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2013年3月 月次レポート(佐藤貴之 ロシア)

活動報告(3月)

執筆者:佐藤貴之
派遣先:ロシア国立人文大学

 今月は学会報告の準備、論文執筆に集中した。以下、詳細。
 昨年の11月はゴーリキー記念世界文学研究所で国際学会「20-21世紀のロシア文学における喜劇性」が開催されたが、研究所が論文集の刊行準備に入ったことに伴い、拙論「М.ブルガーコフの戯曲におけるソヴィエト作家の喜悲劇的表象」の提出が求められた。そのため、今月はまず拙論の完成稿作成に集中した。論文のロシア語は派遣先大学のロシア語センター長V.トルファーノワさんに見ていただいた。センター長にはいつもお世話になっている。この場を借りて、お礼申し上げたい。
 月末は立て続けに開催されたゴーリキー学会に参加して拙論「日本におけるM.ゴーリキーの戯曲『どん底』の現代的解釈について」を報告した。ゴーリキーは3月28日が誕生日であり、今月はロシアの各地でゴーリキー学会が開催されたようである。3月25日は前述の世界文学研究所が主催した「M.ゴーリキー生誕一四五周年記念国際学術会議」で研究報告を行った。こちらは馴染みの研究機関とはいえ、そうそうたるゴーリキー研究者を前に、とても緊張してしまった。
 学会終了の翌日に当たる26日の夜、モスクワのカザニ駅から寝台列車に揺られること14時間で、ロシア連邦タタルスタン共和国の首都カザニ市に到着した。到着日の27日はカザニ市にあるゴーリキー記念博物館の方々が作家にゆかりのある市内の場所を詳細に案内してくださった。なかでも、青年のゴーリキーが自殺未遂をはかったカザンカ川の景色には感銘を受けた。その翌日はカザニ国立文化?芸術大学を訪れ、全ロシア?ゴーリキー学会「M.ゴーリキーと現代:文化的空間の統合」(タタルスタン共和国文化省、タタルスタン共和国民族博物館、カザニ国立文化?芸術大学、ゴーリキー記念博物館主催)に参加して研究報告を行った。会場にはロシア全土からゴーリキー研究者が集まったほか、現地の大学で勉学にはげむ学部生の皆さんも多く足を運んでおり、執筆者としては学生を相手に講義をしているような心地がしたため、楽しむ余裕をもって研究報告することができた。
 学会に参加して得られた認識として、今日のロシアにおいて積極的に進められているゴーリキー創作再評価の現状が挙げられる。ゴーリキーは「社会主義リアリズムの父」として、ソヴィエト権力と非常に密接な関係を持っていた。そのため、弾圧された作家の側からすると、迫害者のレッテルを張られることが多く、今日の日本におけるゴーリキー研究は停滞している。ただし、ソ連時代は刊行されなかったゴーリキーの書簡集によれば、ゴーリキーもまた「社会主義リアリズムの父」としての役割を演じさせられていた側面が見えてくるようになった。つまり、弾圧するものと弾圧されるものの境界は非常に曖昧であり、権力側に組した作家を一概に批判することはできない、という認識が強まっているのである。ゴーリキーはまさに時代を生んだ作家でもあり、研究対象のピリニャークとも深い関係を持っている。ゴーリキーの創作にもう一度立ち返ってみたいと思わせる学会であった。
 また、カザニ市へ足を運ぶのははじめてであったが、モスクワとは違い、治安がよく、民族間の衝突が少ないという印象を受けた。タタルスタン共和国はスラヴ人とタタール人の割合がほぼ均等で、両民族間で衝突が起こらないための文化政策が採られているようだ。その例として、市内の公共看板はロシア語とタタール語の両方で表示されている。また、共和国の警察は正常に機能しており、路上で暴漢に出くわすなどのトラブルもなかった。学部生の皆さんには、留学先としてお勧めしたい場所である。

以上

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