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2013年11月 月次レポート(蔦原亮 スペイン)

11月次レポート
蔦原亮
マドリード自治大学

 今月は学会発表のようなアウトプットの機会も特になく、淡々と研究を進められた。重点的に行ったのは動詞を名詞化する接辞、-cion, -miento(それぞれ概ね、英語の-tion, -mentに相当する)の語彙意味論的分析である。
 名詞化接辞に関する先行研究の多くは、接辞そのものというよりも、接辞によって動詞から派生された名詞の性質に主眼を置くものであった。名詞化した動詞は基の動詞からどのような統語的価値を引き継ぐのかという統語的な問題、特定の動詞派生の名詞は基の動詞の表す動作のプロセスとしての解釈、および、その動作の結果の事物としての解釈という異なるタイプの解釈を同時に持つがそれは何故なのか、どのようなタイプの派生名詞がこうしたハイブリッドの解釈を持つのかという意味論的問題が特に活発に議論されてきたようである。
 現在派遣者が取り組んでいるのは、そうした統語論的にも意味論的にも、様々な興味深い振る舞いを見せる派生名詞を派生する名詞化接辞にはどのような情報が含まれているのだろうかという語彙意味論的問題である。同様の問題意識に基づく研究として、Lieber (2004)の英語の接辞の分析、Gaeta (2006)のイタリア語接辞の分析などがある。スペイン語の名詞化接辞の語用論的分析を行った先行研究の数は少なく、貢献の余地があると思われる。そして、上述の先行研究で接辞の持つ情報として報告されているのは、項構造と語彙アスペクト、そしていくつかの意味論的価値である。派遣者の観察によれば、名詞化接辞には総称性に関わる情報も含まれているように思われるが、その点についてはこれまでにとくに論じてこられなかったようである。この点も追及していきたい。
 英語の対応する接辞同様、スペイン語の両接辞は特に意味機能の点で類似しているように思われる。最終的には両接辞の持つ情報を明らかにすることで、両者はどのような点に於いて共通し、どのような点で異なっているのかということを明らかな形で示したい。今月は両接辞の差異をまず明らかにするために、同じ動詞から派生した-cion名詞と-miento名詞のペア(perfeccion, perfeccionamiento)を収集し観察を行った。同じ動詞から派生した二つの名詞の差異は恐らく動詞を派生させる接辞の性質の違いに還元できると考えられるためである。約60のそうしたペアを収集し、それぞれの派生名詞の持つ意味役割やアスペクト、動作主性などについて考察した。来月はこうして一つ一つ観察した派生名詞の性質を念頭に置き、より一般的な派生の方向性などを探っていく。

 

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