2013年12月-2014年1月 月次レポート(近藤野里 フランス)
ITP-EUROPA
月次レポート2013年12月?2014年1月
近藤野里(パリ第8大学)
ITP-EUROPAによるパリ第8大学への派遣における最後の月次レポートとして2013年12月および2014年1月~15日の活動を報告する。12月および1月は主に研究発表の準備および研究発表それ自体に充てられた。
12月5日から7日にかけてパリで行われたJournees PFC 2013 (Phonologie du Francais Contemporain、現代フランス語音韻論)では、「Loi de position et longueur de voyelles a la fin du XIXe siecle - Analyse basee sur le francais decrit par Paul Passy (位置の法則と19世紀末の長母音、ポール=パッシーによるフランス語を基にした分析)」という題目での発表を行った。この発表では、国際音声記号の発明者として有名なPaul Passyがその発音記号を使用して記述したフランス語をコーパス(Le Francais Parle (1889))として、特に19世紀末に残存していた長母音、そして音節の位置による中舌母音の分布について調査したものについて報告した。フランス語の音韻論を専門とする研究者の前で研究発表を行い、コメントを得られたことは大変有意義であった。コメントの一例としては、Paul Passyの書Le Francais Parleは版を重ねるごとに少しずつ修正があるため、いくつかの版を比較することによって何か新しい発見があるだろう、という指摘があった。
次に、12月18日にパリ第8大学の言語学ラボの博士課程の学生によって主催された研究会でも研究発表を行った。Journee des doctorants(博士課程学生の日)という名の研究会は、博士課程に所属する学生の有志がテーマを選び、査読に始まり研究会の運営を行うものである。フランスではこの種の研究会の発表公募はよく見かけるものである。当初この研究会で発表する予定はなかったが、発表者数が足りないという主催者の呼びかけで、既述のPFC 2013での発表を少し短くしたものを発表することを依頼された。既に発表内容も完成していた上に、人前でフランス語を話す練習にもなると思い、参加することに決めた。この研究会では、「Le langage oral en diachronie: etat des lieux du systeme vocalique du francais a la fin du XIXe siecle (通時における話し言葉、19世紀末のフランス語母音体系の確認)」という題目で発表を行った。
最後に、2014年1月6日から8日にかけてイギリスのケンブリッジ大学で行われたフランス語通時言語学国際学会 (SIDF, Societe Internationale de Diachronie du Francais)でも研究発表を行うことができた。1月5日にパリからロンドンを経由してケンブリッジに向かった。ユーロスターに乗るという経験ができたこと、学会参加のために他国へ行って普段とは違う外国の雰囲気を味わえることは嬉しかった。ケンブリッジは複数のキャンパスが点在する学生都市であるが、今回の学会は市街地の中心部からは少し離れたキャンパスで行なわれた。冬のイギリスは15時過ぎには太陽が落ち始めて17時には外は真っ暗になり、朝9時から夕方18時まで学会に参加した後は疲れきっていたため、ケンブリッジの街を見る余裕はほとんどなかった。学会は会場が複数に分かれていたため、配布された発表内容のレジュメから興味のあるものを選び聞きに行った。最も印象に残ったのは英語学の Merja Kyto教授の発表である。彼女の発表によって、言語の共時態を観察するだけでは説明できない事象が、通時的な観察によって上手く説明できる、このような事実を改めて再確認できた。私自身は、「La liaison dans le francais parle du XIXe siecle -Analyse basee sur Le Francais Parle (1889) de Paul Passy (19世紀末のフランス語におけるリエゾン、Paul PassyによるLe Francais Parle (1889) に基づいた分析)」という題目で発表を行った。
ケンブリッジからパリに戻った1週間後が日本への帰国日であった。学会発表が続いたために疲れが出ていたが、帰国直前もフランス国立図書館へ通い博士論文の執筆を行った。帰国前日に指導教員のBrandao de Carvalho教授と面談を行い、博士論文について今後やるべきことの確認を行った。
2014年1月15日に無事日本に帰国した。今後も、博士論文の完成に尽力したいと思う。