2012年4月 月次レポート(水沼修 ポルトガル)
ITP-EUROPAレポート(4月)
水沼 修
現在、私が参加している文献学(Crítica Textual)のゼミでは、16世紀のGarcia de Resendeの作品の校訂を行なっています。ゼミの参加者の大部分が、言語学を専攻する学生ではないということもあり、この校訂作業では、専門家ではない一般の読者が現代語の知識を用いて作品の内容を理解するために最良と思われる転写の規則が採用されています。当該作品には、1521年の印刷本と1528年の印刷本があるため、言語的?表記的なヴァリアントにも最低限の注意が払われてはいますが、これまで"保守的"な転写の規則に則った校訂本に触れることが多かったので、この"現代的"な校訂が新鮮に感じられます。
今月は、指導教官及び副指導教官を担当していただいている先生方との面談がありました。面談では、データ収集作業の進捗状況について報告を行った上で、研究に使用するコーパスの再検討や、具体的な分析項目等について、先生方と話し合いを行いました。
今回の面談では、特に、「所有」を表す本動詞としてのhaverとterの交替についての議論が中心になりました。この現象を扱った先行研究としては、代表的なものにブラジル人の研究者Mattos e Silvaによる研究があります。同氏は、13世紀~16世紀の各時代の代表的なテキストにおける「所有表現」について、haver及びterの所有対象物を三種(「獲得可能な物質」、「獲得可能な非物質、または、性質」、「譲渡不可能、かつ、所有者と不可分な性質」)に分類し、各カテゴリーにおけるhaverとterの交替のプロセスを調査しています。
現在、自分が収集しているデータと照らし合わせることで、Mattos e Silvaが導き出した仮定を検証しているところですが、個人的には、その方法論、特に、所有対象物の分類方法について再検討する必要があると考えています。この点については、今回の面談で、先生方から貴重なご意見を伺うことができましたが、明確な答えを見出すには至らなかったため、今後の課題となりました。
haverとterの「所有表現」以外の用法(「存在」、「前置詞+不定詞」等)についての調査も並行して行い、これらの用法におけるhaverとterの交替のプロセスと、複合時制形式における交替のプロセスの間に見られる関係を明らかにすることが当面の目標となります。