める。

[ご報告]
 今月、五月に申請した来年度日本学術振興会の特別研究員DC2の審査結果が開示され、ありがたいことに面接免除で採用していただけることになりました。申請書類においては、スペイン語圏という広大な地域で展開されている理論や動向、伝統を英語というフィルターを通さずに咀嚼し、取り入れ、活用することができること、つまり自分が本プログラムの理念を体現する研究者であることを強調しました。実際に、現状の私はそうした素晴らしい研究者であるかと問われると、苦しいところではありますが、少なくともこの「日?英語だけではない、第三の視点を持った研究者像」は私の理想であり、その理想に近づくことを目指しながら、日々研究に励んでいます。この指針が、公募という本学の外でも評価されたということを大変嬉しく思いました。
 この指針は自然発生的に現れたものではなく、本プログラムを通じて徐々に徐々に形成されていったものです。三度に渡って私に機会を下さった本プログラム委員会の皆様への感謝の気持ちは常に持ち続けていますが、改めて感謝の言葉を述べさせていただきたく思います。多くの機会を与えて下さったこと、様々な面での援助、本当にありがとうございます。

 

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