2012年3月 月次レポート(横田さやか イタリア)
月次レポート 2012年3月
博士後期課程 横田さやか
派遣先:イタリア、ボローニャ大学
氷点下の続いた冬がようやく終わりに近づき、今月は太陽の恵みも感じられる陽気になった。先月から継続して同じテーマに取り組む一方で、今月は、ダンスに関するシンポジウムに参加し、テクノロジーを取り入れたダンスからストリートダンスまで、とりわけビデオ?ダンスからパルクール(Parkour)まで、現在進行形のダンス/パフォーマンス活動に密着した視点での研究発表を興味深く聴く機会を得たり、「ダンスと研究」の集まりに参加したりと、目前の課題に集中しながらも外からの刺激も多いに受けながら過ごすことができた。
また、平行して大学院のセミナーにも出席した。なかでもここに記しておきたいのは、ウンベルト?エーコ教授による文系専攻の博士課程在籍の学生を対象とした講義を聴講したことである。講義の内容は文献表の作成についての技術的なご指導で、それは1977年に出版され現在も尚論文を執筆する学生たちのバイブルとなっている卒業論文執筆の手引き書Come si fa una tesi di laurea (邦訳『論文作法?調査?研究?執筆の技術と手順』谷口勇訳、而立書房、1991年。)を引用したものであった。派遣開始とともにイタリア語での論文の書き方を学ぶために既に本書を読了していた報告者にとって、その内容を教授ご本人の声でおさらいできたことはこのうえなくしあわせなことだった。御年80歳とはとうてい感じられないほど快闊にユーモアを交えて講義をされるエーコ教授の授業に出席できるとは、数年前ならとうてい考えられなかった機会であり、自分の置かれている研究環境がどれほど貴重な時間を提供してくれているかを改めて実感した。
ひたすら自分の研究テーマに向き合っている時間は、どうしても木を見て森を見ずの状況に陥りがちで、ややもすると自分の足元を見失いかねない。しかし、今月は、ITP-EUROPAから派遣していただき最良の研究環境を与えていただいていることのありがたさや、こちらで研究を進めることによって自身の研究がいかに充実したかを再確認する機会が重なり、改めて自分の目標を明確に定めることができたと思う。
そのようななか、本学の指導教員である和田忠彦教授の還暦記念にと有志によって作成された論文集が、編集作業をされた方たちの尽力によって今月遂に予定通り出版されたこともまた、大変嬉しい出来事だった(『和田忠彦先生還暦記念論文集Per i sessant'anni del professor Tadahiko Wada』土肥秀行、橋本勝雄、住岳夫編、双文社印刷、2012年)。サプライズでお祝いをしようと出版作業が長期間極秘に進められたため、執筆した拙論について作業中に指導教員にお話をできなかったことはなにかと不自由をともなったが、かえって出版が心待ちにされ、お誕生日に合わせて出版されたときには(掲載していただいた論文の内容に反省点が多々あることは次へ活かすしかないとして、)晴れ晴れしい気持ちになった。このような機会に参加させていただいたことは、指導教員や所属ゼミ生らとの出会いに恵まれている幸運を実感し、強い励ましとなった。さらに、出版と同時期に、和田忠彦教授がイタリアの文化財?文化活動省より翻訳における国家勲章を受賞され、そのセレモニーのために来伊された折りにお会いすることができた。近況報告をさせていただき、研究者としての自分の視座を定めるにあたって広い視野で助言をいただけたことにたいへん助けられた。
さて4月は気温も和らぎ過ごしやすくなる一方で、気候の変化に体調を崩しやすい季節でもある。体調管理に気を配りつつ、暖かな陽気に冬の間に凍りついた体をゆるめながらいっそう研究に邁進したい。