2012年4月 月次レポート(横田さやか イタリア)
月次レポート 2012年4月
博士後期課程 横田さやか
派遣先:イタリア、ボローニャ大学
復活祭を迎えた今月は、連休のお祭り気分も手伝って街がようやく春めいて見えた。報告者は平常通り博士課程のセミナーに出席しつつ、研究を進めた。最も有意義であったことは、イタリア未来派のダンスとドイツ表現主義ダンス、そして日本のアヴァンギャルド?ダンスを中心に「踊る身体」について考察した論文をボローニャ大学の指導教員にみていただき、ご指導をいただいたことである。明確さに欠ける箇所を指摘していただき、客観的に書き直すことができた。執筆した文章をネイティブ?スピーカーに読んでもらい誤りを指摘してもらったり、一定期間寝かせておき改めて自分で再読したりする作業を繰り返してきた結果、イタリア語によるアカデミック?ライティングの問題、とくに日本語での論文執筆との差異、そしてそれに対する自分の弱点を具体的に自覚し、確信をもって執筆に向かえるようになったと感じている。
また、今月は指導教員の計らいでまたとない舞踊鑑賞の機会も得られた。ボローニャと同じくエミリア=ロマーニャ州に位置するモデナの市立劇場において、シルヴィ?ギエム(Sylvie Guillem)の公演を鑑賞したことである。6000 miles awayと題されたこの演目は、三作品(Rearray、27'52"、Bye)から構成され、振付家にはそれぞれウィリアム?フォーサイス(William Forsythe 1949-)、イリ?キリアン(Jiri Kylian 1947-)、マッツ?エック(Mats Ek 1945-)が顔を揃える。日本でも人気の高いギエムの素晴らしさはここに繰り返すまでもないが、かつて『ボレロ』を劇場で鑑賞し、命のあることに感謝せずにはいられなかったほど全身に感動を味わったときとはまた異なる、新鮮な感覚を味わったことが印象的だった。それは、身体のすみずみにまで神経が行きとどき、観客を吸い込んでしまいそうなほどの存在感をみせるギエムの舞踊を目前にしながら、日本の舞踏家大野一雄の踊る姿を重ね合わせるかのように無意識にみていたことだった。大野が車椅子で踊り続けたように、ギエムもまた数十年先も絶えず踊り続けて欲しい、その「進化」を見たい、という期待のような思いだったかもしれない。前世紀を通して、バレエの現代化はひとたび幕を閉じたかに見えるが、「踊る身体」はいまもなお進化し発展し続けていることを実感させられた公演だった。尚、6000 miles awayという公演タイトルには、ちょうどフォーサイスとともにロンドンで演目のレッスンをしていたときに起きた日本の震災を受け、ギエムからの日本の被災した方々へのオマージュの意が込められているとリーフレットに記されていた。
写真:報告者の鑑賞したバルコニー席からの劇場内の様子。当然、舞台全体を正面から見渡すことは不可能だが、こうした伝統的劇場建築での舞台鑑賞のおもしろさは、かつて劇場が舞台鑑賞を第一目的とした場ではなかった劇場建築史を身を以て感じることにあると思う。