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2011年6月 月次レポート(石田聖子 イタリア)

月次レポート
                            (2011年6月、博士後期課程 石田聖子)(派遣先:ボローニャ大学 [イタリア])

 今月に入り暑さがより一層厳しくなってきた。昨年の同じ時期に比べていまだしのぎやすいようには思うものの、集中して作業を進めるにあたっては、空調設備の整った図書館に赴くか、涼しい早朝か夜間の時間帯を有効的に活用することがますます肝要に感じられる今日この頃である。
 さて、講義、ゼミのすべてが終了した今月は、時間を専ら自身の研究にあてる生活を開始した。今月上旬には、カンパニーレに関する章の執筆を終了、イタリア語チェック、推敲を終え、ボローニャ大学指導教員に提出し、指導を仰いだ。一方では、さっそく、チェーザレ?ザヴァッティーニ(Cesare Zavattini: 1902-1989)を中心的に考察する次章の執筆準備を開始した。博士論文の最終章にあたる同章は、20世紀という時代とその時代を特徴づける様々なメディアを自在に横断しながら活動した同作家の初期文学?映画作品を、イロニーと並んで20世紀の笑いの主要な形態であるユーモアという観点から考察し、ザヴァッティーニという作家の意識とその作品にみられる表象を20世紀的笑いに関する表象というより大きな展望のうちに位置づけることを目的とするものである。現在は、関連資料の精読を進めながら、同章導入部にあたるカンパニーレとザヴァッティーニの複雑な関係に触れる箇所の執筆を行っている。
 執筆作業の傍らでは、博士論文の補遺とする予定である諸資料の収集も開始した。具体的には、博士論文の考察の対象となる各作家に関する研究所、資料館等にそれぞれ電話?メールを通じて連絡をとり、資料の所在や出版にかかる手続きの確認を行った。パラッツェスキ関連資料に関しては今月中に出版手続きを済ませ、来月初めには、ザヴァッティーニに関連する資料の入手のためにレッジョ?エミーリアに在するザヴァッティーニ?アーカイブを訪問する予定である。ザヴァッティーニ?アーカイブでは、資料の入手はもちろんのこと、関心を共有する研究者との直接的交流も期待されることから、今からとても楽しみにしている。
 今月中にはまた、博士課程の学生の年度中間報告会に参加し、派遣者も、研究テーマの概要と今年度前半に提出した成果の報告、博士論文の具体的構成と今後の展望、現在までの論文進行状況を報告した。ずらりと居並ぶ所属学科教授陣と、才気煥発な博士課程所属他学生を前にしてのプレゼンテーションは、仮借ない批判が飛ぶことも度々で、今回が三度目の参加となる派遣者にとってもなかなか慣れる場ではないというのが本音である。事前に充分に準備をして備えたおかげもあり、プレゼンテーションも滞りなく行え、また、教授陣からの質問に過不足ない応答をするなど際立つ問題こそなかったとはいえ、今回もまた、イタリア語による表現能力をはじめとした口頭発表に付随する諸々の問題の意識的な向上に努める必要を痛感する機会となったのはたしかである。
 ところで、今月末25日には、修復映画祭「Il Cinema Ritrovato 2011」がボローニャにおいて開幕し、派遣者も日々通っては貴重なフィルムの数々を鑑賞する機会を得ている。また、映画館内での上映が終了しようやく日が暮れる夜22時からは、恒例の野外映画上映会が、今年もボローニャ中心地に位置するマッジョーレ広場で開催されている。カンパニーレとの関連でテレビを考察するなかで映画の備えるマジカルな力を再認識することとなったが、この野外上映会に参加することでは、そうした映画ならではの力がことさらに説得力をもって迫ってくるように感じている。とりわけ、ボローニャ市立歌劇場付属オーケストラの伴奏付きで上映された『ノスフェラトゥ』(F. W. ムルナウ監督、1921年)と『月世界旅行』(ジョルジュ?メリエス監督、1902年、カラープリント)は、その意味で、幻想性が高く特に印象的であった。このような映画の性質に関しては、ザヴァッティーニの映画経験を考えるにおいて重要となることからも野外上映会への参加は派遣者において大変多くの示唆に富む経験となっている。
 
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            マッジョーレ広場で野外上映された『ノスフェラトゥ』(左)と『月世界旅行』(右)より。

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