2011年1月 月次レポート(石田聖子 イタリア)
月次レポート
(2011年1月、博士後期課程 石田聖子)(派遣先:ボローニャ大学 [イタリア])
ボローニャでは今年も賑やかに新年の到来が祝われた。花火やスパークリングワインをお供にしての陽気な年越しはイタリアでは珍しくないものの、ボローニャの年越しといえば、町の中心に位置するマッジョーレ広場にしつらえられるVecchioneと呼ばれる古い年を象徴する人形へと点火する行事が恒例だという。昨年はそれを知らずに見逃してしまったため、今年こそはと派遣者も新年を迎えるにあたりマッジョーレ広場へと赴いた。人形の姿は毎年変わるというが、今年のVecchioneは王冠を載せたカエルをかたどったものであった。経済危機を象徴するのだという。人形とはいえ、高さ12メートルという立派な像である。事実、年越しの瞬間に火を放たれたそれが空を真っ赤に染めるほどに大きな炎を上げて燃え上がる様子は圧巻であった。
今月は、先月開始したアキッレ?カンパニーレの著作、及び、批評記事の精読作業を引き続き行いながら、具体的な論理構成を練った後、月後半には、論文執筆を開始した。パラッツェスキとカンパニーレとは並列的に名指されることが少ないことから、まずは、そのふたりを結びつける点を明らかにすることでカンパニーレ論への導入を図っていく。ところで、派遣者の博士論文全体におけるカンパニーレ論の位置付けについては当初より明白でない点があることから、現在、その点をいかに調整してゆくかに頭を悩ませている。博士論文全体の構成に変更を施す可能性も含めて、近く、派遣先大学指導教員と面会し、指導を仰ぐ予定である。
ところで、生活の面に関し、今月はさまざまなトラブルを経験した。まず元旦に自宅の水道管が破裂し、数日後受領した滞在許可証に有効期限が申請通りに反映されていないことが判明し、さらに、体調を崩し、ATMにキャッシュカードが飲み込まれたのである。それぞれ対応に追われることとなったが、月末に至り、いずれの件についても、事態は収束へと向かいつつある。さて、これら一連のトラブルであるが、なにより派遣者において貴重な教訓を残すこととなった。個人レベルでは、異国の地で遭遇するこれら不測の事態にいかに動揺することなく所定の調査研究をこなすかが問われたことから、精神面におけるまたとない鍛錬の機会となった。個人を越えるレベルにてはまた、現実的に有益な助言や支援、温かい励ましや好意を関わった多くのひとから受けたことから、現在の自分がいかに周囲に支えられているかを実感させられた。独自に設定したテーマを追究する研究活動にては、独善に陥る危険性も高いことから、当然のこととはいえ、折りに触れてこの事実の確認を行い自覚することは重要であると考える。また、今回のトラブル対処中には、同一事象をめぐり日本とイタリアの双方に意見を求める機会も多くあったが、その対応の違いにそれぞれの国民性をみる良い機会となり、イタリアへ批判的眼差しを向ける日本人である派遣者には多くの示唆を与えてくれることともなった。これらトラブルを経て得た教訓は、従って、今後の生活はもちろん、研究にも積極的に活用していきたいと考えている。
最後になったが、今月半ばには、日本への一時帰国を実施した。以前より計画していた用事を済ますことができたのはもちろん、この機会に、今回のトラブルを通じて新たに必要となった書類の入手他手続き等を日本にて行うことができたのは実に不幸中の幸いであったといえる。事情を汲み、一時帰国及びその延長を承認してくださったITP-EUROPA委員会の皆さまには改めてお礼を申し上げたい。
マッジョーレ広場での年越しの様子。左側の写真奥で燃え上がるのがVecchioneである。